ゆれる五十音

揺井かごめ

2021年 7月

あい【愛】

たくさんの人がずっと探し求めては見つけたり失ったりしているもの。本物を見つけるのは非常に難しく、誰もその形を見た事はない。


いきぐされ【生き腐れ】

鯖などの魚によく使われる言葉。「新鮮そうに見えて中身は腐っている」状態のこと。美味しそうだと含んでみると、あっという間に食あたり。


うらはら【裏腹】

人間によく起こるバグ。こころに忠実に生きるには、人間は複雑すぎる。


えんしょう【炎症】

焼け爛れたようにグズグズになること。真っ赤に熟れて、後は腐るだけ。


おるごーる【オルゴール】

ぽろぽろと溢れるような音が鳴るからくり。歯医者さんでよく流れている。聴くと眠くなる。


かりそめ【仮初】

その場しのぎの偽物。軽々しくて無責任な嘘つきの為の言葉。空虚な言葉ほど響きが美しい。


きたい【期待】

持たざるものが持つ者に背負わせる重たい荷物。慢性化すると背中に溶着してしまい、更に追加が乗ってしまう。押しつぶされずに全て支えられた者だけが英雄と称えられる。


くうき【空気】

人間によって作られる場の流れや傾向。皆こぞって読もうとするが、酸欠になって倒れてしまうケースも多い。読むのを止めて、大きく吸って、吐き出してみる事が推奨される。


けーき【cake】

ふわふわ甘くて美味しい食べ物。これの上に乗ったいちごは特別美味しいとされ、大事なものや好物の例えに使われる。


ことば【言葉】

人間が作った最も原始的な道具。使い方によっては、ナイフにも包帯にも架け橋にも落とし穴にもなる。


さんにん【三人】

割り切れない微妙な人数。絶妙で様々なバランスが存在する。拗れやすくバラけやすい。


したい【死体】

生き物の魂の抜け殻。亡骸。


すくう【掬う】

くぼんだもので液体を少しだけ汲み上げること。また、液体に浮いた物を下から持ち上げる動作。


せぴあ【セピア】

褪せた色。また、色褪せたものに使う言葉。永遠に美しい写真は存在しない。


そうそうふいつ【草々不一】

挨拶の不足を詫びる、または語り足りない名残惜しさを伝える為の結びの言葉。草々は簡単であること、不一は不十分であることを示す。

※同じ結語の植物として「草」「w」などが存在するが、印象は全く正反対である。


たからか【高らか】

遠く遠く空まで吸われそうなほど大きく凛とした音。


ちゅーる【チュール】

ねこまっしぐら。


つき【月】

一説では地球と隕石の間の子であるとされる衛星。昼は白く、夜は淡い金をして時や季節を告げる。旧くは太陽と並んで暦に用いられた。


て【手】

人間の前足。器用に動き様々な道具を使う。また、コミュニケーションにも多彩な形で役立つ。


とれーらー【トレーラー】

「引っ張るもの」という意味が転じて、牽引車に付ける貨物車や映画の予告編に使われる言葉。

予告のショートムービーが最高潮、という場合も多々ある。


なまえ【名前】

あらゆるモノを「呼ぶ」為の固有の言葉。特に、人間にとって大切なものには熟考された名前が与えられる。

また、名前はそのものの本質を捉え表すものとされている。その為ネット上では「真名」を隠し、より本質に近い(と本人が判断した)偽名で活動する者が多い。


にるゔぁーな【涅槃】

仏にとっての悟り、凡人にとっての死を意味する言葉。語源は『吹き消す』という意味のサンスクリット語である。

命が消える時は静かに穏やかに、蝋燭の火を吹き消すように。


ぬ-う【縫う】

針と糸を使い、薄い物を固定すること。主に布や皮膚、創作物では稀に影が縫われる事もある。


ねこ【猫】

可愛い生き物の代表格。異論は認める。


のろま【鈍間/野呂松】

頭や体の動きが鈍い人の事。愚鈍であること。


はれま【晴れ間】

悪天候の中でいっときだけ空が晴れる事。悪い出来事の中で僅かに見える幸運は、幸運続きの時より喜ばしく感じる。


ひふ【皮膚】

生き物の皮。生きていればやわらかくてあたたかい。


ふりゅーげるほるん【フリューゲルホルン】

ドイツ語で『翼の角笛』という意味の名前を持つ金管楽器。トランペットを太らせた様な形をしており、柔らかな音が出る。


ぺーるとーん【Pale tone】

直訳で「薄い色調」。パステルカラーほど甘くないが、淡く透明感のある色群。


ほし【星】

人間が地球から見た時の天体の総称。ただし、月と太陽と地球を除く。人にとってその美しさと壮大さに限りは無く、様々な学問の起こりになっている。


まやかし【騙術】

人の目を欺くもの。ごまかし。偽物。


みずかがみ【水鏡】

水面に光が反射し虚像を結ぶ現状。人工の鏡が生まれる以前は水盆に水を張り鏡として使っていた。また、この現象から、水場は神秘性の高い場所として畏れられた。


むらさき【紫】

赤と青の中性色。パープル、ヴァイオレットとも。菖蒲やアメジスト、茄子、サツマイモ、藤などの色。神秘的な色とされている。

人間において紫色の瞳はとても珍しく、エリザベス・テイラーの瞳が有名である。日本では紫目(しめ)と呼ばれ愛されている。


めいろ【迷路】

複雑に作られた道を辿り、出口に辿り着く遊び。紙面の上から巨大な庭園まで、その規模と形は様々である。

その難解な性質から、テロ防止や防犯のため、テレビ局のような重要施設の構造にも応用されている。


もちーふ【モチーフ】

創作物を象る際、参考にしたり着想を得たりする元となったもの。

人間は、うつくしいものも汚いものも『綺麗な食い物』に出来る。


やえざ-き【八重咲き】

植物において、花弁が内側に増える変異種。花蕊が花弁化したもので、生殖機能に不備を来す為、自然界では淘汰される事が多い。人間の観賞用に増やされた、実の生らない派手な花のかたち。


ゆめ【夢】

理想。遠い目標。或いは、うつつならざるもの。眠っている最中に見るもの。


よる【夜】

日が落ちた後から日が出るまでの暗い時間。不思議な魅力があり、人間の恐怖、欲、信仰心などを駆り立てる。


らいせ【来世】

輪廻転生の思想に基き、死後に生まれ変わった生を表す言葉。最近では、溜息を枕に置き、重ね言葉として使われることが多い。


りんね【輪廻】

命は輪になり廻って巡る、という死生観。サンサーラ。

わたしたちは、めぐるいのちのたったひととき。


るーぷ【ループ】

終末と最初が繋がって、円環状に巡ること。


れい【零】

無。

円状の記号で表される。


ろーれらい【ローレライ】

岩に潜み、川を行く船を惑わすドイツの精霊。美しい女の姿をしている。


わら-い-じわ【笑い皺】

ほうれい線。笑顔を重ねる程深くなる。


をと【音】

空気の震え。動物はこれから自然の変化を感じとり、己を伝え、他を聴き取って生きている。



ん【-】おしまい。

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