【855文字】あの時、救えなかった命に誓ったのだ

本埜 詩織

第1話・もう……捨てたんだ。

 目立つのは嫌いだった。だから人前では自重した。

 だけど見誤った……。

 この手はもう冷たい……。

「なんでだよ! 目を覚ませよ! 完全回復パーフェクト・ヒール!」

 出血量はそんなの多くなかった。

 だから助かると思ったのだ。

 路地裏に運んでからいつもどおりにすれば、それでいいと思っていたのだ。

「嘘だと言いってくれよ! 完全回復パーフェクト・ヒール!!」

 効果がないとわかっていて尚の二度目の回復。

 死んでさえいなければ、どんな人間だって絶対に助けることのできる俺の切り札は、

完全回復パーフェクト・ヒール……」

 夕暮れは残酷なほど赤く。俺にはまるで、それが彼女の血のように見えた。

 俺が殺したのだ。人を……。

 胃袋の中身が逆流しそうになる。

 急いで彼女に背を向けると、それを盛大にぶちまけた。

 血が交じるほど吐いた……。

 俺の心は弱かったのだ。ただ一人の死に向き合えないほど……。

 

 俺は――その日決めた――。


 もう二度と自重なんてしない。結果俺が何者になっても構わない。



――――



「おや、今度は王宮からですか? 分かりました、行きますよ」

 結果、俺はただの完全回復パーフェクト・ヒールを吐き出す機械に成り果てた。

「あぁ、今なら間に合うかもしれない」

 悲しいかな……これが結末だ。

 でも構わない。

 少なくとも、俺は今、人の死に向き合わずに済んでいる。

「ではお願いします。ヴェルン」

 そう、彼はヴェルン。自重しない同志だ。彼は転移魔法で俺と似たような経験をしたらしい。

「行くぞ」

 その言葉に頷くと、一瞬で景色が変わる。

「なんでもっと早く来てくれなかったのですかこの人殺し!!!」

 それが転移先で最初に聞いた言葉だった。

「すみませんでした……」

 間に合わなかったのだ。

 目の前では、ひとりの男性が死に絶えていた。

 どうすれば……そんなことはわからない。

「死罪にしなさい!」

 彼女は王妃だろう。

「お願いします……」

 もう生きる希望なんてどこにもなかった。

 自重しなかった結果、それがうわさになって、毎日完全回復パーフェクト・ヒールを使った。だが、また救えなかったのだ。

 生きる希望なんて、もうどこにもなかった……。

 これが俺の結末だ。

 俺は、次の日断頭台に登った……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【855文字】あの時、救えなかった命に誓ったのだ 本埜 詩織 @nnge_mer2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ