愛おしきかな我が英雄
熊坂藤茉
いつまでも色褪せない、私の唯一
人によってそのイメージは様々で、大なり小なり各々の中で
では私の中の
今でも折りにつけて触れてしまう。疲れた時。悲しかった時。嬉しくて気持ちがコントロール出来なかった時。いつだって、私の側で私の心を温かく守ってくれた。
もう随分と長い付き合いになるだろう。何と言っても生まれてそう経っていない頃からなのだから、都合大体四半世紀超え。そもそも両親にとってのヒーローだったのを、私も仲間に入れてもらったような形が近いのだから、一家揃ってヒーローにめろめろだ。
とはいえ、流石に四半世紀だ。そろそろ覚悟をしなければならないだろう。そう考えていた矢先の特集に、私は思わず目を見張った。ここなら、きっとなんとかしてくれるだろうと。
「母さん、梱包と手紙はこんな感じでいいかな?」
「ちょっと見せてくれる? ……うん、いいと思うわ。緩衝材にポップコーンの袋とか入れてみる? この子の旅のおやつ兼、他の子達へのお土産代わりに」
「入る隙間あるかなあ……」
箱の中に名前を書いたバスタオルと手紙、それから書類を一緒に詰め込みながら、昔のことに想いを馳せる。こんな風に掛け物をしてあげたのも、随分昔の話になるな。
「記入済み伝票持って来てくれるプランで集荷頼んだよー。明日の昼くらいに来てくれるって」
「ありがと父さん。じゃあ、そろそろ蓋を閉めなきゃか」
目の前の箱に視線を落とす。真っ黒でつぶらな、無機質な瞳と視線が合った。
「寂しいわねえ。私達が結婚した時からいた子が暫く留守にするんだもの」
「そうだねえ。でも、リフレッシュ旅行なんだからのんびり待とうか」
「旅行に見立てたぬいぐるみの総クリーニング(旅先スナップ写真付き)なんて、やってる所があるんだねえ」
両親が結婚記念に買ったぬいぐるみ。私の素敵なお姉ちゃん。時の流れは残酷で、薄紅色の愛らしかった彼女は、今やすっかり薄ぼけて綿も寄ってしまっている。
見付けたお店のクリーニングプランでも一番高い、補修や綿の入れ替えをして、更に見立ての旅行写真も撮ってくれるというモノを依頼した。彼女が旅行から戻って来たら、昔のような美しい薄紅を私に見せてくれるだろうか。
「それじゃ、いってらっしゃい。私の可愛い、一番の
そう告げて、箱の蓋をぱたりと閉じる。まだまだ現役続行希望。帰って来たらまたよろしくね。私の一番大好きな、
愛おしきかな我が英雄 熊坂藤茉 @tohma_k
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