脳内実況がうるさ過ぎて、イケメンに迫られても全く心が動きません。私はどうしたらいいのでしょうか?

今澤麦芽

第1話 脳内実況が、うるさすぎる。

「なぁ、生駒さん。いや、綾乃ちゃん俺と付き合ってくれないか?」


 右手を私の顔の横に突きながら、目の前のブロンドカラーに染めた目に掛かる前髪を左手でかきあげ、その下の茶色の瞳を細め、彼——バスケ部のエース、三年の岩津くんは告げてきた。


 私は、鈍く痛む頭痛に耐えながら、なんとか笑顔でその気持ちに応えようとする。なぜ、頭痛がするのか? それは、この状況に至るまでを是非とも追体験していただき理解して欲しい。そして、わかって欲しい。


 決して私は彼の事が嫌いでは無いのだと、出来たら、そのままお付き合いすらしたいと。


 では、皆さんを私の体験した世界へとご案内します。


◇◇◇◇◆◇◇◇◇


「生駒さん、少しいいかな?」


『おおっとぉ、人が多い廊下でいきなり声を掛けてきたのは……なんと、バスケ部のエース! 岩津邦彦、その人だぁっ!!』


「えっと、はい。大丈夫です」


「じゃあ、あっちでいいかな?」


『でたぁっ! 爽やかに笑い、そのブロンズカラーに染めた髪を靡かせ、スマートにエスコートしたぁっ!』


『コレは来るのか? 来たのかっ!? さぁ、向かう先は……なんとっ! 人通りの少ない裏庭だぁっ!! 風に揺れる木の葉と、柔らかく射す春の日差しが彼のブロンズカラーの髪を引き立たせるっ!』


「あ、あの先輩……ですよね? 私に何のお話が?」


『おおっと、ココでとぼけてあざとい視線と潤んだ瞳で見上げる綾乃! それを受けた岩津はっ、どうだっ! 効くのか? 効いてしまうのか? おおっと、コレは抜群の効果を発揮したぁ! なんと、耳を赤くし、頬を指でかき、視線を逸らしたぁっ! あざといっ、あざとすぎるっ! 綾乃の計算高さと小悪魔が垣間見える一撃だぁっ!!』


「い、いや、その——俺は、岩津邦彦。バスケ部の一応エースやってるんだ」


『さぁ、照れてペースを乱された岩津、ここから立て直せるのか? どう出る、岩津邦彦ぉっ!』


「でさ、その。前から生駒さんの事気になってて……」


『岩津いったぁっ! ダメージを受けてなお、即反撃に移る、流石はバスケ部のエース! 取られたら取り返すっ、速攻だぁっ!! おおっと、さらに猛攻を仕掛ける岩津、な、なんとっ、コレは壁ドンだぁっ! 綾乃の顔と耳が紅く染まるぅ! このまま行くのか? 行ってしまうのか?』


「なぁ、生駒さん。いや、綾乃ちゃん俺と付き合ってくれないか?」


『岩津いったぁっ! ブロンズカラーに染めた髪をかきあげ、流し目を送りながら渾身の告白だぁっ! さぁ、対する綾乃の反応はっ!? なんとっ、頭を押さえて首を振る! コレは否定かっ! ごめんなさいなのかぁっ!』


「あ、ごめん生駒さん。うん、そうだよね。初めて声かけられて、そんな事言われても困るよね……」


『おおっと、ココで岩津、綾乃を気遣い見事なイケメンムーブだぁっ! さらに身体を離し、綾乃の答えを聞かずに去っていくぅ! さぁ綾乃はどうでる? なんと、その場でかがみ込んだぁっ! 小悪魔な行動で、誘ったにも関わらず追うことすらしない、まさに悪魔! 何故か涙を流して、首を振るがあまりにも滑稽だぁっ! おっと、ここで今回の実況終了の時間が来てしまいました。では、また次回イケメンに言い寄られたタイミングでお会いしましょう。綾乃は彼氏が出来るのか? 楽しみですねぇ、それでは面白かったと思ってくれた皆さん、画面下のチャンネル登録お願いします。それではまた、次の実況で』



◇◇◇◇◆◇◇◇◇


 そう、この脳内実況のせいで全く会話に集中出来ず、絶えず脳内に響く癪に触る声と煽りのせいで酷い頭痛がするのだ。


 そして、そんな脳内実況に、負け笑顔を崩し、眉間に皺まで寄せ頭を抱えて座り込み、涙を流す私は本当にどうしたら良いのでしょうか?


 誰か答えをください。

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