真夜中の怪 三話

蕃茉莉

第1話

一。


 夜中に目が覚めた。

 時計は、02:04。

 カーテンが開けっ放しだった。

 カーテンを閉めようと窓を見ると、外から窓いっぱいの顔が、目をぎょろぎょろさせて部屋をのぞいていた。

 目が合うと、おおきな顔がにたりと笑った。

 あまりの恐怖に声も出せずにいると、やがて顔はすっと消えて、闇だけが残った。



二。


 夜中に目が覚めた。

 時計は02:04。

 最初は、なんで目が覚めたのかわからなかったが、やがて、外から、かん、と音がすることに気づいた。

 石を鑿で刻むような音だ。

 かん。

 かん。

 音が次第に近づいてくる。

 音の正体はわからないが、なにかよくないものが近づいているように感じる。

 かん。

 かん。

 布団の中で恐怖に震えていると、音は窓の近くまで来て、止んだ。

 それでもしばらくは布団に潜り込んでいたが、音が止んだのでおそるおそる布団から首を出すと、


 かん。


 耳元で突然、その音がした。

 心臓を冷たい手でわしづかみにされたような心地で、動くこともできずにいると、音はそれきり止んで、闇だけが残った。



三。


 Aさんは、一見穏やかで優しいひとだが、よく、そこにいないひとの悪口や噂話を言っていた。

 そういう話をしたいとき、Aさんはいつもちょっと首をかしげて、

「あのね」

 と上品そうな顔に笑みを浮かべるのがくせだった。


 そのAさんが亡くなった。

 お通夜に行った日の夜。

 夜中にふと目が覚めると、部屋のドアのところにAさんが立っていた。

 Aさん?と声をかけると、Aさんはちょっと首をかしげて、

「あのね」

 と上品そうな顔に笑みを浮かべた。

 その瞬間。

 まるでうしろから大きな掃除機に吸い込まれるように、Aさんの姿が、ひゅぅっ、と消えた。

 時計を見ると02:04。あとには、闇だけが残った。

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真夜中の怪 三話 蕃茉莉 @sottovoce-nikko

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