KAC2022 当地ヒーロー田畑マン参上!!

かざみ まゆみ

第1話 ご当地ヒーロー田畑マン参上!!

「ここは海も山もない関東平野のど真ん中!」

「山は遠くに望むもの! 海は無くても生きていける!」

「田んぼと畑に囲まれた楽園を守るため!」

「関東平野のヒーロー、田畑マン参上!!」


 まだ午前中とは言え、夏の暑いステージ前に集まったお年寄りや子供たちから疎らな拍手が上がった。


 今日は地元の農協で行われているイベントに呼ばれて、田畑マンはヒーローショーを行っていた。


「いやー、雄一くん。暑い中ご苦労さま」


 青年団の団長が雄一にビールと特産品の枝豆を山ほど持ってきた。


 雄一は汗だくになりながら被り物を脱ぐと、用意しておいた冷水を頭にかけ、これまたキンキンに冷やした濡れタオルで全身を拭った。


「団長さん、お疲れさまです」


 雄一は頭からタオルを被ったままで団長の問いかけに答えた。鍛え上げた筋骨隆々とした体から、まだまだ汗が流れ落ちる。


 机の上に有るスポーツ飲料を手に取ると一気に喉へ流し込んだ。半分ほどやっと飲み干した所でやっと雄一の呼吸が整ってくる。


「雄一くん、ビールと枝豆が有るから一杯どうだ?」


 青年団とは言え、だいぶ年のいった団長がビールを勧める。


「スミマセン、団長。夕方から配送センターのバイトが有るんで遠慮しておきます」


 いくらご当地ヒーローとはいえ仕事があるのは休日中心。それ以外の日はいつも配送センターで力仕事をしていた。


「そうか、残念だな。じゃあ良かったら、缶ビールと枝豆を持って帰ってよ」


 そう言うと、団長は近くにあったビニール袋にそれぞれ詰めて雄一に持たせた。


「ありがとうございます。由実が喜びますよ」


 雄一は舞台道具を仲間に任せて、袋いっぱいの缶ビールと枝豆を軽ワゴン車に載せると自宅へと向かった。


 自宅へ帰ると妻の由実が遅めの昼食の準備をしていた。


「ただいま、団長からビールと枝豆もらってきたよ」


「雄ちゃん、ありがとう。団長さんにもお礼を伝えてね」


「あぁ。お昼を食べて少し休んだら夕方のバイトに行くから、帰ってきてから枝豆食べるよ」


「わかったわ。お仕事頑張ってね、私だけのヒーロー、いや私達だけのヒーローさん」


 由実は大きくなったお腹をさすって微笑んだ。


 ご当地ヒーローも家に帰れば家族だけのお父さんヒーローだった。

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