第2話 なんか色々応援いただけたので、お礼の追加です。

『さぁ、本日もやってまいりました、このお時間。そう、その整った容姿と艶やかな黒髪を靡かせ、数多の挑戦者の純情を屠ってきた絶対王者。その名も綾乃! そして、今回挑んできたのは……な、なんと、岩津邦彦! その人だぁっ! 言わずと知れた前回の挑戦者は、なんとその日の放課後に再戦を挑んで来ているっ! 岩津邦彦、この男のメンタルは化け物なのかぁっ! さぁ、既に校門を出て三分が経過……お互い、まだ距離を探り合うかのように手を伸ばしても触れ合う事の出来ない距離を保ち歩いています! だが、この滲み出る緊張感と道行く多くの学生達がギャラリーとなり、迂闊に動けない。このまま探り合いで終わるのか? どう出る? おっと、ここで先に仕掛けたのは岩津邦彦、距離を詰め頭ひとつ分低い綾乃の顔を覗き込む! 歩きながらに覗き込む、高度な技術をここで使ってきたぁ! これはバスケ部で培った体捌きが活きているぅっ!!」


「綾乃ちゃん、本当によかったの? 無理してない?」


『さぁ、少し俯く綾乃を覗き込みながら、さりげなく牽制と共に放たれた初撃。コレに対する王者綾乃、どう対処するのか——おっと、なんと無言っ! 無言で頷く綾乃、相変わらずあざとい笑顔を貼り付け、『お前の攻撃なんて避けるには及ばない』そう暗に訴え、王者の風格をあらわにするぅっ! さぁ、この切り返しにバスケ部エース、引退前にも関わらず練習を放棄してまで再戦を挑んできたチャレンジャーはどう対応するのかっ!』


「そ、そう? ごめんな、その……休憩時間に急にあんな事言って。本当ならもっと俺を知ってもらってからって思ってたんだけど……その、綾乃ちゃん可愛いから、誰かに取られる前にどうしても伝えたくてさ」


『岩津邦彦、この鉄壁の王者に臆する事なく突っ込んでいくぅっ! 少し赤い頬を掻きながら、華麗な言葉のドリブルを刻み王者綾乃のゴールを奪いにいくっ! コイツはファールを恐れて居ないのかぁっ!? な、なんとっ更に猛然と攻めに行くぅぅぅっ!』


「あ、でも本当に嫌だったらあるちゃんと言ってね?」


『さぁ、このままレイアップで王者綾乃のゴールネットを揺らすことは出来るのかぁっ!? さぁ、王者綾乃がついにその牙を剥くのかぁっ!?』


「だ、大丈夫です——その、私も岩津先輩のこと……知りたい、です」


『なんと、ここで岩津の流れを断ち切りに行くぅ! 小悪魔な潤んだ瞳と、返り血で染め上げた様な頬と耳、あざとい笑顔でバスケ部のエースから流れをインターセプトしたぁっ! どうしたっ、岩津邦彦ぉっ! その足が止まってしまう。茫然自失、まさにその様な表情を浮かべ、手にして居たはずの試合の流れを、会話のボールと共に奪われ、自身のゴールネットが揺れるのを眺めているぅ! このまま終わるのか? 残り時間はそう多くは無い、刻一刻と試合終了のホイッスルが近づいていく。苦境に立たされた挑戦者岩津邦彦は取り返せるのか?』


「あ、えっと……ありがとう?」


『おおっと、コレはいけない。王者を目前にバスケ部のエースが弱みを見せてしまう。強固な精神力からくるタフネスと、カウンターとして放たれるはずの速攻が見る影も無い! コレはもう決まったか……決まってしまうのかぁ!?』


「じゃ、じゃあ俺に聞きたいことってある?」


『だめだぁっーーーー!! 完全に戦意が削がれているぅ。王者綾乃の術中にハマり、抜け出せないぃぃっ!』


「じゃ、じゃあ……岩津先輩って電車通学なんですか?」


『王者綾乃、足の止まった挑戦者岩津に合わせ立ち止まり、岩津の手からボールをカットするぅ! これはこのまま、ワンサイドゲームになるのか? なってしまうのかぁっ!?』


「えっ、あ。うん、快速で二駅先なんだけど……」


「そうなんですか? あそこって確か大きな公園や植物園が有名なんですよね?」


『さぁ、王者綾乃、駅まで残りわずかなタイミングで追い討ちをかけていくぅ。この女に容赦という言葉はないのか?』


「うん、ウチの近くだよ。植物園とか好きなの?」


「あ、いえ、その行ったことなくて……行ってみたいなぁって」


『苦し紛れの挑戦者岩津の反撃を、なんと行ったこととない上に、興味もなかったはずの王者綾乃はスイッチで切り返すぅ! えげつないまでに、その手のひらで踊らされる挑戦者岩津があまりに惨めだぁ! 再戦を挑んでおきながら、まさかの防戦一方。そして、王者の貫禄を見せる綾乃——さぁ、戦いは最終局面、駅のロータリーにはいったぁ。綾乃の使うバス停までは、およそ一分! 駅改札とは真逆の位置、さぁココで審判の口にホイッスルが咥えられます。最後まで良いところを見せれないのか? それとも、再戦を挑んだ意味を見せつける事ができるのか? さぁ、岩津邦彦——いった! ついに王者綾乃が外したシュートをリバウンドし、今試合初の速攻だぁっ!』


「じゃ、じゃあ、今度の休みに一緒に行ってみない?」


「え、あ、はい。その、でも部活は……」


「問題無いよ、風邪で休むからさ」


『速いっ! 速すぎるぅ! あっという間に王者の鉄壁を乗り越え、遂にゴールネットを揺らしたぁ! 紅くなり無言で頷いた綾乃をバス停に残して、そのまま試合終了のホイッスルが鳴らされるぅ! この試合、最後の最後で王者綾乃が痛恨のミスをし、その瞬間を捉えた挑戦者岩津。あっという間にデートの約束に漕ぎ着け、颯爽と去っていく後ろ姿に次戦の期待が高まっていくぅ! おっと、ココで実況のお時間が無くなってしまいました。次回も楽しみにお待ちいただける方は下のチャンネル登録よろしくお願いします。それでは、また次回の実況で——』













  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

脳内実況がうるさ過ぎて、イケメンに迫られても全く心が動きません。私はどうしたらいいのでしょうか? 今澤麦芽 @bakuga-imasawa

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ