えんじゅえる?

 気付いたら学校にいた。そして、黒板の前に立っていた。


 隣にはチョークを持った……先生かな? 先生はじっくりと僕を見つめている。


「先生、僕そんなに見つめられても……」


「じゃあ早く答えをかけ」


「えっっ」


 答え、答え。何を書けばいいんだ? ……そうか、答えを書けばいいんだ。


「はい書きました、先生」


「『答え』っていう字を書くんじゃない」


「………………」


 先生は淡々とそう告げた。ノリよくツッコむでもなく怒るでもなく。なんだつまんねえの。


「で、答えって何のことですか?」


「問題は書いてあるだろ。その答えを書くんだ。難しくないと思うが」


「わいわよんえっくすたす……日本語じゃないので読めません」


「ああそうか。じゃあ、代わりに西野」


「はい」


 西野? 誰だそれ、僕より頭がいいってのか?


 シュパッ!(席立つ音)タッタッタッ(足音)カキカキカキ(チョークで書く音)。


「正解だ、西野」


「これくらい簡単ですよ。人間ならだれでもできます」


 そうか、人間ならだれでもできるのか。まあ、俺、宇宙人だし、たぶん。バトルでは人間に負けないし。


「ねえあんた」


 なんか生意気な西野が話しかけてきた。


「私の名前は西野天使えんじぇるよ」


「えんじゅえる、名前きも」


「あとで何回か殴るけど私優しいから何回か寸止めしたげる。何回かは殴るけど」


「おお、ありがとう」


 けっこういいやつなのかもしれない。西本……覚えておこう。


「おい田村、橋本と仲がいいなら教えてやれ」


「わ、わかりました……先生」


 おっと、何やら新たな会話が聞こえてきた。先生が田村とか橋本とか言っている。田村はあの長髪の女子か。うわ真面目そうなやつだな。俺とは合わなそうだな。


「あの、じゃあシンジ、何も分からないとは思うけど、先生に対しては分かったような感じを出しといてね。そうじゃなきゃ私の教え方が悪いみたいになるでしょ」


「シンジって誰のことだ?」


「あんたのことでしょ」


 ああそうか、俺はシンジだったのか。


「それで、田村さんは橋本とかいうやつに教えるんじゃなかったのか? なんで俺なんかのところに来ているんだい?」


「あんたがこのクラスで唯一の橋本だからよ。ていうか田村さんっていう呼び方は気持ち悪いわね。クレノって呼んでくれるかしら」


 なるほど。俺が橋本か。橋本でシンジか。で、この人が田村でクレノなのか。ややこしいな。


 そう考えている隣で何やら暗号みたいにクレノが耳打ちしてくるが、何を言っているのか全く分からないので無視した。それから俺が席を立って黒板にチョークで落書きを始めると、とびきりの笑顔の先生と目が合った。


「じゃあ次、橋本。今度こそいけるよな?」


「いけないね」


「じゃあ座れ」


「いやだね」


「あのぅ~……」


 俺と先生との会話に混ざろうとしてくるかわいいクレノちゃん。そして、


「シンジは私が教えたのでこの問題解けると思います」


 とか言った。そうか、俺にはこの問題が解けたのか。改めて問題を見て見る。うん、暗号か。さっぱり分からない。――いや、そうじゃない。これは本当に暗号なんだ。だから分からない、解けないんだ。そう、それが答え!!


「この問題には答えがない、というのが答えだ!!」


「…………………………………………一瞬問題が間違っているのを疑ってみたがそんなことはなかったので、橋本は馬鹿だ」


「なるほど、俺は馬鹿だったのか」


「代わりに田村、答えてくれ」


「あ、はい。〇✕△□*:>~\|($#?]*!"(%==)」


 ちらりとクレたんのほうへ視線を遣ると、とても頬が赤くなっていた。とてもかわいい。ト〇カクカワイイ。

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