禁歌

つくお

禁歌

 トゥカは歌をうたおうとした。決して歌ってはいけない歌だったので、慌てたミリが彼の口を塞いだ。トゥカは拗ねたが、ミリもなぜその歌をうたってはいけないのかは知らなかった。それは彼ら一族がこの星に来て以来、言い伝えられていることだった。二人とも禁を破るとどうなるかもまた知らなかった。

 トゥカはなぜ歌われたことのない歌なのに、自分たちはそれを知っているのだろうと言った。ミリはわからないと首をふった。二人が知ってるのは、それがこの世のものとも思えないほど美しい歌だということだけだった。それは一族がかつて住んでいた星を滅ぼした神が破壊と共にうたっていた歌だとも言われていた。

 ふいにミリがそれは同じ歌なのだろうかと疑問を口にした。彼らは記憶よりも先にその歌がどんな歌かを知っていたが、トゥカの思っている歌とミリの思っている歌が同じだという証拠はどこにもなかった。トゥカは自分もちょうど同じことを考えていたというように強く頷いた。

 しつこい交渉がはじまった。トゥカはあの手この手を尽くしてミリに一緒に歌ってみようと掛け合った。根負けしたミリは出だしだけならと渋々応じた。二人は将来を約束した仲だったし、ミリにしても歌の秘密に興味がないわけではなかった。

 トゥカとミリは禁忌を冒すことへの畏れと興奮を感じながら、それぞれが知っている歌をせーので歌いはじめた。その途端、二人は突如出現した次元の狭間に吸い込まれ、粉砕機に放り込まれたみたいに肉も骨もぐちゃぐちゃになってしまった。

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禁歌 つくお @tsukuo

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