私のヒーロー、そして……

無頼 チャイ

初めて作ったお友達

 チャチャチャ、おもちゃのチャチャチャ。


 この音楽を聴くと瞼の裏に私のヒーローが現れる。

 そのヒーローは鉛の兵隊でも、最新の機能が搭載された物でもない。私が初めて作ったおもちゃのマー君だ。

 身体の節々から甘い縫い目のせいで余った糸を垂らしてるけど、まんまるの可愛いクマさんだ。

 小さい頃、完成してからずっと一緒に遊んでた友達であり、悪党を懲らしめる正義のヒーローでもあった。好きな物は毛糸のオムライスで、嫌いなものは雨。雷が鳴る日は添い寝してくれる優しい一面もあった。

 誰よりも側にいて、誰よりも私の悩みを聞いてくれて、私の心を何度も救ってくれた。


 こうして話すと恥ずかしいけど、小さい頃って人間の友達よりおもちゃの友達が多かったなんてことあるでしょ。私は後者で、家で色んな事をして遊ぶ方が多かった。


 マー君と遊ぶ時はチャチャチャって歌った。おもちゃが箱から飛び出す楽しげな歌で、何より、遊ぶ時世界が変わるから。

 ぬいぐるみが陽気に踊りだし、積み木がリズム良くチャチャっと鳴り響く。そこに現れる悪い兵隊。私がビクビクしていると、マー君が兵隊をやっつける。

 そんなお遊戯が毎日行われ、ヒーローの役だけはいつも決まってた。


 だけど、時が過ぎるとそんな楽しいおもちゃの夢も儚く美化されて遠い思い出となってしまった。

 あんなに聞こえたおもちゃの声も、あんなに楽しかったお喋りも、今となっては聞こえない。


 チャンチャンチャン。終わっちゃった。


 そのせいか、大人になった私はマー君を見つけられない。あんなに大切にしていた宝物なのに、どこを探しても見つけられない。


 おもちゃは帰る。おもちゃ箱。


 チャ、チャ、チャ。


「ママ~、これなに〜?」


「え?」


 3歳になる娘が何かのぬいぐるみを持っていた。まんまるで、身体のあちこちから糸が飛び出ていて……、


「あ」


 古ぼけた、熊のぬいぐるみ。


 そっか、来たんだね。私だけのヒーロー。


「それね、お母さんが初めて作ったくまのマー君って言うんだよ……」


 今日からは娘の、あなただけのヒーロー。

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