幕間 予兆

 ー若獅子の場合

 ペンドラゴン、かつて一国であったこの場所は長きに渡る戦いによりユースティアの特区となった。

 大国であるユースティアに組み込まれた事により経済的にとても安定しておりかつての国王であり現在ペンドラゴン特区長を努めているアーサー・ピピンによる政策により砂漠地帯でありながら豊かな場所へとなっていた。

 だがそれは国のために散っていった多くの者たちの血によって作られた豊かさでもある。

 そしてその豊かさを快く思わない者達も多くいた。


 深夜ペンドラゴン特区内バドニクス。

 冷える砂漠の夜、かつてペンドラゴンとユースティアの中立都市であったこの場所は正に今テロ行為を受けようとしていた。

 複数のかつてペンドラゴンが主力としていたMT【ボーンⅣ】がバドニクスに進軍していた。

 彼らは現在活動している反ユースティアの過激派の中では最大の組織である。

 今宵の作戦によりバドニクスを制圧し同士を集結させヴィヴィアンを占領。

 再びペンドラゴンという国を立て直す。

 彼らにとってその第一歩であるバドニクス制圧に心血を注いでいた。

 「隊長、全機配置につきました。」

 「うむ。」

 この部隊を率いる隊長はかつてペンドラゴンの獅子と呼ばれた男の部下であった。

 彼にとってこれは獅子の無念を晴らすものであり神聖なものであった。

 「同志たちよ、ついにこの時が来た!邪なるユースティアの手からピピン王を救い出す。これはその為の前哨戦である!同志たちよ奮起せよ!総員とつげ」

 隊長の演説は最後まで言い切れず爆音によってかき消された。

 「な、なんだ!?どうした!?」

 「ま、まち、待ち伏せです!?正規軍の奴らが…!?」

 隊長が慌てて通信するがどこもかしこも爆音がする。

 辛うじて通じた同志の報告でようやく隊長は状況を把握する。

 「ユースティアに迎合した愚か者たちめ…!」

 ようやく砂地から砲撃していたMTが姿を現す。

 砲撃用にカスタムされたとはいえ自分たちと同じボーンⅣである。

 他に大きく違うのは付けられている紋章がかつてのペンドラゴン王国のものではなくユースティアのものである事だろう。

 彼らが言った正規軍とはユースティアによって認められたペンドラゴン特区の防衛部隊である。

 過激派にとってはユースティアに洗脳されたかつての仲間であり最大の敵である。

 待ち伏せしていたMTが次々と現れる。

 ボーンⅣとノームが入り乱れていたがその数はこの部隊の二倍はいる。

 そしてそれらを率いているのはかつて自分が従い尊敬していた獅子の愛機ランスロットⅡの改良機【ランスロットⅢ】。

 そしてそれに乗っているのは獅子の意思を継いでいるはずの息子、クラレント・ゴードウィン。

 「投降せよ!貴様らの行為はペンドラゴンの名に泥を付けるものだと何故分からない!」

 クラレントの登場に怖気着く過激派の者たち。

 そんな空気を払拭しようと隊長は大きく声を張り上げる。

 「馬鹿を言うな!泥を塗っているのは貴様らだ!我らはペンドラゴンを取り戻すため!そしてそなたの父ソラウス・ゴードウィンの無念を晴らすため!」

 「…貴様がその名を口にするなよ。」

 クラレントの冷えた声に思わず黙る隊長に言葉の追撃をする。

 「わが父ソラウス・ゴードウィンならば例え現状に不満があろうと無関係な民を巻き込むような真似はしない!それを理解出来てない時点で貴様がその名を口にすることは許さない!」

 クラレントの怒りに戦意喪失する過激派の者たちも徐々に出始める。

 「こ、この!邪魔をするな!!」

 そう叫びつつ隊長はランスをもって突撃する。

 クラレントはランスロットⅢの大型ビームランスを展開し隊長のランスを弾く。

 「なっ!!」

 「あの世でわが父に詫びてこい!」

 そう叫びクラレントはビームランスをコックピットに突き立てる。

 コックピットを失い砂漠に倒れる隊長機を見て本格的に戦意喪失した過激派は逃げ出したり投降者が出たりしている。

 部下に後処理を任せ自分はヴィヴィアンに戻ろうとすると一つの通信が入る。

 「どうした、レジーナ。」

 レジーナは最近正規軍入隊した女軍人だがMTの操縦は勿論その他の技能も優秀なのでクラレントが将来を期待している一人である。

 今回も別動隊の隊長を任せていた。

 「ゴードウィン様、敵別動隊の排除完了しました。」

 「了解、それで本題は何だ。」

 「…近頃、ユースティア側の命令が混乱している気がするのですが。」

 「ああ、確かに…な。」

 ここ最近ユースティアから送られてくるはずの物資などが遅れたり、情報が伝わらなくなったりと細かな異変が立て続いている。

 「探りを入れられますか?」

 「…いや、まだいい。」

 下手に介入してとばっちりを受ける訳にはいかない。

 確かに彼らはユースティアの一部であるが同時にペンドラゴンでもあるのだから。

 その後一言二言確認をしてレジーナとの通信を切る。

 ふとクラレントは夜空を見上げる。

 未だ残る爆炎にて薄くなってはいるがそこには父の愛した満点の星空があった。

 「親父、俺はあんたに近づけているか?」

 そう言いつつもう一人の人間を思い浮かべる。

 父を討ち憎いような、同じ人間を追いかけた似たもののような一言では言い表せない青年。

 「簡単に死んだら許さねえぞ。」

 応援のような違うような言葉は砂漠の夜に消えていった。


 ー戦乙女の場合

 「いやまったく、見事な作戦指揮だったよ。オデル…ではなくアルヴィー中尉。」

 「お褒めに預かり恐縮です将軍。」

 とある国との戦いにおける祝勝会、その主役はとある士官であった。

 名をアヤ・アルヴィー、かつてオデル姓で大尉であった彼女は罪の清算にて階級を落とされ中尉となり未だ監視を受ける身である。

 しかし、その卓越した作戦指揮は高く評価されており今回の作戦も彼女が立案した作戦が元となっており指揮も彼女自ら行った。

 「今回の戦勲で大尉に戻れるであろうしこの分であるなら将軍も夢ではないな。」

 「…過分なお言葉ありがとうございます。ですが私は以前にも申し上げた通り将軍になる気はありません。」

 その言葉に将軍は顔を渋くした。

 別に気分を害した訳では無い、以前から聞いていた事ではあるが。

 「そこまでして例の彼の元にて戦いたいのか?」

 「ええ、それが今の私の支えですから。」

 そう彼には返しきれない大きな恩がある。

 本人には否定するだろうけれどもこの恩は絶対に返すと心に決めている。

 それとは別に彼に着いて行きたいという気持ちがある。

 それは似たもの同士を支えたいからかそれとも…。

 頭の中で頭を切り替える。

 今はその問いに答えを出す時では無いと。

 とにかく今は実績を上げる事、それと軍内での信頼関係のネットワークを構築する事の二つに集中すべきと。

 「ところで中尉、面白い話を聞いたぞ。」

 将軍はアヤの決意に満ちた顔を見て説得するのは無駄と思ったのか別の話題を展開する。

 「面白い話、でしょうか?」

 「うむ、君の作戦指揮のほどと容姿を見て主に若い兵が君の事を戦乙女ヴァルキリーと呼ぶのが定着しつつあるようだ。その内【ユースティアの戦乙女】と軍内外から呼ばれるようになるかも知れんぞ。」

 「そ、それは流石に…。」

 照れたように言葉を詰まらせるアヤに将軍は笑いながら肩を叩く。

 「そう照れるな。英雄と戦乙女、非常にいい組み合わせではないか。」

 「は、はぁ。」

 将軍に肩を叩かれながらアヤは彼もこの様な気持ちだったのかとつい思っていた。

 すると士官の一人が慌てた様子で将軍に近づく。

 そして何事か耳打ちすると将軍の目が見開かれる。

 先ほどの気さくな様子から一変し真剣になる将軍を見てアヤの思考も軍務へと切り替わる。


 若獅子と戦乙女、この二人が直面している予兆はもうすぐ大きなうねりとなってユースティアを覆うとしていた。

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MTーメタル・トルーパー戦記ー 始動編 蒼色ノ狐 @aoirofox

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