【KAC20228】私だけが知ってる彼
朝霧 陽月
本文
幼い頃に憧れたヒーロー像って、誰にでも一つくらいはあるんじゃないだろうか?
それが自分がそうなりたいかどうかはともかくとして、一種の憧れみたいな感じで……。
私にもそういうモノがあった。
自分だけに優しくて、ツラいときに励ましてくれて、ピンチの時には必ず駆けつけてくれる。
都合が良すぎると他人に話せば笑われてしまうかも知れないけど、私はあの時本気でそんなヒーローの存在を願っていたし……。
『大丈夫、ボクがいるからもう泣かないで』
本当に私のすぐ側に居たような気がしたんだ。
幻か錯覚かも知れない……気のせいだと思うほうが自然かも知れない。
だけど確かにその人は、私のことを助けてくれたんだ。
「ちょっとアナタどういうことなのっ——っ——!?」
「うるさいな、お前こそっ——っ——っ!!」
毎日家の中に響き渡る怒声、時には私自身に向く暴力。
目を背けたくなるものばかりの日常。
そんな中で、彼の存在が心の拠り所になって、どれほど救われたことか分からない……。
『大丈夫、大丈夫だから』
その優しい眼差しは、不安でたまらない私の心を晴らしてくれた。
その優しい声は、一人ぼっちで震えの止まらない私の身体を魔法みたいに落ち着かせてくれた。
その事実だけは私にとって、確かに現実だったんだ。
その後、私は祖母の家に引き取られて、そんな思いをすることはなくなり。
彼はいつの間にか私の前に現れなくなった。
でも、ふと彼のことを思い出す。
今、仲の良い友達の誰にも言えないけれど、ずっとずっと私を励まして助けてくれた、彼の存在を。
せめて、もう一度くらい夢にでも出てきてくれればいいのにね。
そしたら、改めてお礼を言えるのに……たくさん助けてくれてありがとう、私だけのヒーローって。
【KAC20228】私だけが知ってる彼 朝霧 陽月 @asagiri-tuyu
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