第3話「初めての戦闘」
「気をつけろって言われても……」
「キャハハ! お前の苦しむ顔が見れて幸せだよォ。そういう顔が見たいから神様になったんだ……」
神様の声が急に気力を失ったように窄まっていく。
「どうしたんだ?」
「何でもない!」
「…………」
「ギャハッ! 私を心配してるのか? お前らしくもない。お前はただの偽善者の癖に!」
「俺は偽善者じゃない!」
「偽善者だ」
爆暮が声を振り絞っても、神様は表情一つ変えずに淡々と言う。
「お前は偽善者だ。それは絶対に変わらない」
「なんでそんなこと言えるんだ!」
「私が神様だからだよ」
淡々と、冷酷に、諭すように告げる神様。
「当然だろォ? 私は神様なんだ。なんでもできる。できないことなんてない。でも、何でもしていいわけじゃない。何でも出来たら、自分を制限するしかないんだよ。私はお前らみたいなクズどもを取り締まって、良いようにできる。誰も逆らうことなんてできない。できないけれど、世界を平穏なまま保つにはこれしかないんだよ。分かってくれ。……いや。今すぐ分かれよォ! 早く異世界に行ってしまえ! お前みたいなやつがいっちばん大好きなんだからナァ!」
爆暮の意識は朦朧としていた。その曖昧な意識の中で、目の前で泣きそうになりながら叫ぶ神様の姿が爆暮にどう映ったのか。それは爆暮自身にもよくわからなかった。その思いに感激したのか、はたまた怒りを覚えたのか。
「…………」
強烈な眠気のような膜に覆われそうになった爆暮は……ゆっくりと目を閉じた。
目を開けたときに何があっても怒らない。このまま目を開けなかったとしても何も言わない。そう自分に言い聞かせて、意識を絶った。
――――と。
爆暮は意識を取り戻した。仰向けで寝転んでいる状態だ。手の感触は生暖かい。
でも少しチクチクする。日光を存分に浴びた草だろうか。他の感触は……そうだ。衣服を着ている。サイズの合った服だ。きっとあの神様が用意してくれたのだろう。
俺はやはり異世界に転生したのだろう。日の光が当たって気持ちがいい。
「ふぅ……」
息を吐いてから、「よしそろそろ起きるか」と言ってから目を開けると……そこは神様の言っていた通り、森の中だった。
「……さて。きっとあの神様のことだから、しばらくこの森からは抜け出せないんだろうな」
呟いて、自分の体中を見回してみる。
探検服を着ていて、ズボンには短剣がかかっている。ぴったりの鞘に納まっているが、片手ですぐに取り出せるようになっている。そして金は……あれ無くね?
ポケットを探ってみるが、何も入っていない。
「あれ? もしかしてどっかに落ちてたり…………あ!」
今まで気づかなかったが、爆暮の後方にリュックサックが置いてあった。
「この中に1000Gが……?」
中を見ると……革製の綺麗な黒い財布が入っていた。その中を見ると、『100』と書かれた銀の硬貨が10枚入っていた。
「これがGか…………ん?」
財布をあさっていると、一緒に白い紙が入っていた。
「なんだこれは……?」
紙を見てみると……こんなことが書いてあった。
『ヒャハッ! 爆暮
この世界を楽しんでもらうために、説明しておくことがある。
まず1つ。お前の胸をトントントンと3回たたいてみろ。そうすると、目の前にウィンドウが現れて、スキルやらアイテムやらが見れる。
そして2つ目。衣服についてだが、これは結構特殊だ。現実のようにいかないから気をつけろよォ。衣服にはそれぞれ【Tシャツ】【コート】【ズボン・スカート】【レギンス・スパッツ】みたいに〝タグ〟というものがついているのだが、同じ〝タグ〟が付いている衣服は身に着けられないようになってる。【Tシャツ】の重ね着はダメだが、【Tシャツ】の上に【コート】を着るのはOKってことだ。
後は……何か大事なことを言うのを忘れてる気がするがマァいっか。せいぜい頑張れよォ』
……こんな事が書かれていた。
「なんだそれは。同じ〝タグ〟が付いたものは身に着けられないだって? 意味が分からないじゃないかよ。まあ神のイタズラなのかもな……よし」
爆暮は疑問に思いながら。
……胸を3回たたいてみた。
すると、アニメとかでよく見るVRMMOゲームのようなウィンドウが現れた。
「えっと……【アイテム】に、【スキル】に、【コスチューム】に、【設定】っと。やっぱり【ログアウト】とかはないんだな。そりゃそうか。死んだ人間がログアウトしてどこへ行くんだって話だもんな。天国とか行ったら楽しそうだけど…………そういや【設定】ってなんだ?」
爆暮は行くとしても地獄だが……こほん。そんなことは置いといて。
気になって【設定】を押してみる爆暮。
すると……
「《ニックネーム設定》……? ここでの名前を決めれるってことか?」
爆暮は『ノキスケ』と入れて《OK》を押す。しかし――
「あれ?」
――画面にはエラーの文字が。そしてその下には……
「1文字までしか打てません⁉ なんだそりゃ⁉ 意味わかんねえぞ」
そこには《1文字しか打てません》という忠告が、圧倒的存在感を出していた。
「いや1文字って……いくらなんでもそれは……」
爆暮はもう一度『ノキスケ』と入れて《OK》を押す。
しかし、現れるのは《1文字しか打てません》という文字。
「これ欠陥だろ……また神のイタズラか何かなのか……はぁ。まあいいか」
爆暮は『ノ』と打って《OK》を押す。
「ふぅ……これでよし」
とりあえず探索してみようと思い、爆暮は森を歩いてみる。……とても静かだ。森の動物――いやモンスターみたいなものはいないのだろうか。
全部夜行性とか……たぶんそれはないだろう。どこかに息をひそめているのかもしれない。
爆暮は耳を澄ます。すると…………ぽむ、ぽむ。ぽむ、ぽむ…………。
「なんだこれは? 何かが跳ねる音?」
前方から聞こえてくる音を聞き取った爆暮は足音を消して、音の方へ近づく。
ぽむ、ぽむ。ぽむ、ぽむ……。
その音を出していたのは――
「スライムっ⁉」
――真っ赤なスライム2匹だった。
…………ジロリ。
爆暮が驚いて叫んだため、スライム2匹は爆暮に気づき、警戒しながら爆暮を睨んだ。
「なんだこいつら……」
爆暮はあまりにもファンタジーな生物がそこにいたので、声を失ってしまった。
「……ま、まあ当然だよな。ここはそういう異世界なんだから……大丈夫だ。俺は短剣を持っている。短剣さえあればスライムなんて余裕で倒せるだろう」
「シャーッ!」
爆暮がカッコつけていると、スライムたちが一斉に襲い掛かってきた。爆暮は体力には自信がある。
爆暮は短剣を取り出して。
スライムたちが近づいてきたところに突き――
「カッティングスラッシュ!」
――ささなかった。
爆暮はわざわざ一度攻撃を避けてから。
回転しながらスライムたちを斬りつけた。
これを見れば、誰もが爆暮は中二病だと思うだろう。
――ここには残念なことに誰もいないが。
スライム2匹の体は溶けるように消えっていった。
「はっはっは。俺にかかれば余裕だろう」
――ピロン。
「? なんだ?」
何か音がした。でも直接脳内へ伝わってくるようだった。
爆暮がウィンドウを開てみると――
『おめでとうございます! LEVELが上がりました。
あなたのLEVEL 1 → 2』
「うぉっしゃー! レベルアップだあ! こんなに簡単にレベル上がっていいのか? 俺すぐにカンストしちゃうぞ?」
カンストなんて無理だろどうせ。というかカンストがあるのかどうかすらわからないのに。
――ピロン。
「? またか」
すぐにまた音が鳴った。
ウィンドウをもう一度見てみると――
『おめでとうございます。スキル【スライムパーティ】を発見しました。
取得しますか? 《YES》or《NO》』
「? なんだよ。勝手に取得すればいいだろスキルなんて。なんでそんなこと聞くんだ?」
爆暮は迷わず《YES》を押す。
「はあ疲れた。やはり戦闘は疲れるなあ……」
嘘である。あんなんで疲れる奴なんてほとんどいない。
「はぁ……」
――ザザザッ!
「なんだ?」
近くの草の陰から物音が聞こえた。
「あ、あれは――」
爆暮の目の前にいたのは……
「――オオカミ⁉」
…………がたいの良いオオカミだった。
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