第10話
「な…」
今、オレシさんは何をした?私の目にはいきなりゴウダンが弾けるように内側から…
「…」
オレシさんが私を見る、その瞳は…まるで何も写してないような暗い赤色の瞳をしていた
…待て、オレシさんの瞳の色はこんな色じゃ
「…お前を助けたら…今回の俺の役目は終わりだ」
「…え…?」
私に近づき、そっと傷口に触れると
「…治れ」
「…嘘、傷が…治って」
まるで最初から傷などついていなかったかのように元通りに戻っていた
「…痛みは?」
「あ、ありません…ええと…オレシさん…私…」
「そうか」
「え、ああ…はい…」
…いつもと雰囲気が違う、この前から様子がおかしかったが。今のオレシさんは最初に出会った時に感じた冷たい雰囲気を纏っている
傷が治った私に興味を無くしたのか、ゴウダンが持っていたアレを拾う
「…あいつでもこれは使えそうだな」
ブツブツと何かを言い、懐にしまった
「…あの、それ…」
「…なんだ?」
「それって…レジェンドシリーズ…ですよね」
「…なんだそれは」
「し、知らないのですか?レジェンドシリーズと言うのは…」
レジェンドシリーズ、それは大昔…突如として現れたダンジョンと呼ばれる場所で発見されたアイテム
我々人類では再現出来ないような、精密な道具や薬で…世に出回っているもので言えば…
飲むと不死身になれる不死の薬
どんな物でも斬れるという万物切り
全ての攻撃を防ぐ事が出来る魔法の鎧
他にも色々な種類のアイテムがあるらしい
「貴方が持ってるのも、そのレジェンドシリーズ達と同じダンジョンで取れる魔法の銃なんです」
噂では魔力を込めるだけで目で追えない程の速さで発射される弾が撃てるというもの…
先程この身をもって実感してるので、噂は本当だったと言える
「…そうか」
「本来ならレジェンドシリーズは一般人が買えるような値段じゃ無いんですが…ゴウダンなら買う以外の手段で手に入れてそうですね」
あの男が正規の手段で手に入れるほど善人では無いだろう…
「…今からは俺のものだ」
「…そ、そうですか」
まぁ倒したのはオレシさんだ…助けて貰ったしこれ以上は何も言いません
「…あの、オレシさん!」
ガガ…
「…なんだ」
「…助けてくれて…本当にありが…」
ガ…
「礼ならあいつに言え」
「…え?」
…ガガ
「…ふぅ…終わったぞ」
カチ…
…
…
「…んあ…俺、何してたんだっけ」
アニラさんを探すために、ゴウダンの部下から逃げて…それから…
「…あぁ頭痛い…最近記憶が飛ぶんだよなぁ」
全く、まだ俺はそんな歳じゃないぞ?社会人なりたてホヤホヤの…
「オレシ…さん?」
「え?あ、アニラさん?!」
そ、そう言えば俺が来た時にはアニラさんは傷だらけで…ゴウダンが居たはず
「え?ゴウダンは?」
辺りを見渡すも、そこには俺とアニラさん…そして気絶している太った男に何かデジャブを感じる赤い水溜まりだけだった
「…うぇ…これもしかすると血?何があったんだよ」
こういうの耐性無いんだって…吐きそう
「…大丈夫ですか?」
「…吐きそうですが大丈夫です」
「それ大丈夫なんでしょうか…」
「それより、ゴウダンを倒したのってもしかしてアニラさんですか?」
傷も治ってるし、実はアニラさんめちゃくちゃ強かったのかもしれない…
「え…?い、いや倒したのは!」
慌てて否定しようとするアニラさん、じゃあやっぱり違うのか?確かに強かったのなら森で攫われそうになっても倒せば良いだけだもんな…
いや待て…もしかすると、何か言えない事情があるのでは?森ではあえて掴まったとして、ゴウダンを倒すために潜入していた…?
瞬間、俺氏に電撃が走る
アニラさんは奴隷を解放する為に自ら奴隷として潜入していたスパイだったんだ!!!
「…そうか、だから奴隷達も知らない内に逃げて…」
全ての点と点が線で繋がった…俺、名探偵を名乗れるかもしれない
「…分かりました、あなたが倒した事は黙っておきます。なぁに俺も口は固い方なので大丈夫ですよ」
暖かい瞳でアニラさんの肩に手を乗せサムズアップを決める
だいじょうぶ、おれ、だれにも、いわない
「え、ええ?何か勘違いしてませんか?!大体ゴウダンを倒したのはあな…」
「うんうん、そうですね」
「聞いてませんね?!」
「それより、ゴウダンの部下達もこっちに来そうですし…俺達も早くここから逃げましょう」
イッチさん達も既にここを脱出している頃だろう
「むぅ…納得いきませんが、分かりました」
頬を膨らませ、俺をジト目で見つめてくる…ちょっと目に光が灯っているような気がした
「じゃ、行きましょうか」
俺達は巨大な穴があった場所へと戻るため、走り出す
「はぁ…これじゃ、お礼も言えないじゃない」
ふとそんな事がアニラさんから聞こえたが、気のせいだろう
…
…
それからはゴウダンの部下に見つかってもアニラさんが倒してくれた
やっぱり…アニラさんはスパイだったんだな…
「よし、巨大な穴まで何とか来れましたね」
「はい、それにしても…私が連れていかれてそんなに経っていないのにこれ程の穴が出来てるなんて…」
オレシさん…どのような方法で空けたんでしょう?
「本当ですよね、でもこの穴もアニラさんが空けたんじゃないんですか?」
「違います、そもそもさっきのも…」
「…ああ、なるほど…他人に知られる訳にはいかない事情があるんでしたね」
アニラさんには助けて貰ってばかりなのだ、これ以上の詮索はやめておこう
「だから違うと…」
「あ、外ですよ!アニラさん!おおよそ1ヶ月ぶりの!」
「…もう、貴方はやっぱり変な人です…」
少し涙目になっているアニラさんには気付かず、俺は久しぶりのシャバの空気を楽しんでいた
「やっっっっと!脱出だぁぁ!!!」
労働施設の外は森の中だった、しかし…ネルギアンさんが居た森とは雰囲気が違う。多分違う森だ
「…まさか本当に逃げ切ることが出来るなんて」
「アニラさんのおかげですよ!はは…!」
「はぁ…もうそれでいいですよ」
投げやりにそう答えるアニラさん
「他の皆は何処に逃げたんでしょう?探さなきゃダメですね」
「…貴方は皆さんをどうするおつもりですか?」
「え?」
「奴隷の方達の7割は子供です。それに人数も100人以上はいます…その数の奴隷をどうするのかと聞いているのです」
「ど、どうするって…」
た、確かに逃げ出した後のことなんて気にしてなかったけど…
「あ、アニラさんが俺達を助けてくれたんですし…どうにか…」
「真面目に答えてください」
あ、あれ…怒ってらっしゃる…?な、なんで…?
「まさか、何の策もなしに私達を助けたんですか?」
「え、い、いや…それは…」
ど、どうしよう…な、何も考えて無かった
「あ、オレシ!」
「い、イッチさん!」
木の影からイッチさん、そして後ろから他の奴隷達も姿を現す
「お前達も逃げられたんだな!」
「は、はい!アニラさんのおかげで…」
「えいゆうさまー」
後ろに居た子供の1人がそう俺を呼んだ
「…へ?」
「英雄さまだー!」
「俺たちの英雄様ー!」
他の皆も俺を英雄と、まるで崇めるように呼んでくる
なぜぇ…?
「ほっほっほ、まさか本当に誰一人として欠かさず救うとは…オレシ、お主は儂たちの英雄じゃ」
「…でも、俺何もしてないですよ」
ただ無様に逃げて、アニラさんも助けられなかった
結局ただただかっこ悪い姿を見せただけだ
「何を言っておる、儂達を奮い立たせ…再び運命と立ち向かう勇気をくれ…そして脱出の計画までしてくれたじゃないか」
「そうだぞ?まさかお前があんな見た事もない威力の魔法を使うとは…あと属性持ちなのも驚いたぞ」
「…オレシさん、属性持ちなんですか?」
アニラさんが驚いた表情で俺を見る
「…属性持ち…?なんですそれ」
「おいおい、とぼけんなよ〜壁に穴を空ける時に風の魔法使ってたろ?」
「…俺、壁に穴なんて空けて」
ザ…ザザ
「っ…」
頭痛え…なんだ?
「大丈夫か?オレシ…?」
「…は、はい…」
ふぅ、治まったか…なんだったんだ今の
「…それで、オレシさん。さっきの話どうするつもりなんですか?」
「ぅぐ、そ、それは…」
た、確かに逃がしてはい終わりじゃ無責任すぎるけど…俺この世界の事何も知らないからな…
魔物がいて、魔法が存在する…あと奴隷も普通にいることぐらいしか知らない
「…オレシ?俺達はこれからどうすればいい」
「儂たちはお主に従うぞ」
「ぐぬぬ…」
みんなの視線が突き刺さる、ぐっ…えええいままよ!こうなりゃ運任せだ!
「あ、あっちに行きましょう!そこならきっと何とかなります!」
俺は適当な方向に指をさした
「あっちは…草原?」
「方角的に南じゃの」
「…っ!やっぱり…貴方は」
アニラさんはまたもや驚き、そして何処か納得したような顔をしていた
よわよわな一般男性(?)がいつの間にか異世界で英雄になってました 叶夢 @kamui0109
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