第十話「同盟」

 とりあえず状況を整理してみようか。

 俺はたった今命懸けの勝負に勝った訳で、精魂尽き果てた状態で、何なら腰が抜けた状態で。

 で、腕の中に居るもふもふ狐耳の白髪美少女から求婚されていると。

 やべぇ、訳が分からない。でも何か良い匂いするし柔らかくてふわふわしてる。

 その手触りに惹かれて思わず頭を撫でていると、ほのかの細腕をスノウがぐいっと引っ張り上げた。


「ちょっと! あんた敵でしょ! そいつから離れなさいよ!」


 その言葉にほのかは小首を傾げた後、得心のいった表情でとんでもない事を言い放った。


「お前、旦那様のツガイなのです? ならさっさと子作りしてほのかに代わるのです」

「はぁっ!?」


 スノウ、赤面。音が出るような勢いで茹だった美少女は、あたふたと無意味に腕をばたつかせる。


「子作りって、あんたね!」

「何を慌ててるのです? 優秀な雄の血はたくさん残すものなのです」

「それはっ……! ていうか、そもそも私とそいつはそういう仲じゃないわよ!」


 あ、いや、うん。そうなんだけどさ。

 こうも力強く断言されるとマイハートがちょっと傷つくんだけど。


「じゃあ何をそんなに怒ってるのです?」

「ぐっ……!」

「よく分からないですけど、お前がツガイじゃないならほのかが貰うのです」

「それはダメッ!」


 グッドサインを上げたままだった俺の右腕を抱え込んでスノウが叫ぶ。

 しっかりと胸に抱かれたせいでわずかなふくらみが押し当てられて、何だか俺も叫びたい気分になった。

 すげぇ。俺の人生で一番好みの美少女の胸を押し当てられてるんだが。

 なるほど、これはアレか。頑張った俺に対する神からのご褒美か。

 いや待て、この世界だと神って敵じゃねぇか。じゃあもっと偉い誰かさんからのご褒美って事だな。

 ありがたく堪能しておこう。柔らけぇ。


「お前は何がしたいのです? 優秀な雄の独占は生物として間違ってるのです」

「ほのか、彼女は人族なのだから我々とは文化が違うのだ」


 見かねたラオウが口を挟むが、それでもほのかの攻撃は止まらない。


「ほのかはもう子どもを作れるのです。早くそこをどくのです」

「馬鹿じゃ無いのっ!?」


 何度目かも分からないが、スノウが吠える。対するほのかは至極冷静だ。

 獣人の文化は獣に近い特徴があるとは知っていたが、子孫繁栄に関しても似たような考え方らしい。

 ラオウもほのかの考え方が間違っているとは言ってないし。


 あれ? つまりこれってさ。

 俺この国だったらケモミミハーレム作れるんじゃね?

 強い雄認定されてるし、ワンチャンあるんじゃね?


 なんて思っていると、若干苛立った表情のラオウが握りこぶしを口元に当てた。


「……コホン。そろそろ今後の話をしたいのだが」

「今後なぁ。と言ってもやる事は一つしか無いと思うんだが」


 急に始まったシリアストーンの話題に、改めて頭を回転させる。

 この後の展開。国として、種族として、どのような動きを見せるべきか。

 そんなものは既に何度もシュミレート済だ。


「二週間後を目途に『ビースター』は『エルフェイム』に攻め込んでくれ。兵に被害が無い程度で構わない」


 その言葉にラオウの眉がぴくりと反応する。


「先ほどの兵器を以てしても、我々が森の引き籠り共に劣るというのかね?」

「そんなわけあるか。まともに戦えば絶対にお前らが圧勝するさ」


 獣人の並外れた身体能力に携行性と殺傷力に優れた銃器。

 更には超遠距離からの狙撃が可能となった『ビースター』が『エルフェイム』に負ける道理はない。

 だが、それじゃ駄目だ。エルフを滅ぼしたところで次は『ドワーフ連合』との戦争がはじまり、人族は戦果に巻き込まれる。

 仮に『ドワーフ連合』を倒したとして、次は『デモニア』と『ゴッデス』だ。正しく人外の戦力を相手にすれば被害を出さないという訳にもいかないだろう。


「俺は欲張りなんでな。もらえる物は全部掻っ攫っちまうつもりなのさ」


 ニヤリと笑みを浮かべると、獣人の王は胸の前で組んでいた腕を解いた。

 それを見て俺もようやく痛みの退いて来た体に鞭打って立ち上がる。


「ケンシロウ。お前の目的は何だ?」

「この戦争を生き残りたいだけさ。その為なら何でもやるってだけだ」

「何でもやる、か。ケンシロウが言うと恐ろしい言葉だな」

「そいつはどうも」


 不遜な笑みに苦笑。種類は違えど、そして種族は違えど。

 俺とラオウは互いに笑い合い、握手を交わした。


「我々『ビースター』は『グロリア』と同盟を結成する事を宣言する」

「あぁ。こちらは俺の持つ銃器を提供する事を約束しよう」

「さて、では改めて珈琲は如何かな? 今度はとっておきの豆を挽こうじゃないか」

「そりゃありがたい。お前の珈琲は最高に美味いからな」


 さて、ようやくタスクが一つ終わった。

『ビースター』を仲間に引き入れる事。これで第一段階突破だ。

 先はまだ長いし難易度がヘルモードなことに変わりはないが。


 約束を果たすために、守るために。全力を尽くしていこう。


「ところで、結局お前は旦那様の何なのです?」

「だから私はこいつとは何の関係も無いわよ!」


 再び始まった口論は聞こえないふりをして、立派なソファーで優雅に寛がせてもらうことにした。

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敗北したら即滅亡、チート無しの異世界転移〜召喚されたら人族が滅亡寸前だった上に俺に丸投げされた。こっちはただの一般人なんだが〜 @kurohituzi_nove

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