一緒に見上げた空には

緋雪

繋がっているね…

「あっ、今!今、北の方向。」

「家の中だから北は見えません。」

「あ、そっか。どっちだったら見える?」

「えーと、この部屋からだと、南と東かな。南の方がよく見えます。」

「そっか。じゃあ、その辺りで流れたら教えるから。」

「わかりました。見てますね。」


 私は匠海たくみさんと一緒に空を見ていた。真冬の真夜中、部屋の窓を開けたまま。大好きな人の大好きな声を聞きながら。

 匠海さんの声は、低音から少し高音になる途中に、凄く響く高さの音があって、電話でその音を拾うと、私は泣きそうになる。


「会いたい…。」心がギュッとなる。


しおりちゃん、大丈夫?ちゃんと温かい恰好してる?」

匠海さんが心配してくれる。

「大丈夫です。さっき、毛布も被りました。ココアも飲んでます。」

「そう。風邪引かないでよ?」

「匠海さんこそ、周りに何もないところなんでしょ?それでなくても、そっちは寒いのに…。」

「寒いのは慣れてるし、防寒対策もしっかりしてる…あっ!今!南の空!」

「あー、見逃した〜。」

「大丈夫。見逃したら、僕が撮った写真送るから。」  


 匠海さんが今いる所は、東北。私は、関西の一番西の方。だから一緒にはみれないね。って、一昨日の電話で私がポツリとそう言った。


 今夜の流星群。


 昨日、メールが入っていた。

「栞ちゃん、一緒に見よう。流星群。

夜、電話しながら。一緒に空を見上げよう?」

 

 嬉しかった。



 だから、今日、真夜中になって、彼と電話しながら、宇宙に広がる星々を見ている。


「あっ!」

「あっ!」

二人同時に声をあげた。

「見た?今の?見れた?」

「はい。見えました!凄い綺麗…」

「綺麗だったね~。」


「ホントに、一緒に見てるんですね。」

「そうだね。空は繋がってるんだね。」



 空は繋がっているんだ…。

 

 こんなに離れていても。

 あなたのところまでも。


 涙がこぼれた。



 互いのことを思って、好きだけど別れたのは、それからすぐ後のことだった。


…………。


 別れて4年後のこと、


 東北を大きな地震が襲った。大きな地震と大きな津波。私は生きた心地がしなかった。


 別れた人なのだ

 別れた人なのだ

 別れた人なのだ


 だけど一緒に流れる星を見た人なのだ。

 大好きだった人なのだ。



 何度も何度も電話して、途中で、電話は迷惑になると気付いてメールして、何も返ってこなくて、心臓の音が自分でわかるくらいになっていた。


 

 真夜中、メールが届いた。


「大きな地震だったね。栞ちゃんの所は大丈夫だった?地震が何より苦手な栞ちゃんのことが心配。」



 関西に住んでいる私に被害があるわけないのに。あなたは今、物凄く大変な状況なんだよ?何で、あなたは自分のことよりも私のことなんか心配するの?

 その優しさが悲しくて、何より匠海さんの無事がわかって、力が抜けて、ペタンと座り込んだ。溢れる涙を抑えることができなかった。


 別れたのに。

 別れたのに。

 何でこんなに好きだったのに…

 別れたんだろう…。



すぐにでも、匠海さんのところへ行きたかった。

少しでも匠海さんの力になりたかった。


だけど、もうそれはできない。



 私は2年前に、匠海さんは去年、

 それぞれ別の人と結婚した。


 互いの家庭を壊すようなことがあってはならない。



 「私は全然大丈夫です。とにかく匠海さんが無事で本当によかったです。私には何もできなくてもどかしいです。ごめんなさい。でも、どうか、諦めないでください。早くいつもの生活に戻れること、祈っています。」


 メールを返信した。



 あれから元気にしているだろうか…

 私は真夜中、また空を見上げる。

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一緒に見上げた空には 緋雪 @hiyuki0714

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