怪盗VS猫

カニカマもどき

第1話


 〇月〇日の午前0時、帝国博物館へ『ファラオの首飾り』をいただきに参上する―



 怪盗からの予告状を受け取った博物館。予告当日の警備は相当厳重なものとなった。警察官が博物館の外に15名。館内の要所に10名。『ファラオの首飾り』を置いた部屋に20名と1匹。


 ちょっと待て。

「おい、1匹とは何だ」

「はっ、警部。本官の飼い猫が1匹、警備に参加しております。猫の手も借りたい状況ですので」

 私は頭を抱える。


「猫の手も借りたいというのは例えだ。警備の現場で本当に猫が役に立つと思うか」

「でもほら、例の首飾りを凝視して動かない。警備する気は満々ですよ」

 猫の視線の先、ガラスケースの中にあるのは『ファラオの首飾り』。怪盗が狙っている品である。豪華絢爛な金の首飾りで、中央の円形部分は開閉式。大切な人の写真などを入れて持ち歩けそうだ。ファラオがいた古代エジプトに写真は存在しないが。


「猫をあなどってはいけません。夜目もきくし、微かな気配も感じとれるし、あと」

「あと?」

「現場もなごみます」

 なごんでどうする。



 そんな話をしていると、不意に館内の照明が消えた。しまった、怪盗の仕業か。いつの間にか犯行予告の時間になっていたようだ。

「来るぞ、怪盗に備えろ!」


 突然の停電に現場は大混乱。暗闇の中、部屋のあちこちで、足音や悲鳴が響く。

 ドタドタ。「早く明かりを!」バタバタ。「わっ、足元に何かいる!」ニャーゴ、フギャア。「落ち着いて!落ち着いて!」



 ほどなくして、部屋の照明が復活した。

「あっ、『ファラオの首飾り』がない!」

 驚いたことに、首飾りはガラスケースの中から消えていた。またさらに驚いたことには、その首飾りを、足元で2匹の猫が奪い合っていた。


 新たに現れた1匹の猫を警官が抱き上げる。

「この猫、怪盗のシンボルマークが入ったスカーフを付けている。どうやら怪盗の一味みたいですね。暗闇に紛れて、首飾りを盗みに来たんですよ」

 そんなばかな。



 後に判明したことだが、その猫は本当に怪盗の一味だった。

 騒動のすぐ後、猫を心配し迎えに来た怪盗を、警察が見事に逮捕。怪盗の自供により、恐るべき犯行計画が明らかになったのである。


 猫は夜目もきき、足音も立てず、高所も得意であることから、隠密に適している。さらには「猫は液体である」と言われるほど体が柔らかく、ガラスケースのわずかな隙間も通り抜けることが可能だ。

 また『ファラオの首飾り』は、古代エジプトにおいて、マタタビか何かを入れて持ち運び、猫とたわむれるために使用されたものらしい。古代エジプトで猫が大切に扱われていたことは有名である。

 そのマタタビの残り香に惹かれ、怪盗の猫は暗闇の中、首飾りを持ち去ろうとした。しかし、そこにもう1匹の猫が居合わせたのは怪盗にとっての誤算。警察側の猫は怪盗の猫と首飾りを奪い合い、結果として怪盗の計画を阻止することとなった。



 その後、お手柄猫は、警察で表彰され、SNSでバズり、一日署長なども務めたとのことである。

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怪盗VS猫 カニカマもどき @wasabi014

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