第4話「許容量がいっぱいです⁉」

 ――爆暮の目の前には、大きな一匹のオオカミ。


 ……ただ一匹である。さっきのスライムより数は少ない。


 が、絶対こっちの方が強いというのは爆暮も肌で感じた。


 だがしかし!


 そこでめげないのが爆暮と言う人間だ。


 それがかっこいいと思っているただの馬鹿が。


 ――爆暮埜来介なのである。


「やってやろうじゃねぇか!」


 爆暮は武器と呼べるようなものを短剣しか持っていない。


 爆暮は思考を巡らせる。この装備で強そうなオオカミに勝つことはできるのか……。


「あ! そういえば!」


 ついさっきのことなのに忘れていた。


「そうだスキルがあったんだ。【スライムパーティ】って弱そうなスキルだけど、ちょっとくらい役に立つだろ。スライムがたくさん出てきて味方してくれるみたいな……」


 ウィンドウを開いて、【スキル】の欄の【スライムパーティ】というところをタップする。すると、説明書きが出てきて、こんなことが書かれていた。


『【スライムパーティ】

 取得条件:回転しながらスライムを倒す

 使用方法:あなたがかわいいスライムたちが喜びそうな優しい声で「スライムパーティの時間だよ」と言う

  内 容:野生のスライムたちがあなたのそばに集まってくるよ。

     でも気を付けて。野生だから、あなたにも攻撃しちゃうよ。』


「………………」


 爆暮はしばらく沈黙し。そして口を開く――


「――なんだよこのクソスキルは! 何の役に立つってんだ! レベル上げ用スキルか? そんなんいらねぇんだよ!」


 爆暮は地団太を踏んで、思いっきりこぶしを握り締めた。


「お前ぶっ殺してやる!」


 気付けば爆暮の怒りの矛先は、オオカミの方へ向いていた。そのオオカミが意外と大人しくその場にとどまっているという事にも気づかず、怒りに任せ、爆暮は――


「――おっりゃぁっ! 死ねぇ――っっ!」


 ザシュッ。…………バタン。


 オオカミも爆暮の俊敏さに驚いただろう。オオカミが爆暮の接近に気づいて抵抗しようとしたときには、もう首筋を斬られていた。


 バタンと倒れた直後、血などは出ず、オオカミの体は空気に溶けるように霧散した。


「おっら――やったったぞぉ!」


 爆暮は咆哮した。爆暮はオオカミを倒した――しかし。


 ――ササササ。


 爆暮の雄たけびによって音がかき消され、何者かが爆暮に襲い掛かろうとしているのに、爆暮は気付いていなかった。


「俺の勇姿を見ろリア充ども――」


 ――ザッ!!!


「痛ったぁぁぁぁぁぁ〰〰!!!」


 爆暮は――


「し、死ぬ〰〰!!」


 ――とても大きな一匹のクマに、背中を爪でひっかかれたのだ。


 爆暮は、普通に痛みを感じていた。


「なんでっ……痛覚無効とかないのかよぉぉ〰〰!」


 そんな便利なものはなかった!


 この世界にはHPも存在しない。だってここはゲームみたいな世界ではあっても、ゲームの世界ではないのだから。ここは一つの〝現実〟なのだから。


「痛――っ!」


 涙がでて、ただ痛い痛いと叫ぶ爆暮。


 痛い、熱い、怖い。


 目の前に突如現れた脅威――――――クマ。


 元の世界では…………都会では一切目にすることのないクマが、ここには普通に暮らしているのだ。しかもここはゲームのような世界。クマは容赦なく人を襲ってくる。


 痛い、苦しい。爆暮は意識が朦朧としてきた。でも爆暮はもう……この感覚には慣れていた。


 爆暮は何も考えず。


 ただ立ち上がる。


 燃える魂を思いっきりぶつけて。


 自分の信念を貫き通すために!


「………………」


 何も言わず。ただ短剣で。目の前のクマを刺すだけ。カッコよく斬ることなんてできない。ただ、生き延びるために刺すだけ。ここで死んでどうなるのかはわからない。爆暮は何も考えず――否、何も考えられない無の状態で、クマを刺しまくった――。


 ――――――と。


 爆暮の意識が覚醒したころには、周りにクマは見当たらなかった。倒した……のだろうか。背中の傷は…………痛くない。背中は見えないが、これは完全に治っている。


 あの深い傷がこんなにすぐに治るはずがない。


「どういうことだ? この世界に来ると自然治癒能力が上がるとかあるのか? それともクマを倒したことでスキルを得てそれで……ってそれはないのか。スキルを得る前にスキルを取得するかどうか聞かれるんだし」


 どういう事かはわからない。わからないが、治ってよかったと爆暮は心の底から思った。それから、爆暮はウィンドウを確認してみる。すると――


『おめでとうございます。スキル【命に代えてでも】を発見しました。

 しかし、許容量がキャパシティいっぱいです。捨てます。』


「はぁ⁉ 許容量がいっぱい⁉ 1つしかスキル持てないのかよ! 絶対こっちのがいいスキルだろ!」


 爆暮は【スキル】の欄を見てみる。すると、〈発見スキル〉と書かれた枠の中に【命に代えてでも】が追加されている。その説明を見てみると――


『【命に代えてでも】

 取得条件:大けがを負った状態でモンスターを倒す

 使用方法:攻撃を食らいそうになると自動で発動する

  内 容:自動で相手の攻撃をガードし、更に一撃必殺のカウンター

     攻撃【シールドアタック】をすることができる。ただし、相

     手がどんなスキルを使用したとしても、この攻撃は必ずヒット

     する。』


「………………」


 爆暮はまたしばらく沈黙する。そして口を開く――



「――なんだよこのチートスキルは! 攻撃自動で避けて、更に一撃必殺のカウンター攻撃? なんだそれは!」



 爆暮は息を切らしながら、ウィンドウを見つめる。


「スキルを1つしか取得できないとして……どっかでスキルを変えることができるだろ…………」


 爆暮はスキルの欄を隅々まで見てみる。


「スキルの変更とかないのか…………あっ! ってこれ……」


 爆暮の視線の先に書いてあったのは――


『※注意※

 スキルの変更・削除はできません』


「………………」


 爆暮はまたまた沈黙する。そして口を開く――


「ああもうヤダ! 全部ヤダ! この世界嫌い! 全部嫌い! ヤダヤダ帰りたい〰〰」


 ――ピロン。


 音が鳴った。


 爆暮がウィンドウに目を移すと、新たに【新着メッセージ】という欄が追加されていた。


「……なんだこれは?」


 また嫌な予感がしながらも、爆暮はそこをタップしてみる。すると――

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キャパシティラック~許容量がいっぱいです!~ 星色輝吏っ💤 @yuumupt

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