理想のヒーローを合成してみましょう♡

脳幹 まこと

白馬の王子様


 サイアク。

 かれぴっぴに振られた。

 アイツはあたしのすべてだったのに。

 あたしはアイツのすべてじゃなかった。


 気晴らしに猫の動画でも見ようかなと思ったら


――理想のヒーローを合成してみましょう♡


 だってさ。

 うざ。

 いつもうざいんだけど、今日に限っては八割増しうざい。


「クール」「高身長」「細マッチョ」

――オレがお前を護ってやる。


 色々なキャラクターの上半身が出てくる。肖像画みたいだ。


「動物系」「かわいい」「中性的」

――ずっとボクのそばにいてね?


「ドS」「殺し屋」「銀髪」

――わがままなお前には、ちゃんとお仕置きしないとな?


 なぜか毎度違うタイプを選択する気分屋なプレイヤーの操作を見つめる。

 なんか、こういうゲームにお気に入りの声優とか使われてると、へこむよね。


 放置するだけで、ヒーローを作ってくれるんだって。

 それが出来たら苦労しないわ。


 はー、あほらし。


 宮原孝樹みやはらこうき(愛称:ハラコー)がこれに出ているなんて、全然信じられない。


 あー……


 これ、ひょっとして、ハラコーに慰めてもらえたりするのかな。

 

 ちょっと嬉しい、っていうかかなり嬉しい。


 アタマおかしくなってんのかな。

 別にいいんだ。ジュンに振られたんだから、あたしはもう生きてけない。



 というわけで「少年=アカデミア」をやってみることにした。


 敵倒すと数字とかが増えるやつとか、ロックを外すと溶岩とか流れてくるやつみたいに、広告とゲーム内容が違うなんてことが問題になっていたりするんだけど、これについては、まあ大体は一緒だった。


――属性を選びましょう♡


 色々出てきた。ここは広告通り。

 えーと、そうだな……

「動物系」「茶髪」「品がある」「足が速い」「白馬の王子様」


 なんでだろ、アイツのこと忘れたいのに、近いものばかり選んでる……

 でも、アイツみたいにマオに乗り換えるようなヤツはイヤ。

 あたしだけを見てくれるのがいい。


「ヤンデレ」を属性に加える。


――声を選びましょう♡


 サンプルボイスが出てくる。

 勿論、CV.ハラコーのものを選択する。


――名前をつけましょう♡


 いちいちハートが付くのうざいな。

 名前ね……「ケンタ」にしようか。ちょっと日本人すぎるけど……


――これでどうですか♡


 あい。

「彼を選ぶ」をタップする。


――ありがとうございます♡ これから、あなただけのヒーローがうまれるよ♡


 その声が終わると、アプリが終わってしまった。

 よくわからんが、これで放置すればいいんか……




 翌日。

 あたしは寝坊した。

 ジュンにどう会えばいいのか分からなくて、全然眠れなかったからだ。

 パンをくわえて走っていると、先の曲がり角から「パカラパカラ」と物凄い音が聞こえてきた。

 思わず止まると、見慣れないものが飛び出てきた。

 それはすぐさま走り去ってしまったが、それは白馬に乗っていて、茶髪。

 そして、あたしのガッコーの制服を着ていた気がする。


……いやいや、なんかのドラマの撮影っしょ。



 朝会にはなんとか間に合った。

 ジュンとマオが仲良さそうにだべってて、ムカつきがヤバい。

 ハゲ校長の話が長くて意識が遠江とうとうみ


 その時


「うわっ、なんだね君は!!?」


 教頭が騒いだ。

 校庭にイヌならぬウマが入り込んできた。

 それは一目散にあたしのクラスに向けて突っ込んできた。


 最初こそは楽しげな雰囲気で、スマホを取り出す余裕すらあった。

 止めに入った体育教師のゴリ岡がかれ、体じゅうがあらぬ方向にひん曲がったのを見て、楽しい時間は悲しい時間に変わった。


「ぴええええええええん!!!!」


 叫び声をあげるクラスメート。

 もちろん、ジュンもマオもその中に入っている。

 先に先にと逃げていくが、そうはいかない。

 ヒーローは足が速いのだ。



――ヒィン品品ヒヒィィィィン!!!!


 人気声優ハラコーがいなないて、追いかける。

 次々と、邪魔なクラスメートをはねとばしていく。

 哀れ、メガネくんは踏まれ、ヒヅメのあとが背にくっきりと残る。


 しばらく暴れ回って、

 尻軽共ジュンとマオは白馬の狙いが自分であることに気付いたようだ。


 すると、元かれぴっぴは――あ痛くて震えるマオをかばって、こんなことを言う。


「オレがお前を護ってやる」


 そう、そうなんだ。

 ジュンの気持ちはそうなんだ。

 それは、あたしにかけてほしかった言葉だったのにね。


 残念。

 それじゃあ……



 わがままなお前には、ちゃんとお仕置きしないとな?

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