愛おしきかな我が英雄

熊坂藤茉

いつまでも色褪せない、私の唯一

 英雄ヒーローと聞いて、一体何を思い出すだろう。少女漫画の恋の相手。特撮の正義の味方。世界の秩序を守護する者。

 人によってそのイメージは様々で、大なり小なり各々の中でいだいたヒーロー観でもって定義されている。一番多そうなのは、特撮の正義の味方辺りだろうか。光の巨人とかデバイスで変身する奴とか。


 では私の中の英雄ヒーローとは何だろうか。つらかった時を救ってくれたモノ。(一方的に)苦楽を共にし、(一方的に)私が癒やされ、(どこまでも一方通行な形で)「救世ってこういうのを指すんだなあ」と噛み締めさせてくれた、私のヒーロー。

 今でも折りにつけて触れてしまう。疲れた時。悲しかった時。嬉しくて気持ちがコントロール出来なかった時。いつだって、私の側で私の心を温かく守ってくれた。


 もう随分と長い付き合いになるだろう。何と言っても生まれてそう経っていない頃からなのだから、都合大体四半世紀超え。そもそも両親にとってのヒーローだったのを、私も仲間に入れてもらったような形が近いのだから、一家揃ってヒーローにめろめろだ。


 とはいえ、流石に四半世紀だ。そろそろ覚悟をしなければならないだろう。そう考えていた矢先の特集に、私は思わず目を見張った。ここなら、きっとなんとかしてくれるだろうと。



「母さん、梱包と手紙はこんな感じでいいかな?」

「ちょっと見せてくれる? ……うん、いいと思うわ。緩衝材にポップコーンの袋とか入れてみる? この子の旅のおやつ兼、他の子達へのお土産代わりに」

「入る隙間あるかなあ……」

 箱の中に名前を書いたバスタオルと手紙、それから書類を一緒に詰め込みながら、昔のことに想いを馳せる。こんな風に掛け物をしてあげたのも、随分昔の話になるな。

「記入済み伝票持って来てくれるプランで集荷頼んだよー。明日の昼くらいに来てくれるって」

「ありがと父さん。じゃあ、そろそろ蓋を閉めなきゃか」

 目の前の箱に視線を落とす。真っ黒でつぶらな、無機質な瞳と視線が合った。

「寂しいわねえ。私達が結婚した時からいた子が暫く留守にするんだもの」

「そうだねえ。でも、リフレッシュ旅行なんだからのんびり待とうか」

「旅行に見立てたぬいぐるみの総クリーニング(旅先スナップ写真付き)なんて、やってる所があるんだねえ」

 両親が結婚記念に買ったぬいぐるみ。私の素敵なお姉ちゃん。時の流れは残酷で、薄紅色の愛らしかった彼女は、今やすっかり薄ぼけて綿も寄ってしまっている。

 見付けたお店のクリーニングプランでも一番高い、補修や綿の入れ替えをして、更に見立ての旅行写真も撮ってくれるというモノを依頼した。彼女が旅行から戻って来たら、昔のような美しい薄紅を私に見せてくれるだろうか。


「それじゃ、いってらっしゃい。私の可愛い、一番の英雄ヒーローさん」


 そう告げて、箱の蓋をぱたりと閉じる。まだまだ現役続行希望。帰って来たらまたよろしくね。私の一番大好きな、ぬいぐるみお姉ちゃんヒーローさん!

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