第3話 あぜみち

 5時のチャイムが鳴る前。

 ねこは部室でぬりえの手伝いをしていた。


「終わらない」

「だから言ったんだよ。もう少し早めにしておくべきだってね」

「そんなこと言わないでよー。はぁー、ねこ、何かお話しない?」

「お話し?うーんそうだね。じゃあ一つ。これは、ある若いOLが、帰りに畦道あぜみちを歩いていた時なんだけど……」



 その日私は、電車に一本遅れて夕方近くに帰っていた。

 私は実家暮らしで、都会から田舎に毎日戻らないといけない。


「はぁー、今日も帰り遅くなっちゃった。もう向こうに住もうかな。でも、家賃は高いし、今のままじゃなあー」


 だから私はこんな田舎が好きじゃない。

 早く出世して、絶対こんな田舎になんか戻ってこないんだから。私はそう誓って、拳を握る。


 すると、

 ベチャ!

 私は泥を踏みつけた。


「もうやめてよ。明日も仕事なのに」


 私は靴の裏についた泥を睨んだ。

 私の家に帰るには、田んぼの真ん中にある畦道を通らないといけない。

 畦道は田んぼの間にある道のことだ、よく土や泥が飛び跳ねるから、すぐに汚れて嫌になる。


「はぁー。もう最悪」


 私はため息を吐いた。

 イライラしてしまい、私は余計に田舎が嫌いになった。

 そんな中、


 ケタケタ


「えっ?」


 そう聞こえてきた。

 しかも後ろからだった。


「気のせいかな?」


 私は気にしないようにして首を横にぶんぶん振る。

 そうして気を保ちながら、もう一度歩き出そうしたが、


 ケタケタケタケタ


「また?」


 また聞こえてきた。

 しかもさっきよりも近づいてきていて、音も大きい。まるで誰かがケタケタと笑っているようで、その途端、私は一つ思い出した。


「そう言えば前にお婆ちゃんが話してたっけ」


 近所に住んでる昔から優しいお婆ちゃんが、小さい頃に話してくれたことがあった。

 前にこの近くの田んぼで事故があって、子供が窒息死ちっそくししたことがあったそうだ。

 その子供はよく笑う子で、それ以来、その子が死んだと思われる夕方になると、たまにケタケタと笑う声が聞こえるらしい。

 それから、その子供は自分と遊んでくれる子を待っていて、絶対に振り返っちゃいけないとか、言ってたっけ。


「まあそんなの迷信迷信。あるわけないって」


 私は鞄の紐を強く握りしめる。

 そんなのただの噂。私は気にしないようにしていたけど、歩き出すとまた聞こえてきた。


 ケタケタケタケタケタケタケタケタ


 近い。今度はさっきよりも近い。

 しかも明らかに笑い声の数が増えてる。


「もう、何?誰かが私をからかってるの!」


 私は怒鳴った。


「いい加減して、もう帰るから」


 それから私はまた歩き出す。

 すると今度は聞こえなくなって、かと思いきやまたしばらくすると、


 ケタケタケタケタケタケタケタケタ

 ケタケタケタケタケタケタケタケタ


 うるさい。うるさいうるさい。

 もうやめて。本当にしつこい。

 私はイライラして、奥歯を噛み締めたけど、ここは大人として無視することにした。

 次やったらもうゆるさいけど。と、思い歩き出すが、


 ケタケタケタケタケタケタケタケタ

 ケタケタケタケタケタケタケタケタ

 ケタケタケタケタケタケタケタケタ

 ケタケタケタケタケタケタケタケタ


 さっきよりも声が高い。しかも大きくなっている。


「もうやめてって言ってるでしょ!」


 こ、怖い。一体何なのよ!こうなったら正体を突き止めてやるわ。

 私は振り返った。

 いや、振り返ってしまった。そこにいたのは何だったのかな?だけど一つだけわかることがある。


「その日から、毎日ケタケタ笑い声が聞こえるようになったんだって」

 

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奇怪怪談 水定ゆう @mizusadayou

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