第42話 戦友よ、また地獄にて

 ワケドニアとユースティアの国境付近そこにレイ・アカバを中心としたMT傭兵団二十機ほどが陣取っていた。

 そこにエーデルワイスから一機のMTが傭兵団の目の前に降り立つ。

 かつてレイと共に戦いファミリーネームを分かち合ったユーリ・アカバの操る白いファフニールである。

 ファフニールが降り立つのを見て出てきたのはレイ専用の赤いサラマンダー。

 二人の間を沈黙が支配する。

 そんな中で先に通信をしてきたのはレイであった。

 「無視せずによく来たな。」

 「お前の後ろに在る物さえなければスルーしたんだがな。」

 レイ達の傭兵団の中にはフライトユニットが付いている機体はなかった。

 なのでエーデルワイスの高度を上げてれば余裕で振り切れる。

 ユーリの言う物である地対空エーテル砲それも十門が無ければ。

 一門だけでも戦艦級に損害を与えられる代物だ、それが十門なら結果は言うに及ばないだろう。

 「で、聞くまでもないが何が目的だ?」

 「勿論アーニャ・フリーゼンの身柄を貰う。」

 「依頼主のマキシムは死んだぞ。」

 「だからこそさ、依頼主に金が貰えないなら王女の身柄でガスアから金を貰わないと割に合わないんだよ。」

 「随分と金にうるさくなったなレイ。それともそっちが本省かな?」

 「黙れ!!お前に何が分かる!!」

 そう言うと大ナタを振り上げレイはMTを突進させる。

 ユーリは大ナタの振り下ろしをコンゴウで受け止めるがレイは怒りに任せ大ナタを振り下ろし続ける。

 「お前は!いいよな!他人に認められるだけの!実力が!あって!!だけど俺は!俺たちは!!違うんだよ!!!運だけで生き残ったような俺たちは!!こうやって惨めに金に頭を垂れて生きるしかないんだ!!これしか!戦いしか知らない俺たちはな!!」

 「うるせーよ。」

 ユーリがそう静かに言うだけでレイは背筋が凍るような感覚を受ける。

 その一瞬の隙を見逃さずユーリは大ナタを弾く。

 その勢いに押され大きく後退するレイのサラマンダー。

 「ッ!この…!?」

 「俺だってこいつでの戦いしか知られねえよ。」

 レイが何か言おうとするがそれを遮りユーリは静かにだが力を込めて言う。

 「けどな、こんな俺でも必要だと感じてくれる奴がいる。俺を信用してくれる奴がいる。そんな奴らの為に出来ることをやる、俺はただそうしているだけだ。少なくとも変わらないと嘆いて諦めるよりはまたもな生き方なはずだ。俺が出来るならお前にも出来た筈だろレイ。」

 「…お説教はもう十分だ。」

 再び大ナタを構え直すレイ。

 「…そうか。」

 そう言ってユーリもコンゴウを構える。

 静寂がユーリとレイを包み込む。

 傭兵団もエーデルワイスにて見守っている者も静かに来るであろう決着を見守っていた。

 そしてどちらともいえないタイミングで両機が突撃する。

 そして一瞬の交差の内に勝敗は決まった。

 「ったく、相も変わらず化け物じみた技量をしやがって…。」

 サラマンダーの腕ごと大ナタが地面に叩きつけられる。

 胴体には大きく袈裟懸けに損傷があり爆破は時間の問題であろう。

 「昔からそうだお前は誰もが生きることを諦めてる中で生きることを諦めなかった。“出来る事をやる”ってな。諦めてる奴と諦めてない奴、どっちが強いか何て分かり切った事だよな。」

 「…謝らないぞレイ。」

 ユーリは振り向かずコンゴウを収める。

 「ああ、それでいいユーリ。お前は精々長生きしろよ。地獄で気長に待っているからな。」

 「了解、約束だ。」

 「ああ、やくそ」

 レイが言い切る前に機体が限界を迎え爆破する。

 「約束ぐらい最後まで言い切れ…アホ。」

 《少尉…》

 「アイギス、すまん今は何も…言わないでくれ。」

 アイギスはアルゴリズムを駆使して思う。

 この涙を流さずに泣いてる人になんて声を掛ければいいか。

 そして答えの出ない自分を初めて恨んだ。


 その後の顛末を語るとしよう。

 リーダーであったレイを失った事により傭兵団はパニック。

 その後待機していた小隊メンバーによって制圧された。

 その傭兵団は全員が少年兵である事が判明。

 傭兵団の少年たちも含め一先ずエリンに向かう事になった。

 少年たちの処遇よりも任務を優先した結果である。

 そして何度目かの日付が過ぎエリンに最も近い、かつ最大の軍事施設エリアAAAに到着した。

 ここから先は別の護衛がエリンまで送ることになっている。

 「アカバ少尉、護衛の任ご苦労でした。」

 「いえ、護衛が出来て光栄でした。」

 「…やはり私はフリーゼンの復興を目指します。」

 「そうですか…。」

 「ですがそれは最初の時とは違います。託された使命としてではなく自分がやりたい事として復興を目指します。その為にまずは政治の事を…いえ、様々な事を学んでいきたいと思います。それが私の出来る事でしょうから。」

 「…貴女がこれからするであろう努力が実る事を祈ります。」

 「アカバ少尉貴方が護衛で良かった。」

 そう言って握手する二人にこういったやり取りがあったとか無かったとか。

 そして傭兵団の少年たちは希望者は軍の学校に、そうでない者は孤児院にて預かる事になる。

 その背景にはアーニャの口添えがあったとか無かったとか。

 ともかく任務を無事達成しエリアAAAにて休息兼機体の改修を行う事二週間が過ぎた。

 エーデルワイス格納庫にて小隊メンバーのみならずエーデルワイス艦内の全員が集合していた。

 「全く、一体何だってんだ。」

 「何でも作戦指揮官が着任するらしいよ!」

 「どんな人か楽しみではあるね。」

 「……。」

 突如集められた事に対し様々な意見の交換(していない者もいるが)によって格納庫内は騒がしかったが三人ほどがこちらに近づいて来るにつれ静かになる。

 「全員敬礼!!」

 艦長のアリックスの合図により全員が敬礼をする。

 三人の内一人が合図をすると同時に休めの体勢になる。

 「准将のコリンズである。聞きたい事はあると思うがまずしなくてはいけない事をしよう。アカバ少尉、前へ。」

 そう言われてユーリは前に出る。

 それと同時に三人が来る前からしていた嫌な予感が強くなっていくのを感じた。

 「さてアカバ少尉。早速で悪いが君を艦内にて拘束させてもらう。」

 「「「「「!?」」」」」


 ―革命編に続く―

 

 

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