最初に見つけたのは私だったのに
土蛇 尚
探してた
再生回数7回
それが私がそのバンドの動画を見つけた時の再生回数だった。
どこかの高校の空き教室みたいなとこでオリジナル曲をやっている。多分誰かにスマホを持ってもらってたからだろう。動画は少し揺れてて見辛かった。
7回ってとも思った。四人でやってるんだから一人一回見るとして、友達に声かけたら7回はないだろって。少しおかしかった。
でもそんな事はどうでもいいくらい、その拙い曲は私に刺さった。私のつまらない高校生活に色が落ちた気がした。1時間リピートしてからチャンネル登録する。5人目だ。高評価もする。
私だけのヒーローを見つけた。そんな気がした。
ヘッドホンをつけて彼らの曲を聴いてる時は救われた。
その10日後にまた動画を投稿されてた。新曲だ。
320回再生 登録数14人
いい事だ。私のヒーローが他の人にも知って貰えた。でもまだ周りにあのバンドで話せる人はいない。私のヒーローはこの教室のどこにも居なくて、私のスマホのフォロー欄だけにいる。
その3日後、三曲目。どういう訳か失恋ソング。バンドの誰か振られたのかな。
2056回再生 登録者56人
その10分後、
7000回再生 登録87人
その3時間後には、
30689回再生 504人
次の日には、
140045回再生 2305
私のだけのヒーローは、みんなのヒーローへの道を歩み始めた。そこからは早かった。何もかもが。
アニメの主題歌になって、サブスク1位に出て、紅白に出るのを断った。
「正月にアーティストを休ませないイベントは嫌いです」
そんなツイートがトレンド入りしていた。
もうその時には、そのバンドは私だけのヒーローではなくなっていた。
動画リンクに即いいねとRTを飛ばすファンの日常ツイートに、即いいねしてくる様な日寄った感じも好きだった。
私はアカウントを消した。もう彼らは私のヒーローじゃない。だからさよならだ。どうせ消したくらいじゃ視界に入ってくるのをもう防げないけど、それは仕方ないや。
嬉しいけど、それでも私は私だけのヒーローでいて欲しかった。
テレビや広告で、コンビニの放送やタイムラインで、彼らの曲を聞いてしまうのにもだいぶ慣れた頃、新曲をまた出たらしい。9曲目か。曲名は、
『ヒーロー探してます』
削除した私のアカウント名。やめてよ。本当に。そう言う日寄ったとこ嫌い。
何を歌ってんの。あんたらは私のヒーローでしょ。
終わり。
最初に見つけたのは私だったのに 土蛇 尚 @tutihebi_nao
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます