忠義で選ぶべきか
結騎 了
#365日ショートショート 082
震える体で浜辺を歩く。傷口に染みる塩水が辛い。身が割けるようだ。
ああ、どこに間違った選択があったのだろう。生まれた日だろうか。いや、育ての親から自身の出生はとても変わっていたと聞かされたが、いくらなんでも今回の失態には関係ないだろう。
それでは、この衣装か。あまりに派手すぎる、かしこまった衣装のせいなのか。いやいや、それも違う。大切に着せてくれたものだ。
じゃあ、あの食事か。あれがいけなかったのか。衛生管理か、あるいは味か。いや、自分も一緒に食べたことがある。特に変な味はしなかったはずだ。
本来なら、総力戦のはずだった。低い位置から、そして高い位置から。全ての力をもって、一丸となって。相手を追い込み叩きのめすつもりだった。
それがどうだろう。足元に余裕があったのか、奴らは悠々と距離を取り、こちらの攻撃をかわし続けた。ああも俊敏だったとは予想外だ。そこを封じる策もなく、元より兵力差で劣っていた我々は、すぐに体力を消耗してしまった。その間も、まさか物陰でくつろいであくびをしているとは。程なくあっけなく敵に捕らえられ、拷問を受ける日々。ぼろぼろの体で海に放り投げられた時は、本当に死を覚悟したものだ。
もっと、忠義に厚そうな者が良かったのだろうか。いや、その可能性もあったのだ。しかし、彼とは不遇にも視線が交わらず、脇道を通り過ぎてしまった。あの時、人懐こい目ですっとこちらの懐に潜り込まれ、つい気を許してしまったが……。うん、いけなかった。慢心であった。残りの面子はよく働いてくれたのだから。
不肖、桃太郎。やはり選択の誤りだった。犬の代わりに猫の手を借りたばかりに。
忠義で選ぶべきか 結騎 了 @slinky_dog_s11
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