午後の授業って

 午後二時を回った教室。昼ご飯を食べてそろそろ消化が始まるころの、眠い時間。そんなときに限って厳しい先生だったりする。科目は数学、先生は厳しいことで有名な西村先生。寝ようものなら容赦なくチョークが飛んできて、大体目標の生徒の額を捉える。しかし、今日に限っては違った。

「すまん、今からちょっと出張なんだわ。今日は自習で、課題は数学課の山口先生に提出するように」

 そう言って、先生は教室から消えた。自習はじめの方は、課題の難しさに頭を抱えながら、みんなプリントへ向かっていた。自習中盤に差し掛かると、頭のいい数学上位の生徒は解き終わったのかあくびをしながら、終わってない友達に解き方を教え始める。

「なぁなぁ」

 と、後ろの席に座る友人が話しかけてきた。

「おまえプリント終わった? わりぃ! 見せてくれね?」

 彼はいつもギリギリになってプリントを丸写しして、期限のギリギリに提出する。授業の初めに自習が決まった時も、

『ラッキー! 眠いし寝ちゃおーっと』

 と、すやすや寝息を立てて寝ていたのである。

「またかよ、いい加減自分でやらないと点数落とすぞ」

 僕があきれ顔で言うと、彼は頭をかきながら反論する。

「点数とってるんだからいいだろ~。この前だって点数あんま変わらなかったじゃんかよ」

 友人は授業やテスト対策講義を寝て過ごし、なぜかテストを受けるたびに80点オーバーをたたき出す。カンニングを幾度となく疑われたが、文章題回答の仕方が他の生徒と全く違うため結論として自力だという判定になった。

 本人曰く、『教科書通りにやれば解ける』らしいが彼と同じ方法で同じ点数に至った生徒は居ない。プリントが返ってきたので後ろを振り返ると、彼はすでに寝ていた。

「かける、お前またしょうにプリントみせてたの? 俺は見せなくていいからさ、解き方教えてくれよ」

 一つ席が前の友人も僕に声をかけてくる。彼の名前はやまと、授業やテスト対策講義を最前列で受け、授業中の指名での正解率はクラストップなのに、なぜか…テストでは赤点ギリギリを取ってしまうやつだ。

「わかった、どこから教えようか。今日のはずいぶん意地悪な問題だったしな」

 やまとの分からないと言っていた問題を、一問一問教える。公式などはばっちり覚えているので、幸い教えるのが難しいというわけでもない。最後の一問を解き終わるのと時を同じくして終業のチャイムが鳴った。チャイムの音で静かだった教室は、雑談や携帯から出る音声であふれかえる。その音で寝ていた生徒も起き上がり、各々の時間を過ごし始める。

 次の授業までの短い時間で、僕らはたくさんのことをする。この学校にいられるのもあと数日、思い残すことが無い様に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雨音~雨のち晴れ~(短編集) 小雨(こあめ、小飴) @coame_syousetu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る