猫神のお仕事
白鷺雨月
第1話猫神のお仕事
毎年十月は日本中の神様が出雲の地に集まることになっています。そこでお祭りや会議や中には旅行だけして帰る神様もいます。
私は日光東照宮に祀られる眠り猫の部下になった猫で三毛といいます。
眠り猫の甚五郎様はこの年、日本中から集まってくる神様たちの接待役に任命されました。ちなみに甚五郎という名前はあの名匠左甚五郎様からきています。そして、私はそのお助けをするために出雲の地にやってきました。
甚五郎様と一緒に食べた出雲そばはとても美味でしたね。
甚五郎様は人間の姿のときはとてもおきれいな女性の姿をしています。
背が高く、胸も大きく、周囲の男性たちがざわざわするほどのお美しさです。
私といえば十代前半ぐらいの少女の姿。
顔も猫に近いつり目の顔。私は長く生きた猫で霊格をえましたが、まだまだひょっ子で猫娘と呼ばれる存在に近いものです。
甚五郎様のお話では神様の神力は人々の信じる力に比例するのだと。長年多くの人々に参拝され続けた甚五郎様は神様の仲間に入れたのだと。
今年、新しく神様の一柱に加わられたお方がいます。
元々、魚の顔に人の髪が生えたちょっと不気味な姿をしていましたが、実際にお会いすると濡れた髪が印象的なとても美しい姿をされていました。
人々の信仰心が集まり、霊力が高まるとその姿も神々しいものになるのだと甚五郎様が説明してくださいました。
私はというと甚五郎様のもと、十月はかなり忙しい日々を送りました。
「猫の手も借りたいっていうけどこれじゃあ馬車馬のほうが正しいわ」
お酒や食事の采配をしながら、甚五郎様はそうおっしゃいました。
私も文字通り、目がまわるほどの忙しさで昼間は、休憩する暇もなく働き、夜は宿で倒れるように眠る。
もともとは寝るのが好きな猫の私はかなりつらかったです。
でも時々ほかの神様たちがこっそりとご褒美をくれたりしました。
恵比寿様は釣ってきた鯛を豊受様はとてつもなく美味しいおにぎりを。吉備津彦様は甘い甘い吉備団子をくれました。
どうにか十月の終わりを迎えた私は甚五郎様の計らいで一日だけ休みをいただきました。
私は出雲の町を見てまわり、宿に戻ってきました。晩御飯には出雲の地でとれて山海の珍味が並びました。どうやら甚五郎様の計らいのようです。
お腹いっぱいになった私はお布団で眠りました。
そうするとどうでしょうか。
私の顔をなでる人があらわれました。
優しい手で私の額や頬をなでます。
それはどこか懐かしいものです。
ああ、どこか懐かしい気持ちになりました。
うっすらと目を開けるとそこにはかつて見知った顔がありました。
「あ、おばあちゃん」
その人は私が猫だったときの飼い主の大好きなおばあちゃんでした。
「みけ、よく働いてえらかったね」
おばあちゃんはそう言い、柔らかい手で私をなでます。
今夜だけは私は元の猫にもどり、懐かしいおばあちゃんと一緒に眠りました。
猫神のお仕事 白鷺雨月 @sirasagiugethu
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