深夜通りの探偵は真夜中に動く。
荒音 ジャック
深夜通りの探偵は真夜中に動く。
真夜中の商店街にある深夜営業の店が並ぶ通りにて、狭い路地の通路で、ひとりの少女に酔っぱらった中年のサラリーマンに絡まれていた。
「嬢ちゃん家出でもしたの? こんな時間だし良かったらおじさんの所に泊まっていきなよぅ!」
少女は「あの、私大学生なんですけど!」とサラリーマンに言って、通り抜けようとするが、狭い通路故にサラリーマンは体を傾けて通せんぼするせいで通れない。
回り道をしたくなかった少女は困っていると「ああ、いたいた!」と少女の後ろから若い男性の声がした。
少女は声の方を振り向くと、紳士服に身を包んだ若い男が、こちらに来て少女に向かって「帰りが遅いと思って向かいに来てみれば、こんなところで何してんの! ほらもう帰るよ」と言って、少女の手を引こうとすると、サラリーマンは「何ぃ? お兄さんこの子の知り合いなのぅ?」と尋ねてきたため、男は「同居人だよ」と答えるとサラリーマンは怪しむような目で「そう言っちゃってぇ! 本当はやましいこと考えてんじゃないのぅ? 警察呼んじゃおうか?」と言ってきたため、男はサラリーマンに向かって歩み寄り、威圧するようにこう言った。
「呼びたきゃ呼べよ? お前自分が勤め人だからって警察から疑われないと思ってんなら大間違いだぞ?」
男の威圧で少しは酔いが覚めたのか? サラリーマンはその場から怯えるように去っていき、男はその後ろ姿を見てフンッと小さく鼻を鳴らす。
「ひとりで家まで帰れる? 次は絡まれないように友達と帰るようにしな」
男は少女にそう言うと、少女は男の顔をじっと見て「もしかして……暁斗君?」と尋ねた。
「あれ? なんで俺の名前知ってんの?」
突然自分の名前を言われた暁斗は少女にそう尋ねると、少女は「私のこと覚えてる? ほら、中学の時まで家が近所だった姫子だよ」と名乗ったため、暁斗は当時の記憶が脳裏に浮かんで驚いた。
「えっ!? あの姫子? 背格好がとても二十歳とは思えないんだが……童顔だし」※暁斗・172cm 姫子・153cm
身長が低いことを指摘された「仕方ないじゃん! 高校入った途端に成長が止まったんだもん!」と返す。
そんな話をしていると、暁斗のスマホに通知が入ったため、暁斗はスマホを取り出して内容を確認する。
内容を確認した暁斗は「ゴメン! 呼び出し受けたからもう戻らないと!」と言いだしたため、姫子は「こんな時間に? いったい何やってるの?」と尋ねると、暁斗は「京町探偵社で働きながら大学に通っているんだ! さっきみたいに絡まれないように気を付けてね!」と言い残してその場から走り去って真夜中の街へ消えた。
翌日の昼、姫子は商店街にある「カトレアビルジング」と書かれた雑居ビルの前にいた。
姫子(カトレアビルジング……字、間違えてるし)
心の中でそんなツッコミを入れてから2階にある『京町探偵社』と書かれた表札のついた扉の前についたが、表札の下に【営業時間22時から5時まで、ご依頼は当ホームページのメールで】と書かれており、姫子は「夜食持って出直そ」と言って、踵を返してビルを出た。
そしてその日の夜、姫子はショルダーバッグを肩にかけて京町探偵社へ向かっていた。時刻は真夜中の10時過ぎ、深夜営業の店しかやっていない商店街の通りを歩いていると、通りの隅に立ってスマホを弄っている暁斗を見つける。
姫子は「暁斗!」と声をかけると、暁斗は顔を上げて姫子を見て「姫子! どうしてここに?」と尋ねた。
「昨日のお礼をしようと思って京町探偵社に行くところだったの」
それを聞いた暁斗は通りにある一軒のお店の方を見てからこんなことを言い出した。
「ちょうどいいや、そこのお店で少しお茶していかないか?」
暁斗はそう言って『真夜中デート専門喫茶店・深夜カフェ』と言う店を右手で指した。店の前まで来ると入り口に【男女ペア以外入店お断り】の注意書きが書かれていたため、姫子は少し察してしまう。
店員に案内されて席について飲み物を頼んでから姫子は暁斗に「ひょっとして浮気調査でもしてるの?」と小声で尋ねると、暁斗は「そっ! 気取られないように気を付けて!」と言って飲み物を飲みながら自分たちから離れた席に座っているカップルの方を店内を見回すように見る。
「ねえ、どうして探偵なんかやってるの?」
姫子の問いに暁斗は「うーん、姫子が引っ越してから色々とあったからね……」と言って京町探偵社で働くことになった経緯を話した。
「小さい時に蒸発した父親の借金が原因で、ヤのつく人たちに攫われたんだ」
それを聞いた姫子はあまりにも突拍子過ぎる話に、プーッと飲み物を噴いてから「ちょっと待って? 母子家庭なのは知っていたけど、それとどういった関係があるの?」と尋ねると、暁斗は攫われた後のことを話す。
「京町探偵社の職員のひとりが俺の姉さんと仲が良くて、姉さんが俺を助けるよう依頼して、探偵社が借金を一括払いで返済してくれたおかげで俺は助かったんだよね。ただ、依頼料の支払いができるほどのお金がなかったから、依頼料が支払い終わるまで探偵社で働くことにしたんだ」
それを聞いた姫子は「そんなことが……」と驚いていると、暁斗はスマホを取り出して「写真撮ろうか」と言いだして姫子の方によって自撮りでツーショット写真を撮る。
暁斗が仕事中であったことを思い出した姫子は「上手く撮れた?」と尋ねると、自分たちの後ろでキスをしているのがハッキリと写っているカップルがいた。
暁斗「バッチリ写ってるね。あの人たちが帰ったら俺らも出よう」
少し経って、店を出た2人は夜の商店街を歩いていた。
姫子「ねえ、今度遊びに行っていい? ご飯作ってあげるからさ」
暁斗「別にいいけど、来るなら夕方にしてもらっていいかな? 基本昼まで寝てるし、大学もあるからさ」
そんな話をしながら探偵社の前まで来たため、暁斗は別れることを告げる。
「じゃあ、俺は今から調書を作成しないといけないから!」
暁斗はそう言って別れようとしたその時、姫子は「そうだ! これ良かったら食べて!」と言ってショルダーバッグからラップに包まれたパンを取り出して暁斗に渡した。
暁斗はそれを受け取りながら「これは?」と尋ねると、姫子は「ミートボールスパゲティを食パンで挟んだヤツ! 小学校の遠足の時に「コレ好きなんだ!」って言ってたでしょ?」と答える。
そして、暁斗は調書を作成しながら、姫子から貰った夜食を食べることにした。シンプルに食パンに肉団子が3つ入ったミートボールスパゲティが挟んであり、暁斗はノートパソコンで調書を作りながらかじりつく。
(……上手いな! ミートボールスパゲティなんて久しぶりに食べた)
調書の作成が終わる頃には空が白んでおり、暁斗は席から腰を上げて「うーん!」と両手を上に上げて体を伸ばして外に出た。
(朝か……今日の業務は終了だな! 姫子の作った夜食美味しかったな……今度遊びに来てくれた時にまた作ってもらおう!)
そんなことを考えながら眠い目を擦って、暁斗は帰宅した。のちに姫子は暁斗の家に通い妻をするようになるのだが、ソレはまた別のお話……
深夜通りの探偵は真夜中に動く。 荒音 ジャック @jack13
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