誰が殺した……
タカテン
a,sole
真夜中は魔夜中。
あ、もうオチが読めたとかは言わないで欲しい、お願いだから。
「んっ……んんっ……ああっ!」
深夜2時。
築40年の木造アパートに住む私は、今夜も聞こえてくる上の部屋からの艶めかしい声で目が覚めた。
彼らもこのアパートの壁の薄さは熟知しているのだろう。だから誰もが寝静まったこんな時間に、しかも出来るだけ声を出さぬよう気を付けているのが私にも伝わってくる。
だから時々堪えきれず零れてしまう、まるで女性のような喘ぎ声には気付かないであげるのが礼儀というものだ。
が、さすがにこの状況で再び寝るのは難しい。
私は上のふたりに気付かれぬよう物音ひとつ立てずに部屋を出ると、夜の散歩へ繰り出した。
夜の街は薔薇が咲き乱れていた。
まったく皆さん、性が、いや精が出ますな。若いことはいいことだ。
と言って私も決して枯れた歳ではない。ましてやこの魔夜中では、誰もが美少年と化す。たとえ普段は『へちゃむくれ』『つぶれ肉まん』『顔面フマキラー』などと称される私であっても、この法則は確実に働く。おそらくはこの散歩中にも美少年キラーと呼ばれる連中に声をかけられるはずだ。
「すみません、警察の者ですが……」
「MI6のエージェントですか?」
「いえ、ただの警官です」
ただの警官という割には不思議な容貌をしている。まるで眼鏡をかけた玉ねぎだ。魔夜中にあってこの風貌……タダモノではあるまい。
「こんな夜遅くに何をしているのですか?」
「いえ、ちょっと眠れなくて散歩を……」
「申し訳ありませんが、身分証明書を見せていただけますか?」
言われて私はすっと懐から身分証明書を取り出した。
たとえ散歩と言えど、これだけは常に肌身離さず持っている。埼玉にほど近いこの練馬では、うっかり身分証明書を忘れると密入国した埼玉県民と間違えられることもあるのだ。
「……なるほど。確かに練馬区民の方ですね。失礼いたしました」
「いえいえ、お仕事ご苦労様です」
「埼玉県民は?」
「草でも食ってろ!」
私たちはにこやかに挨拶を交わして別れた。
魔夜中の散歩は続く。
考えるべきことは沢山あった。国際ダイヤモンド輸出機構の暗躍。美しさは罪。ミーちゃんはいつまで永遠の28歳なのか。
そして誰がクック・ロビンを殺したのか……。
ああ、真夜中は魔夜の中、それにつけても金の欲しさよ。
誰が殺した…… タカテン @takaten
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