第2話 ぷにぶどう

 5時を告げるチャイムが鳴る前。

 今日も一人の人物、百木ネコは高校終わりに赤い本を片手に、広場のベンチに座っていた。


「あっ、猫のお兄ちゃんだ!」

「やぁまた来たんだね。おや?」


 すると今日は一人ではないみたいです。


「お母さんですか?」

「はい。この子がどうしてもって」

「そうですか。ありがとうございます」


 百木ネコは笑顔を見せます。


「お母さん、猫のお兄ちゃんのお話面白いんだよ」

「そうね。前に保育園に来てくれた時も、とっても面白いお話だったものね」


 そう言ってくれると嬉しい。

 じゃあ今日はあまり怖くないお話をしようかな。


「それじゃあ今日はこんな話を。これはある少女が行きつけのラーメン屋さんで体験した、少しハートフルな話だよ・・・」



 少女は行きつけのラーメン屋さんに来ていました。

 少女はここのラーメンが気に入っている、と言うよりも友達がやっているからという理由で、よく立ち寄っているようです。


「へいっ、醤油ラーメン一丁!」

「朱音ちゃん。こっちは、味噌と餃子ね」

「あいよ!」


 少女の友達は、家の手伝いがてら、部活のない日はこうして働いています。

 バイト代が出てもおかしくないぐらい働く少女の姿を、じーっと見ていました。


「ごめんなー、蒼。もうちょい待ってね」

「大丈夫だよ。それより、今日は新メニューって言ってたけど?」

「ああ。沖縄から取り寄せた海葡萄うみぶどうを入れてみた、特製ラーメンだ。名付けで、沖縄スペシャル!」


 完成図が非常に気になります。

 このラーメン屋さんは、決まった味は完成度が高くて人気ですが、その独特な新メニューや限定メニューはあまり好評ではありませんでした。

 よって、こうして少女の友達にたまに味を見てもらっています。そして今日の被験者は、この少女でした。


「それじゃあいただきまーす」

「はいはーい、召し上がれー」


 彼女は嬉しそうにしていました。

 それから少女が割り箸を割り、ラーメンの中にはしを入れると、少女は「あっ!」となりました。


「あっ、ぷにぶどうだ!」

「えっ、何それ?」


 彼女は尋ねます。

 すると少女はこう答えます。しかしどれも歯切れは良くない。


「えーっと、私も前にルーナちゃんから聞いたんだけどね、海葡萄の中にたまに混じってるんだって」

「へぇー」


 それから少女は続けます。


「ぷにぶどうって、とっても珍しくて、なかなか見つからないんだって」

「そうなんだー」

「それとね、甘くてでも塩味もあるんだよ」

「ちなみどんな見た目?」

「えっとね、マスカッとみたいな綺麗な緑色」

「そこはせめて葡萄って言ってよ」


 彼女は抗議します。


「えっ?でもマスカットも葡萄の仲間でしょ?」

「そりゃーそうだけどさ」


 何だか納得がいっていない様子です。

 ですが少女は最後にこう言い放ちました。


「でも一番は、やっぱり顔があることなんだよね」

「えっ?」


 彼女は目を見開きます。


「ぷにぶどうは顔が付いてて、食べると叫ぶんだよ」

「何それ、怖い」

「えへへ。ちょっとね、でも美味しいんだよ」


 そう言って少女はぷにぶどうを口にしました。

 すると少女と彼女はこんな声を耳にしたそうです。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!グチャ」


 ってね。

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