おやすみの唄【短編集】

作者 新代 ゆう(にいしろ ゆう)

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★★★ Excellent!!!

生きることは煩わしい。
ままならないことばかりで、ありとあらゆる存在が、私に向かって敵意を剥き出しにしている。
とりわけ人という生き物は、鋭い牙を見せつけるようにいやらしい微笑を浮かべながら、大丈夫だよ、平気だよ、心配ないよ、と優しい言葉をささやきつつも、私をこころをひそかに腐す。
ぼろぼろと溢れ落ちたそれは、鼻につく臭いを放ちながら、さらに人を遠ざけ、私はついにはひとりとなる。


カミュは『シーシュポスの神話』のなかで、以下のように書いている。

"自殺というこの動作は、偉大な作品と同じく、心情の沈黙のなかで準備される。当人自身もそれを知らない。ある夜、かれはピストルの引き金を引く、あるいは身を投げる。……略……。思考をはじめる、これは内部に穴があきはじめるということだ。こういう発端に社会はあまり関係していない。蝕み食いあらしてゆく虫は、外部の社会にではなく、ひとの心の内部にいる。"

はて、私の思考が私のこころを蝕み食いあらしていたのだろうか。
はたまた、外部的ななにかが私を傷つけ、消耗させ、壊そうとしているのだろうか。

私にはわからない。

「生きる」ということを続ける理由を、人はなぜか、明確に持ち合わせているものだと思い込んでいる。だが実際には、昨日と今日を繋ぎ、今日と明日を繋ぎ、日常を形作っていくことに理由もなければ意味などない。(という思考は、いくらか私のこころを食いあらしているかもしれない。)

つまり、私の生は無意味だ。

多くの人はおそらく人生の過程において一度はこの陥穽にはまる。そこには甘い死への誘いがある。
にもかかわらず、なんでもない日常や惰性、習慣が、穴を少しずつ埋めてしまう。死の誘いが、疎ましい生からの逃避が、緩やかに薄れて消えていくのだ。
昨日と今日が同じで、今日と明日が同じで、連続した時間への確信こそが、私を生かしている。


作中、印… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

自殺をテーマとした短編集。
私小説風の文体で丁寧に重ねられた言葉たち。その一つ一つが生と死のせめぎ合いを演出しています。

自殺をテーマにし苦悩や葛藤を掘り下げる作品は苦さだけが残ると言う人もいます。また、落ち込んだ人は闇の部分に惹きこまれ死を美化するとも言われます。

ですが私は闇があるから光が際立ち、苦悩があるから希望が煌めく捉えています。
本作は死に向き合う事で生を浮き彫りにし、辛い現状に苦悩する事で日常の鮮麗さを描いていると思います。

多くの方に読んで頂きたい良作短編集。
是非是非!