第41話 さようなら忠臣
エーデルワイスからほど近いワケドニアの森林にあるボロ小屋、そこにアーニャはいた。
手足こそ拘束されてはいるが目隠しはされておらずこうなった原因である犯人を先ほどから気丈に睨みつける。
「王女そのような目はしない方がいいですよ、貴方の生死は私に掛かっているのですから。」
「…いったいどういうつもりなのですかマキシム。」
そう、アーニャの睨み付けていた先には彼女の護衛であるはずのマキシムが椅子に座っていた。
エーデルワイスの敵機接近の警戒音が鳴り響く中で突如マキシムに気絶させられて気づけばこの小屋にいた。
アーニャの質問にマキシムは笑いながら答える。
「ハハハ、どういうつもりも何も当然あなたをガスアに売り渡すつもりですよ王女。」
「ッ!貴方は国を!フリーゼンを裏切るつもりですか!?」
アーニャが激高しマキシムに怒鳴りつけるが彼は更に高らかに笑う。
「何を言うかと思えば、フリーゼンは滅んだのですよ。滅んだものに忠節を尽くすなんて馬鹿な事私はしませんよ。」
「滅んではいません!その為に私は生きて!」
「貴方に国が背負える訳が無いでしょう?王が貴方を逃がしたのは単なるおとりにする為でしょうね。」
「どういう意味ですか!?」
「王族の血を引く女がユースティアに逃亡する。そういった情報を流しガスアに追わせて自分が逃げる時間を稼ぐ。私ならそうしますね。」
上手くはいかなかったようですがと残念そうに言うマキシムにアーニャの怒声が響く。
「!!王を、父上を貴方のような卑怯者と一緒にしないで!!」
アーニャがそう叫ぶとマキシムは椅子から立ち上がりつかつかとアーニャに近寄り彼女に蹴りを喰らわせる。
衝撃でせき込む彼女の髪を引っ張り無理やり自分の目線に合わせるマキシム。
「甘くしてりゃいい気になりやがって、俺は卑怯じゃないこんな簡単な理屈も分からないお前らがバカなんだよ!少し政治をかじった程度で我が物顔になれる貴様らとは違う!本来国とは俺のような賢い人間が背負うべきものだ!」
そこまで言うとマキシムはアーニャから手を離す。
離したことでアーニャの顔が床にぶつかるがマキシムは気にしない。
「だがそんな雌伏の時も終わりだ、あんたをガスアに売って俺は帝国の中核に入り込む。そしてやがては俺が皇帝に…!」
「…ハハッ。」
未来予想を喜々として語るマキシムの耳に蔑むような笑いが聞こえた。
発信源は勿論アーニャである。
「何を笑っている?」
「いえあまりに杜撰な計画なので思わず笑いが。」
顔を赤くするマキシムに泥だらけの顔で王女らしくアーニャは微笑む。
「あのガイン帝が貴方のようなポッと出の裏切り者を中枢に入れるとでも?それに貴方の言う通りなら囮になるような私を差し出した所で入れると思っているのなら杜撰極まるという他ないですね。さて、貴方の言う愚か者に自分の計画の欠陥をズバズバ言われた気分はいかが?賢い未来の皇帝様?」
顔を無表情したマキシムはゆっくりと腰の銃を取り出し安全装置を外す。
「…最後に何か言い残す事はあるか?亡国のクソ王女。」
それを聞くとアーニャは飛びきっりの笑顔を見せこう答えた。
「では一言…地獄に落ちるがいいわ、過大妄想狂。」
グッとマキシムの指に力が入りアーニャは目を閉じる。
そして銃声が小屋に鳴り響いた。
「グアッ!!」
銃声と共にマキシムの苦しむ声が同じく小屋に響く。
「…え?」
マキシムの声と彼の血が飛び散ったのを感じアーニャは目を開け思わず驚いた声を出してしまう。
それと同時に銃を持った兵隊たちが小屋になだれ込む。
「アーニャ・フリーゼン王女、安心してくださいユースティアの者です。」
アーニャを縛っている縄を切りながら兵隊の一人がそう説明する。
確かに艦に乗った時紹介してもらった白兵隊がこのような服装をしていた。
「けど…どうしてここが?」
「少尉の忠告でこの男をマークしておりました。それよりギリギリまで突入を躊躇い救うのが遅くなり申し訳ございません。」
そう話している内にアーニャの縄は切られ、マキシムは拘束されていた。
「隊長、この男はどうします?」
「…王女。どうなされますか。裁判にかける事も出来ますが。」
「…いえ必要ありません。出来ればここで処理を。」
アーニャがそう言い切るとマキシムは慌てて助けを乞う。
「た、助けてくれ!王室には沢山尽くしてきただろ!?」
勝手な言い分に白兵隊が呆れる中アーニャはつかつかと出口に歩く。
「…一つ言っておきます。」
そう言うとマキシムの方に振り向く。
その顔は冷酷な笑顔であった。
「さようなら忠臣、せいぜい地獄で苦しみなさい。」
その後何かマキシムが言っていたが聞き流しアーニャは小屋を出る。
その後その小屋にて一発の銃声が聞こえたがそれも彼女は聞き流した。
二日後、エーデルワイスの来客室にてアーニャは何もせず明かりを消した部屋の中でベットに腰を掛けていた。
そこにコンコンとノック音が聞こえる。
「アーニャ王女、ユーリ・アカバ少尉です。お呼びになられましたか?」
「…どうぞお入りください。」
扉が開きユーリが中に入る。
「明かりを消しててごめんなさい。まだちょっと気持ちの整理がついてなくて…。貴方がよくマキシムを警戒してくれました。」
「あいつの目がかつての上司に似ていたので…。杞憂じゃなくて良かったです。」
ユーリがそう言うとしばらく沈黙が部屋を包む。
どう言って退室するかユーリが巡らしているとアーニャが口を開く。
「貴方は…英雄と呼ばれているそうですね。」
「え、ええ一部では…。」
「そんな貴方から見て何故父上は私をユースティアに逃がそうとしたか…分かりますか?」
「……。」
報告は白兵隊から上がって来ていたのでユーリは彼女がマキシムの言葉を気にしているのだと気づいた。
「ごめんなさい変な事を聞きました。忘れてください。」
「…私には王どころか父親という存在もよく分かりません。孤児でしたから。」
「…知っています。」
アーニャはこの艦の主要な乗組員は可能な限り調べていた。
「だから自分だったらという事しか言えませんが…フリーゼンの王は、貴方の父上は貴方に生きて欲しかったのでは?」
「!?!?」
それは単純な答えではあった。
だがアーニャにとっては考えもしなかった答えでもあった。
確かにアーニャは王に、父に愛されていた。
だからユーリの答えでも特別におかしくは無いだろう。
だが…。
「…だとすれば私は…何をすればいいのでしょうね。」
父の望みが囮でも国の復興でもなく生きる事ならば自分は何をしてこれから生きるべきなのか。
アーニャは思わずユーリに答えを求めた。
「それは貴女が決めるべきものです。アーニャ・フリーゼン」
「え?」
ユーリの突き放すような言葉に思わず驚きの声を出してしまう。
「自分が何をすべきか?それが分かるのは自分だけです。自分は信用できる人間のため信用できる者になろうとしているだけです。…貴女はどうですか?」
「…私は。」
アーニャが何かしらを答えようとした時だった。
警告音が艦内中に鳴り響く。
「ったく、いつもこんな時に…!」
アーニャに一言断り通信機にてオリビアに連絡を取る。
「少尉!例の所属不明機が艦の前方に立ちふさがっています!」
「…レイの奴!」
再びかつての戦友との戦いが目の前に来ていることをユーリは心の底から毒づいたのであった。
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