あはっ❤️私だけのヒーローが輝いているぅぅう
黒銘菓(クロメイカ/kuromeika)
第1話
人間は21世紀を超えて変わった。
『進化した』と言っても良い。
身体能力が上昇し、脳機能も上昇。そして、前時代ならば超能力や特殊能力と呼ばれるものを手に入れた。
そんな世界で人々は一層栄え、栄えた分だけ闇を生み出した。
能力を使って一部の人は悪に走っていった。
従来犯罪に対応出来ず、世界は悪に染まる……と思っていた。
『任せてくれ、僕達に!』
能力には能力を。
能力を用いて悪へと立ち向かう勇者達が居た。
人々は彼らを讃え、『ヒーロー』と呼んだ。
「はい逮捕!透明化は泥棒に使っちゃダメだぞ。」
脇に何かを抱えるポーズをした男は眩い笑みを浮かべた。
「クッソ……なんで解ったんだよ?」
どこからともなく悪態をつく声が聞こえ、笑顔の男の脇に苦虫を嚙み潰した顔の男がいきなり現れた。
「じゃぁ、僕は次に行くから、宜しくね。」
脇に抱えていた男を警察に渡して彼は屈伸運動……空へと飛んで行った。
「有難う御座います。ザ・グレート!」
「どーいたしましてー!」
底抜けに明るい声が間延びして聞こえてきた。
ヒーロー、『ザ・グレート』。
彼自身がこの名前を名付けた訳ではない。
周囲が彼をそう呼ぶようになった。
この進化した社会にあって、ありとあらゆる事件を犠牲無く最も多く解決した偉大なる超人。故に『ザ・グレート』。
超人たる彼は犯罪を犯したもの、被害を受けた者、ファン、アンチ、それ以外、兎に角誰に対しても真摯で優しく常に笑みを浮かべた非の打ちどころの無い完璧過ぎるヒーローだ。
そんなザ・グレートは今日を終えて、街の裏通りに人目を忍んである人物に会いに来ていた。
その顔に、笑みは無い。
「明日起こる事件は10:00~南通りの銀行強盗・13:05~中央通りでスリ・14:14~北大通り全域で通り魔・19:10~中央通りのセントラルビルで爆弾事件。
ぜーんぶ、解決してねぇー。完璧なヒーローさぁん。
じゃないと……この街を犯罪の巣窟にしちゃうわよぉん?」
ヒーローの話相手の唇にはルージュが引かれ、華奢な身体に赤いドレスを纏い、闇の中でも妖しく艶やかに映えていた。
「分かった……」
「不満そうねぇ。何ならもっと増やす?殺人とか、火事とか、子ども被害者ってのも良いわよね?」
「止めろ!お前の言う通り踊ってやる。だから、止めてくれ。」
ザ・グレートの顔は苦痛に歪んでいた。
「嗚呼、嗚呼、とッッッッても良いわね。
正義の心を持ちながらもそれ故に悪の脅しに屈してしまうヒーロー。
悪を拒否出来ず、自身のヒーローとしての名声はそれ故に高まる。
笑みの裏に潜む苦悩と苦悶。
ぞくぞくするぅぅぅぅうううううううう!」
自身の腕を抱きしめる様に痙攣するその姿は万人が嫌悪感を抱く、正に狂気だった。
5年前に出会った悪党の提案はシンプルだった。
この街を殺戮と破壊で満たされたくなければ自身が作った犯罪を解決しろ……という意味不明なものだった。
最初は分からなかったが、直ぐに真意が分かった。
この悪党はヒーローが好きなのだ。
ヒーローが悪を倒し、足掻き、苦しむ様が見たいのだ。
だから自分を悪にして、ヒーローを作り出して遊んでいる。
「明日も、頑張ってね。私の、私だけのヒーローさん?」
あはっ❤️私だけのヒーローが輝いているぅぅう 黒銘菓(クロメイカ/kuromeika) @kuromeika
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます