猫パンチを借りてみた

伊崎夢玖

第1話

「やっと終わった…」

動画サイトに投稿するための動画編集をようやく終えた。

いつもなら小一時間もあれば終わる作業が、今日に限っては三時間もかかってしまった。

この原因はただ一つ――肩こりだ。


最近肩凝りに悩まされている。

慢性的な肩凝りなのは自覚していた。

しかし、ここ最近は肩凝りから来る頭痛が日に日にひどくなる一方。

整体やあん摩、鍼灸など、ありとあらゆるマッサージを試してみたが、効果があるのはものの数時間。

寝て起きれば、元に戻っていた。

今日は特に酷かった。

朝起きると、起き上がった瞬間からバットで殴られているかのような痛みが襲ってきた。

「頭いてぇ…」

「痛み止め、飲む?」

「…そうする」

若干吐き気もする。

痛み止めでどうこうできる範囲をとっくに超えているだろうが、藁をも縋る思いで痛み止めを内服し、ソファーで横になっていた。

「ニャー」

我が愛しい愛猫、タマさんが不安そうな声で寄り添ってくれた。

普段はツンツンしてその優しい姿を見せてくる。

まるでこちらが何を求めているか知っているように。

「タマさん、ごめん。今日は無理。あっちで遊んでて」

「ニャーン」

「本当に、マジで無理なんだって」

「ニ゛ャッ!!」

タマさんの強烈な猫パンチが肩にクリティカルヒットした。

ズキン!と痛みが全身を駆け巡ったのも束の間、今の今までもがき苦しんでいた痛みがどこかへ飛んでいっていた。

「……あれ?」

「どうしたの?」

「頭、痛くない…」

「嘘っ!?」

「ほんと!ほんと!なんなら、肩も痛くない!」

「冗談はよしてよ」

パートナーが肩を触ってきて気付いた。

いつもの鉄板が入っているかのような感覚がない。

むしろマシュマロのような柔らかさがある。

「肩、柔らかい…」

「だよな…」

「これ、タマさんが?」

「たぶん…」

「我が家の招き猫様じゃん!」

「動画にする…?」

「するっ!絶対する!再生回数、伸びるって!ちょっと待って!すぐ準備する!」

パートナーがバタバタと撮影の準備を始める。

その間久しぶりに頭痛がない快適さに睡魔が襲ってきて、うたた寝をし始めてしまった。

タシタシと肩に猫パンチを食らわせてくるタマさん。

「あぁーそこそこ。気持ちいい…」

タマさんの猫パンチを一発食らう毎に体の調子がどんどん良くなっている気がした。

(頭痛がないってこんなに楽なんだ…)

それを最後に記憶はなくなった。


後日、この時の動画をサイトに投稿した。

サムネは、うつ伏せに寝ている俺の背中に乗るタマさんと、俺の肩に付いたタマさんの肉球スタンプ。

何がよかったのか分からないが、再生回数があり得ない数字を叩き出すことになろうとは、この時誰も知らない――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

猫パンチを借りてみた 伊崎夢玖 @mkmk_69

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ