第9話

 この世界には魔力がある、それは生き物であれば必ず備わっている物で…魔力の量は才能で決められる


 そしてごく稀に、魔力を属性に変換出来る者がいる


「…属性持ちなんて初めて会ったぜ」


 この世界でも滅多にお目にかかれない属性持ち、大方貴族や王族に産まれやすいと聞いちゃいたが…あの見た目といい何処かのお姫さんかなんかか…?


「…こりゃ値段を底上げ出来そうだ」


 俺はついてる!コイツを売れば金貨数千枚は確実、更に懐が潤うってもの


「…いきます」


 さぁ来い、例え俺の切り札を使ってでも…逃がさんぞ


 …


 …


「「「待てええ!」」」


「ひえええ!」


 ゴウダンの手下多すぎない?!一体何十人いるんだよぉ!


「アニラさんどこおおお?!」


 ここ入り組みすぎてて迷いやすいのもあるし、何より走り続けて体力の限界が近い


「ぐぬぬ…早めにネルギアンさんから身体能力を上げる方法を教えて貰っとくんだった!」


「ちっ、ちょこまかと面倒くさい奴だ!おい!弓兵」


「弓兵…?」


 瞬間、腕に激痛が走る


「がっ…!」


「よし!腕に命中!」


 痛みが走る腕を見ると、細長い矢が俺の腕を貫通していた


「いってぇ…!」


「あいつが怯んでるぞ、捕らえろ!」


 やばい、追いつかれる…


 ガ…ガガ…


「…アニラさん…探さないとっ…!」


 ダメだ、ここで捕まる訳にはいかない…!


「ぐっ…うおおおおぉ!腕に矢が生えたからなんぼのもんじゃいぃ!」


 こちとら…何度も死にかけてんだ、今更矢が刺さったからなんだ!俺は…!アニラさんを助けるんだ


 もう…誰も…酷い目には…あわせないっ!


 ガ…ガ…


「なっ…!また逃げ出したぞ!お、追え!」


「さっきより早くなってるぞ?!」


「うおおお!アニラさん!!!どこだぁぁ!」


 不思議と体が軽い…!待っててくれアニラさん…今度こそ、きっと救ってみせるから!


 …


 …


「はぁ…はぁ…」


「ちっ…属性持ちってのはここまで厄介とはな…ごほっ…」


 体が痺れて思うように動かねぇし…血も流し過ぎたな…


「…お終いだな、俺の負けだ」


 こりゃ久しぶりに使うしかねぇようだ、切り札を


「…負けを…認めるのですか」


 あいつも大量に消費する魔力でほぼ限界だ、使うなら今が絶好のチャンス


「ああ…逃げるなら勝手にしろ、参ったよ…ここまでやるとは思わなかったぜ」


「…」


 さぁ、背中を向けて逃げるといい…その瞬間が…


 俺の勝ちが確定する瞬間だ


「…何を企んでるんですか」


 ちっ、疑い深い奴だな


「何も企んでるわけないだろ、俺のこのザマでどう企めばいいんだ?」


「お、おい…!わ、私の奴隷だぞ…!何勝手に逃がそうとして…」


「黙れ」


「うひっ…」


 うるさい豚だ…もうコイツからは金は取れねぇだろうし、あの女を捕まえたら殺しちまうか?


「貴方が何を企んでいるのかは知りませんが…まぁいいでしょう。お言葉に甘えて逃げさせてもらいます」


 女は魔法を分散させ、扉へと歩き出す


「…へっ…」


 甘いなぁ…やっぱり甘いぜお前は!出会った時からよぉ!仲間に見捨てられ、人が居るわけねぇ森に逃げ…!ギャーギャー泣き叫ぶ甘ちゃんだ!


 俺は腰から切り札を取り出す


「…その甘さを恨むんだなぁ!!!」


「…!それは…!」


「魔力弾!発射ぁぁ!!」


 黒い小さな筒状の先端から、魔力の塊が撃ち出され…


「…雷よ…!」


「そんなんじゃ間に合わねぇよ!はっはっは!」


 部屋に渇いた銃声が鳴り響いた


「…かは…」


「はっ…はは…はっはっはっはっ!!!油断したなぁ!本当に逃がすとでも思ったのか?」


「…ぐぶ…ごほ…ごほ…!」


「痛てぇか?痛てぇよな…腹に小さな風穴空いてんだもんなぁ?」


 このままじゃあと数分で死ぬだろうな、後で部下に治療させるか…傷跡が残って商品としての価値は下がってもお釣りは十分取れるだろうしな


「…お前は甘いんだよ、あそこで背を向けるなんてよ」


「…はぁ…はぁ…」


「だから仲間にも裏切られるんだよ、なぁ?」


「…っ…!ごほ…」


「さ、まずは拘束して…その後は…」


 あぁ…俺はついてるぜ、本当に…最高だ


「…オレ…シ…さ…」


「あぁ?なんか言ったか?」


「…たす…け…て」


「…はんっ、今更誰かに助けを求めても遅…」


「アニラさん!!!」


「…あ?」


 扉の方を見ると、いつの間にか1人の男が立っていた


 …


 …


「…ぐっ…ぅ…」


 やっぱり…助けに来てくれたんですね…オレシさん


「…アニラさん…血が…!」


 アイツが何かを企んでいるのは知ってました…でもまさかアレを持ってるだなんて…私はやはり失敗ばかりのようです


「…オレシ…さん…」


「お前…確かヒーロー気取りの…はっはっはっはっ…またこの女を助けに来たのか?あぁ?」


 オレシさん…私は貴方のおかげでここまで戦えました、戦おうと思えたんです


 貴方は私に…諦めたはずの運命に抗う勇気をくれた…英雄なんです


「…っ…」


「んだ、その目は…また前みたいに俺にボコボコにやられてぇのか?今回は油断なんてしねぇ…一瞬で殺してやるからよ」


「…お前は…許さない」


 私はどこまで行っても失敗して…あなたを巻き込んだ最低の女です、でも…最後にもう一度貴方に甘えてもいいのなら


「…助け…て」


 私の英雄様…


 …


 …


「…」


 やっと、アニラさんを見つけたのに…目の前には血溜りが出来るほど傷ついたアニラさんがいた


「許さない?へぇ…弱い癖して言うじゃねぇか」


 俺はまた、アニラさんを助けられないのだろうか?


「お前を売るのはやめだ、俺の奴隷達を逃がし…それどころか俺に歯向かうなんてなぁ!」


 ガ…ガガ…


「…黙れ」


 違う、俺は守ると決めたんだ


 ガガ…


「んだと…お前もこの魔銃で頭をぶち抜いてやる!」


「…俺に大切なものをくれた…アニラさんを…お前は傷つけた…っ」


 コイツは、悪だ


 ガ…


 俺にとって、アニラさんにとって、奴隷の人達にとって…許してはいけない…悪だ


「死ね!ヒーロー気取りが!」


「…悪は俺が殺す」


 その思いに…全てを支配された


 …カチッ


 …


 …


「…ふん、魔銃の速度には反応すら出来ねぇだろ」


「ぐっ…オレ…シさん!」


 生意気なヒーロー気取りは頭から血を流し倒れた


「残念だったな?お前のヒーローは何も出来ずに死んだぜ」


「いゃ…うっ…うぅ…」


「さぁ、お前もそろそろ限界だろ?直ぐに治療してやるからな…大事な商品だもんなぁ…はっははは!」


 さぁ、部下を呼んで…


「…治れ」


「…!」


 声が聞こえた方を見ると、倒れていたはずの男が立っていた


「…は?」


 なんで、いやおかしいだろ…確かにお前は頭から血を流して…!


「最初…お前の魔力の流れを見た」


「…何言って」


 コイツ、あの森と同じ雰囲気…!ちっ…早く銃で仕留めないと


「…集中して…集中して…魔力の使い方、制御方法を学んだ」


「…よくわかんねぇこと言ってんじゃねぇ!喰らいやがれ!」


 銃声が鳴り響き、男の頭に魔力の塊が吸い込まれ…


 る前に男は手で塊を掴み、潰す


「…な、なん…」


 嘘だ、魔弾の速さを見抜いて…なおかつ塊を掴んで潰す?そんなの人が出来るわけねぇ!


「お前…何もんだよ…」


 こんなはずじゃ…!俺は…!


「魔力を見る方法は虎の魔物から学んだ」


 訳の分からない事を言い続ける男はゆっくりと俺の方へ歩き出す


「…!く、来るな!」


「…あの時は学ぶ事に集中して背後に気づかなかった、だから…今回はもう油断はしない」


 無表情で、淡々と喋り続ける…だが目は、俺を見つめ逃がさないと言っているようだった


「やめろ…!ば、化け物め!」


 コイツは人じゃない!こんなのが人であってたまるか…!


「体を強化する」


 そう男が言った瞬間、魔力の嵐が男の体から溢れ出す


「っ…ひ…!」


「ほへっ…ぐ…」


 視界の端で豚野郎が気絶したのが見えた


「これでお前を殺せる」


 なんだこの魔力は…今まで感じたことの無い威圧感…


 俺は…ドラゴンとでも相手してんのか?


「…ぐっ…うゎぁぁ来るなぁぁぁあ!!!!」


 無我夢中で魔銃の引き金を引く、魔力の残りなんて気にしてられない…俺はもう目の前にある死から一刻も早く逃げ出したかった


「…終わりだ」


 首を掴まれ、引き剥がそうとするが…ピクリともコイツの腕は動かない


「あ…ああ…」


 確かに当たってるはずなのに…コイツの基本強化の方が上回って、無傷だと…?


「ば、化け物め…やめろ…」


「…」


 嫌だ、死にたくない…やっと俺は…!ここまで上り詰めたんだ…こんな所で…死にたく…


「爆ぜろ」


 その瞬間、俺の中に膨大な量の魔力が流れてきたのが分かった


「…」




 ゴウダンは、体の内側から爆ぜるように死に…


 辺りには…血の雨が降り注いでいた

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