俺は、彼女だけのヒーロー

さばりん

俺は彼女だけのヒーロー

「よしっ……そろそろ寝るか」


 一日の勉強を終え、俺、鳥澤光とりさわひかるが眠りにつこうと思ったところで、スマートフォンの通知が届く。

 通知をタップしてみると――


『迎えに来てー!』


 というメッセージが届いていた。


「はぁ⁉ 今からかよ……」


 俺はスマホの時計に目を向ける。

 時刻はもうすぐ日を跨ごうとしていた。


『めんどくさい』


 俺がそう返すと、すぐに既読がついて――


『終電逃しちゃったの!』


 というコメントと共に、目をキラキラとしたキャラクターのスタンプが送られてきて、スタンプには『お願い』と書かれていた。


「はぁ……ったくしょうがねぇな」


 俺はため息を吐きつつ、コメントを打ち込む。


『どこまで迎えに行けばいい?』

『流石ぁー! 頼りになるぅー! ○○駅まで来てー! 愛してるよん♪』


「ったくもう……」


 俺は再びため息を吐き、ハンガーに掛けてあったコートを羽織って、玄関へと向かった。

 駐車場へと向かい、車へと乗り込みエンジンをかける。

 そのまま夜道を運転して、駅のロータリーへと到着すると、彼女が停留所付近に立っていた。

 ウィンカーを出して車を止め、俺はカーウィンドウを開けて顔を向ける。


「ほれ、さっさと乗れ」

「ありがとー!」


 そう言って助手席に乗ってきたのは、幼馴染の鳥澤実里とりさわみのり

 彼女が助手席に乗り込んだ瞬間、つーんと酒臭いにおいが漂ってくる。


「ったく、また豪快に飲んだな。明日二日酔いになっても知らねぇぞ?」

「いいもーん。明日仕事休みだしー!」

「俺は仕事なんだが?」

「じゃあ明日は休んでイチャイチャしよ?」

「出来ない」

「えぇーっ……」

「可愛らしく拗ねても駄目」

「むぅ……」


 俺はアクセルを踏みながら、帰路へと着く。


「いいもんねー。今日は光のベッドで寝てやるー」

「自分の部屋で寝てくれ」

「いーやーだー」

「じゃあ俺は光の部屋で寝る」

「それじゃあ私も自分の部屋で寝る!」

「はぁ……もう勝手にしてくれ」

「いぇーい、勝ちぃー!」


 これ以上言い争いをしても不毛だと思い、俺は放棄する。


「やっぱり光は優しくて、いざという時に助けに来てくれる私だけのヒーローだからねぇー」

「ただこき使われてるだけなんだよなぁ……」


 とまあ、そんな感じで幼馴染兼酔っぱらった嫁を、今日も俺は家まで送り届ける。

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