第50話

既に夏に入っているため、汐音の太ももを覆う布は何もない。

スカートを履いていたが、膝枕をするために今は軽くめくってくれているのだろう。

直に伝わる汐音の太ももはしなやかで弾力があって、それでいて、温かい。

女性らしい柔らかさに引き締まった筋肉が混じりあったような感触とでも言えばいいのだろうか。


このまま、寝ることができたら、普段使っている枕より間違いなく寝心地はいいだろう。

そう思えるほどに汐音の膝枕はとてもよかった。

おまけに汐音から漂う優しい甘い匂いがリラックス効果でもあるのか、ウトウトした気分を誘う。

テスト勉強の疲れが全て取り除かれていくような心地よさを感じながら、瞳をつぶると、汐音の手が悠希の髪に触れた。

そのまま、汐音の指が髪を優しく梳いてくる。


母親が子供を寝かしつけるような優しく柔らかい撫で方は絶妙な力加減で、癖になってしまいそうだ。


「矢城君は髪の手入れきちんとしてるのかしら?」

「いや、俺は特にしてないな、面倒だし」

「それにしては質感がある割にさらさらしてて、撫で心地が良いのだけど」

「なら、使っているシャンプーのおかげかもな」


今、使っているシャンプーは美月からの貰いものだ。

別に変な意味はなく、美月の知り合いに美容関連の仕事をしている人がいて、その人の好意で受け取ったシャンプーなどが、予想以上に多かったため、悠希が一部、引き取ることになったのだ。

美容関連のスペシャリストがおすすめするだけあって、シャンプーを使った後の、髪の触り心地が良いので悠希としてはとても愛用している。


「柏木の方は手入れしてるのか?」

「私は髪には結構、力を入れてるわ」

「だろうな、柏木の髪、触り心地よかったし」


汐音の髪質はつやつやでさらさら、それに近くによると、春のうららかさを感じさせるような甘い香りがする。

あれだけの触り心地で手入れしていないなどと言われたら、さすがの悠希も羨ましくなるところだった。


「そういえば、結構、柏木の髪触ってしまったけど嫌じゃなかったか?」

「別に嫌じゃないわ、……矢城君に撫でてもらうのは嬉しいから」


汐音の手入れの行き届いた髪を無遠慮に撫でまわしてしまったと、少し反省の意味を込めた悠希の発言に、汐音からとんでもない破壊力を持った言葉が飛んできて、悠希は汐音から視線を逸らすように顔を汐音の身体と反対に向けた。


そういうのは彼氏にでも言ってやれよと心の中で思ったものの、一瞬、汐音が他の男と楽し気に歩いている様子が思い描かれて、悠希は胸がチクりと痛むのを感じた。

その感情が何なのか確かめようとしたが……。

正体不明のざわつきは、汐音が体勢を変えた悠希を再び撫で始めると同時、霧散した。


汐音に撫でられる心地よさに思わず瞳を閉じてしまう。

このまま、寝てしまいたい。

そう思うほど、汐音の膝枕の感触と髪を撫でる優しい手つきが眠気を誘う。


「私の撫で方、変じゃないかしら?」

「……悪くないな」


気持ちいいと答えるのは気恥ずかしいと思った悠希の心を見透かしたのか、汐音がクスクスと甘い笑い声をあげる。

それすらも、子守唄のメロディーのように感じられて、悠希は汐音の膝を枕に意識を手放した。

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何故かクラスの天使様と同居することになってしまったドライな矢城君 皇 伶維 @Z_janhnis

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