10 天使との戦闘

「ハル!」

 校庭にキヨエの大声がひびく。

「……」

 銀髪ぎんぱつの少女はキヨエのほうへ顔をむけた。

「まわりをみてみろ! 校舎なんか半分ぶっこわれちまったぞ!」

かお画像がぞうデータベースに照合しょうごう……該当がいとうするデータなし……だれ?)

「いくら虚数きょすう空間くうかんの中とはいえ、もうちょっと戦い方を考えろ、ハル!」

(……なぜわたしの個体こたい名称めいしょうを知っている? それに、この虚数空間……構築こうちくしたのはか?)

「ハルちゃ〜ん」

 チハルが両腕を大きくふりながら小走こばしりで近よってくる。

「おひさしぶりハルちゃん……って、ハルちゃんにとってわたしたちは初対面しょたいめんか。ごめ〜ん」

(顔画像データベースに照合……こちらも該当なし)

警告けいこく:エネルギー熱量ねつりょう上昇じょうしょう

 周囲しゅうい警戒用けいかいよう人格じんかくから警告がはっせられた。少女は天使のほうへと視点してんをもどす。天使の口が大きく開かれ、青い光がいまにも発射はっしゃされそうだった。少女が右の手のひらを天使にむけると、前方ぜんぽうにオレンジ色の光のたてがあらわれた。

 ビームが発射され一直線いっちょくせんに光の盾にぶつかる。着弾ちゃくだん衝撃しょうげきで盾ははじかれ、ビームの進路しんろが右ななめ後ろにそれた。先には体育館があった。体育館の屋根からかべにかけてビームで切りかれた。その0.5秒後に爆発がおこり、体育館の三分の一が吹き飛んだ。

「ほらー、いってるそばから!」キヨエがあきれてさけんだ。

(着弾の衝撃が大きくて反射はんしゃ角度かくどをコントロールできない)

 少女の中の分析ぶんせき用人格がビームの衝撃を数値にかえて、再度さいど、反射角度の計算をはじめた。

(次こそ……)

「ハル、ちょっとひっこんでろ。選手せんしゅ交代こうたいだ」キヨエはそういうと、いていた草履ぞうりをぬぎすてて、裸足はだしになった。

「おーい、エセ天使! 今度はわしが相手してやるぞ!」

「まて! 生身なまみの人間にはむり──」少女は叫んだ。

「まあ、みてろ。お手本をしめしてやるから」キヨエは不敵ふてきみをうかべ、半身はんみにかまえながら、いった。

 天使がキヨエに標的ひょうてきを変え、口を開いた。

相馬流そうまりゅう兵法ひょうほう剛式ごうしき

 キヨエがそうつぶやくと、キヨエの姿が天使の目の前30センチのところに瞬間しゅんかん移動した。いや実際には、天使までの約12メートルの間合まあいを一気につめたのだった。その時間わずか0.2秒。

 しかし、天使の口の中はすでに青い光でいっぱいになっていて、ビーム発射寸前だ。

 ばくん!

 天使のアゴが上にねあがった。キヨエの右ひじが天使のアゴにアッパーカットをいれたからだ。天使は口をとじてしまったので、口の中でビームを頬張ほおばったかたちになった。

 キヨエは、ずんっ、と腰をおとすと、あげていた右肘をふりおろし、天使の鳩尾みぞおちした。

 天使の体がくの字に折れ、頬張っていたビームを吐き出した。ビームはキヨエの頭の上ギリギリを通りすぎていった。

 ビームの飛んでいった先にはチハルが立っていた。チハルの左手のこうに少女とおなじ光の盾があった。チハルは左手の甲を前につきだすように盾をかまえた。

 ビームが盾にあたるジャストのタイミングにあわせて、チハルはテニスのバックハンドのように、軽快けいかいに盾をふった。ビームははじきかえされ、来た進路をそのまま、まっすぐもどっていった。いたままになっていた天使の口の中に、ビームがすいこまれた。

 じゅっ。

 ねっしたフライパンの上に水をたらして蒸発じょうはつさせたような音がした。蒸発したのは天使の首だった。天使の首から上が、消えてなくなっていた。

 頭がなくなった天使はうしろに、バタン、とたおれた。


かい

 チハルがとなえると、フミカたちをつつんでいた結界けっかいがきえた。

 チハルは、おでこに護符ごふをはられて寝ている、二体の妖怪の首にネックレスのようなものをかけた。それは神社でよくみるふつうのお守りだった。チハルはおでこの護符を二枚ともはがした。

「うう……」

 妖怪たちは目をさました。フミカはまたおそわれるんじゃないかと、おもわず身構みがまえた。

 すべらせ坊が両腕を大きくひろげて体をのばしながら「ああ、よくねた。あれ? ここ、どこだ? 学校にいたはずだけど」といった。ソウタの声だった。

「うわあ! おばけえ!」岩男がすべらせ坊をみて、さけんだ。カジの声だった。

「え? その声? おまえ、カジか? なになに? いったいどうなってんの?」

「……その声はソウタ?」

 二人の妖怪はおたがいの姿をみて、きょとんとしたいる。

「どうゆうこと?」フミカはひとりごとのようにつぶやいた。

「首にかかってるお守りの力で意識だけ元にもどったんじゃ」フミカがうしろをふりかえると道着姿のキヨエが立っていた。「体は妖怪のままだけどな」

「てゆうか、いったいなんなの。あの天使みたいなのもナニ? 全部説明してくれる、ママ!」

「う〜ん……説明するとなると長くなるし、おなかもいたから、とりあえずウチに帰ろうか。ごはんを食べながら説明するわ」チハルは妖怪の姿のままのソウタとカジにむかって「ふたりもおいで。いっしょに夕ごはん食べましょ」といった。そして、すこしはなれたところに立っていた銀髪の少女のほうへ視線を移して、こうつづけた。「あと、ハル。あなたもね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぼくたちが地球を救いました 葛飾ゴラス @grath-ifukube

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ