真夜中のコンビニ

ぬまちゃん

真夜中の散歩者は

「ふぁあああ、疲れたー。ああ、もう真夜中じゃないの!」


 彼女は大きい伸びをしたあとで、首をぐりぐりと回す。そして椅子から立ち上がり、足の屈伸をしてから両腕をぶんぶんと回す。


 もー、毎日毎日勉強してると煮詰まっちゃうわ。そうだ、魔物の見回りついでに、少し街中を散歩でもしてこようかな。


 * * *


「ふぇえええ、むっちゃ疲れたわー。なんや、もう真夜中になってもうた」


 彼女は大きい伸びをしたあとで、両手をゲンコツにしてこめかみに当ててぐりぐりする。それから目玉を上下左右に動かす。


 もー、毎日毎日ゲームしとると、肩も目も疲れてまぅがな。そーや、視力回復には外にでて星を見なあかん。それにお腹もへってもーたから、コンビニに行って夜食でも買ってこな。


 * * *


「はぁー、疲れた。やっぱり立ちっぱなしは辛いな。あ、なんだ、もう真夜中になってるじゃん。そろそろバイト上がりかな」


 彼は、腰に手をあてて小さく背筋を伸ばす。それから、お客さんに見えないテーブルの影で両足のふくらはぎを軽くたたく。


 本来、高校生の夜勤帯バイトは労働基準法上ダメなのだ。しかし現実的には、シフトの関係でごくまれに真夜中まで食い込んでしまう場合もありだった。彼のバイトはやっと終わり、彼は着替えのためにスタッフルームに消えていった。


 * * *


「はー。最近は飲み屋さんも、ファミレスも早く店じまいしちゃうから表通りも人の気配が無いわね。人がいない真夜中の街って、街灯の灯りが点いてから明るいんだけど、逆に不気味なのよね」


 魔物に出会ったらすぐに魔法少女に変身できるようにマジカルスティックを握りしめ、彼女はコンビニに向かって表通りをゆっくりと歩いていた。


「東京も、夜になると人がおらんくなるんやなー。都会いうても、大阪と変わらへんわ。あ、おった、おった、コンビニや。引っ越してまだ日ぃー浅いから、ウチ街の造りよーわからへんのよ。でも表通り歩いてれば、そのうちコンビニに当たると思うたけど、ドンピシャや!」


 お財布とレジ袋が入っているお気に入りのトートバッグを肩にかけて、関西弁の彼女はコンビニの中に入っていった。


「お弁当は、何にしよかなー」

 彼女は一番最初に夜食を選ぶために、コンビニの一番奥にあるお弁当の並んだ棚に向かった。


 ちょうどその時、コンビニ前の道をマジカルステッキをもった女性が通りかかる。

 そして通りに面したコンビニの大きなガラス窓越しに店内をちらりと覗き込む。


「あら、流石のコンビニでもこんな時間になるとお客さんがいないのね? 私もちょっとだけ入ってみようかな……」

 と思っていた矢先に、コンビニの大きな駐車場の一番端の場所、コンビニのまばゆいばかりの光が届かなくて薄暗くなっている場所に、何かが揺らめいた。


「え? まさか、魔物」


 彼女は、そう独り言をつぶやくと直ぐに魔法少女に変身しながら駐車場の端に向かって走り出した。すると、揺らめいていたナニカは駐車場の向こう側にある公園に向かって凄い速さで移動する。魔法少女は、そのナニカを追いかけて公園に消えて行った。


「さぁて、賞味期限切れの弁当もゲットしたし。早く帰って明日の小テストの準備でもするか。まあ、俺の隣のツンデレ女子は、山カンの天才だから大丈夫だと思うけど、さすがに何もしない、という訳にもいかないだろうしな」


 魔法少女が走り去った直後に、コンビニの従業員用の裏口から駐車場に出て来た彼は、明日の朝食の弁当を大切そうに抱えて裏通りに消えていった。


 彼が裏通りに消えて行ったとほぼ同時に、コンビニの表通りから関西弁の女の子が出て来た。彼女の手には、夜食とお菓子と飲み物が入ってパンパンに膨れたレジ袋が握られていた。


「ちょっと買いすぎてもぉーた。まあええや。これでもうひとゲーム楽しめるやろ」


 表通りを嬉しそうに歩く関西弁の彼女と、公園で魔物を退治している魔法少女、そしてさっきまでコンビニでバイトしていた彼が、明日同じ教室で小テストを受けるクラスメートだなんて、人生って不思議なめぐりあわせで出来ているんだな、と。


 そんなお話でした。


(了)

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