第2話 偶然、会った

高校一年生 柊なぎ

小学生の頃、父と母が離婚の末

母と二人で暮らす道を選んだ私

母は娘の私が言うのも気が引けるが外見が若い

それは年齢も関わってると思う

母は高校一年生、まさに今の私の年齢で

私を妊娠した。

馬鹿な親だ、愚かな親だ

子供を産んだ代わりに自分の人生を犠牲にする

それもこれからと言う年齢で


その時の後悔を取り戻すためか

父と離婚した後、男を取っ替え引っ替え作るようになった

だからといって、育児放棄はなく

むしろ、愛されていたと胸を張って言える

彼氏が欲しい女でも私の前では母だった

抱きしめて欲しい時は抱きしめてくれ

悲しい時がある時は一緒に泣いてくれた

母が大好きだった

だけど、そんな母の努力とは裏腹に私は欲が溢れていった

母にはずっと私のためにいて欲しいと

彼氏ができると楽しく男の話をし、私と入れ替えるように男とデートを重ねていた

私は母が好きだったのだ

だから、新しく出来た男を母が連れてきたとしても顔を合わせるどころか、明らかに避けていた

男なんていなければ良いのに

男がいなければ、愛する母は私だけの物になるのに

とずっと、念仏を唱えるように毎日思っていた


そんな私は高校の入学を機に家を出た

一人暮らしを始めた

母がとうとう男と同棲し始めたのだ

それを理由に家を出た

許せなかった

母は私でなく、男を選んだのだ


本格的な悲劇はこれからで一人暮らしをしたものの、お金が全く貯まらなかった

アルバイトをいくつも掛け持ちし、寝る時間も

削って働いて稼いだ

だけど、すべては生活費に消えていった

私はこれから、このままだと一人で餓死してしまう

そんなの嫌だ、嫌すぎる

もっと、給料の高いアルバイトが必要だ

そんな思いでスマホを手にどんどんスクロールしていく

スクロールしていた指が止まった時、私は自分自身に絶望した

これだ、これでいい

もう誰も私だけを愛してくれないのなら

これで生きていくお金が稼げるのなら

自分の体なんて、もうどうだって良い

そう思った末に私は体を売る仕事をはじめた


「お待たせ〜、待った?」

「ううん、待ってない。」

「…じゃぁ、行こうか」

行き慣れすぎた、廊下と階段

目の前で歩く人のスーツの皺に目がいき、

薬指には指輪がはめられているのを見つけた

こういう人に限って、罪を課せられることが少ないのを知っている

部屋に入ると「汗流したいから、シャワー浴びてくるね」と言って、シャワーを浴びに行く男

この待ってる時間って意外と暇

テレビをつけても、男女が体を重ねている映像しかないし、色が変わるライトは…もう飽きた

男の人ってこういう時シャワーがやたらと長い

ガチャと音がする方を向くと口角を上げて、

微笑む男

わざわざ、微笑みかけるなと思う

どうせ、体を抱きにきたのだから

「待たせたね、じゃぁベッド行こうか」

「その前に先に、貰っておきたいです。」

「そんな心配しなくても、終わった後にちゃんと渡すよ」

「いえ、これは決まりなのでお願いします」

「わかったよ」

とずっしりと重たそうな鞄を持ち上げ、高そうな財布を手に取ると札束を数え始めた

「はい、これでいい?」

「ありがとうございます」

今まで何時間も働いて、やっと手に入れていたお金が今では紙切れのような存在に見える

この紙切れを鞄に入れ、後ろを向くとベッドの上からこちらを手招いている

一歩一歩近づき、綺麗に敷かれているシーツに足をかけ、男の方へ近づくと手を握られる

その手から顔の方へ目線を上げると

男の顔にピントが合わなくなり、そのまま唇が重なった



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