9 ヒーロー見参

は本当に終わっ──)

 と思いかけた瞬間、二体の妖怪は体を硬直こうちょくさせてしていた。妖怪の体に青白い稲妻いなづまがまとわりついている。どうやら感電かんでんしているようだ。

「ギリギリセーフ」うしろから声がした。聞きおぼえのある声だ。うしろをふりむく。

「ママ!」

 巫女みこ装束しょうぞく姿すがたの母チハルが立っていた。

「ヒーロー見参けんざん!」

 チハルは〈護符ごふ〉とよばれるおふだを数枚、右手の人差し指と中指にはさんで、「シャキーン!」といいながらポーズをとった。

「なんで?」フミカには母のポーズにふれている余裕よゆうはなかった。キメポーズを無視されたチハルはすこし決まりが悪そうに、「コホン」とせきばらいをひとつした。

「説明は後回あとまわし。ここはあぶないから私からはなれないでね」

 と言った。

「ママ」

「ん、なあに?」

「あそこでしびれている妖怪のふたり、私の同級生どうきゅうせいなの」

「え、どうゆうこと?」

 フミカはここであったことを端的たんてきにはなした。

「ええ! この妖怪たち受肉じゅにくしてるの? 結界けっかいの中だから実体化じったいかしてるんじゃなくて?」

「よくわかんないけど」

「つまり、フミカのほかにもここに人がまぎれこんでたってこと?」

 フミカはうなずいた。

「おかしいなあ。そんな話きいてないわ。にちも一日はやまってるし。……未来が変わっているの? だとしたら……」チハルはぶつぶつとひとりごとをいった。

「ママ?」

「あっ、ごめん。あの二人は同級生なのね。じゃあ、ビリビリのままじゃかわいそうね」

 チハルは両手でいんむすぶと、

かい

 ととなえた。

 妖怪たちをとららえていた青白い稲妻いなづまが消え、二体の妖怪はどさりとその場にたおれこんだ。が、すぐに生気せいきをとりもどし、今度はチハルに標的ひょうてきを変えて、突進とっしんしてきた。

「ママ!」

 チハルは紙一重かみひとえのところでひらりと妖怪たちの突進をかわした。二体の妖怪は交互こうご攻撃こうげきをくりだしてくる。しかし、チハルはすずしい顔でそれをよけつづけた。

 すべらし坊がパンチとキックの連続れんぞく攻撃こうげきをしかけてきた。目にも止まらないはやさだ。しかしその攻撃は一発もチハルに当たることはなかった。チハルは、まるでまいでもおどっているような優雅ゆうがさで、攻撃をよけつづけた。

 すべらし坊の渾身こんしんの右ストレートがチハルの顔面がんめんにのびてきた。が、チハルは数センチ首をかたむけただけでそのパンチをよけると、カウンターですべらし坊のおでこをたたいた。すべらし坊は、糸の切れたあやつ人形にんぎょうのように、ぐにゃりとその場にくずれ落ちた。倒れたすべらし坊のおでこには〈護符ごふ〉がられていた。

 間髪かんぱついれず、チハルの背後から岩男がおそいかかってきた。まるで大きなかべたおれてくるかのように、巨大な影がチハルにおおいかぶさってきた。岩男はその巨体でチハルをまるごと押しつぶそうとしているのだ。

「ママー!」

 今まさにチハルが押し潰されるという寸前すんぜん

相馬流そうまりゅう兵法ひょうほう柔式じゅうしき

 チハルがそうつぶやくと、岩男の巨体が空中で大きく一回転した。

 ズッドーーン!

 岩男の巨体が廊下の床に打ちつけられ、大音量だいおんりょうひびかせた。

「え?」

 フミカは、目の前でなにが起こったのかわからなかった。手品でもみせられたような気分だ。

 だいの字で倒れている岩男のおでこに、チハルが〈護符〉を貼る。すると岩男が、ガーガーといびきをかきはじめた。

「大丈夫よ。てるだけだから。あとでちゃんと除霊じょれいしないとね」

「あ……うん」フミカは混乱していた。

「この二人をかかえて避難ひなんするのは無理ねえ」床で寝ている二体の妖怪をみおろしながら、チハルはいった。

「しかたない。ここに結界内けっかいない結界けっかいを張るわ」

 そういうと、一枚の〈護符〉を床に落とした。すると、半透明はんとうめいのドーム状の光のかべがフミカたちをつつんだ。

 床に落とされた〈護符〉には、「結界5m」と書かれていた。

 すさまじい爆音ばくおんが響く。ちかくでなにかが爆発したようだ。大量のがれきが飛んできた。が、それらはすべて光の壁にさえぎられ、ドームの中に入ってくることはなかった。

 チハルはフミカに笑顔をむけると、

「これで、この中が安全だって、わかったわね」

 といった。

 周囲しゅういは煙でなにもみえない。

 しばらくして煙が晴れると、教室があったはずの場所ががれきの山になっていて、校庭がむき出しになっていた。

 校庭には、天使と銀髪ぎんぱつの少女が立っていた。そして、もう一人……。

「ばあば?」

 フミカの祖母キヨエがいた。

 キヨエはいつもの巫女みこ装束しょうぞくではなく、白い道着どうぎこんはかまという姿だった。

「ばあば、なにやってんの? あんなとこにいちゃあぶないよ」

「大丈夫」

 チハルはそう言うと光のドームから出ていった。

「ママ! どこ行くの!」

「フミカ。そこから絶対出ちゃダメよ。わかった?」

「うん。それはわかったけど……」

「まあ見てなさい。ママとばあば、ここからカッコイイからさ」

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