開拓村の夜間警備 ~欠けた開拓地のそこそこ平和な日常~

海原くらら

深夜、かがり火の焚かれた兵士詰め所前にて。

 ッ!

 そこで足を止めなさい!

 動かないで!


 そこの、かがり火の横まで歩いてきてください。

 ゆっくりですよ。妙な動きはしないように。

 いいですね?


 ……。

 夜警の住民三名、確認。

 はいはい。こんばんは。


 ふー。ちょっと深呼吸させてください。

 まったくもう。

 驚かせないでくださいよ。


 はいはい、槍は下ろしますから。

 おーい、みんなも槍を下げて。警戒解除。

 通常警備に戻ってください。


 え? 

 いやいや。大げさなんてことはないです。

 そりゃこんな真夜中に、しかも明かりを消した状態で後ろから近づかれたらねぇ。


 というか、明かりはどうしました?

 たしかカンテラを持ってましたよね?


 あら。落としたんですか? それで明かりが消えたと。

 真っ暗になって、落としたカンテラの場所もわからなくて?

 それで、かがり火の明かりを頼りにここまで歩いてきたんですね。


 あ、兵長。聞いてましたか。

 そうですね、カンテラの紛失とのことです。

 どうします? 予定では民間人の夜警の練習、もう何往復かしてもらうことになってましたが。


 中断して兵士のみで巡回に変更ですね。

 了解しました。自分もそのほうがいいと思います。

 今回は夜の雰囲気に慣れるのが主な目的ですし。


 次の見回りですか? 自分の番ですが。

 ああ、向こうの兵士詰め所への連絡と、落としたカンテラの回収ですか。

 連絡は問題ありませんが、カンテラはこの暗さだと見つけられるかわかりませんよ? あったら拾いますけども。


 せめて、落とした場所がある程度でもわかればいいんですが。

 戻ってきた三人、けっこう疲れてますよね。

 案内に付いてきてもらうのは厳しいかと。


 あれ、あなたは大丈夫?

 んんー。

 兵長、どう思います?


 了解しました。

 こっちのカンテラの油は十分あります。

 では、今から巡回に出発します。


 それじゃ、行きますかね。

 って、大丈夫ですか?

 顔色あんまりよくないですよ。無理するぐらいなら残ってもらったほうが。


 あー。いやいや。そこまで責任感じなくても。

 過ぎたことは気にしないで。

 ただでさえ村の夜って暗いし、今日は薄く雲もかかってますから。

 もしカンテラが見つからなくても、朝になればまた探せるでしょう。


 ま、三人一組とはいえ、明かりを持つのが一人だけってのがそもそも問題なんですけどねぇ。

 たいまつは作りやすいし落としても火はすぐには消えませんが、燃えるものが多いこの村だと火事になりやすいからダメだそうで。

 カンテラは火事にはなりにくいけど、物が少なくて全員に行き渡らないと。


 でも、今回みたいに巡回途中で火が消えたらねぇ。

 見回りどころじゃなくなります。

 他の方法も検討するよう上に言っておきますかね。


 めんどうなもんです。

 大きな町みたいに街灯でもつけば全然違うんですがねぇ。

 騎士様たちもなにかいい方法はないか考えてはいるそうですが、いつになることやら。


 というか、この夜の巡回も本来なら兵士だけでやれれば一番いいんですけどねー。

 現状はなんとか回せてるんですが、今度、開拓本部から追加の開拓民が来るじゃないですか。

 そうすると見回り範囲も広がりますからねぇ。しばらくは村のみなさんにもお願いしなきゃならなさそうです。


 開拓民だけじゃなくて常駐の兵士ももっと増えればいいんですが。

 それはそれで部隊の割り振りとか連携訓練のやり直しとかをしなきゃならなくて。

 どっちにしても、しばらくは忙しいでしょうねぇ。


 おや。そろそろカンテラ落とした場所ですか?

 どれどれ。

 ちょっと探してみましょうか。


 んー。道の上にはなさそうですね。

 落とした拍子に転がっていったのかな。

 あら、落とした時にはそんなに音は鳴らなかったけど、なにか足に触れたと。


 蹴っ飛ばしたとか? あら、そこまで強くはない。

 ちなみに、みなさんが歩いていたとこって道の真ん中です? それとも端っこ?

 真ん中あたりですか。そこで風が吹いて目に砂が入って、その拍子に落としたと。


 んんー?

 もしかして、あれかな?

 ほら、あそこの道と畑の間にある柵。あの下のほうにあるやつ。


 ああ、やっぱりこれカンテラですね。

 カンテラを腰に下げる用のヒモが、木の柵のささくれに引っかかってます。

 見つかってよか……。


 すみません、ちょっと自分のカンテラを持っててもらえますか。

 そして、落ちてるカンテラのあたりを照らしててください。

 いえ、ね。たいしたことじゃないんですよ。ただ、ちょっと柵のあたりの草むらをね? この槍でね。


 せやっ!

 

 ……。

 ふむ。

 なにもいませんかね。


 よし、カンテラも回収しました。

 もう大丈夫ですよ。

 向こうの兵士詰め所のほうへ行きましょう。


 え?

 なんで槍で突いたのかって?

 歩きながら話しますよ。ほら、とっとと離れましょう。


 幽霊でもいたのかってバカなこと言わないでくださいよ幽霊なんているわけないじゃないですか!

 なんか揺れてたってそりゃ槍で突けば草とか揺れますから!

 だからカンテラで自分の顔を下から照らすのやめてもらえませんかねぇ!?


 だいたい、幽霊なら槍で突いても効かなさそう、じゃなくて。

 なんで道の真ん中で落としたカンテラが、道の端っこに移動してたのかってことです。


 小型の魔獣とかが、落ちたカンテラをくわえて持ち去ろうとしたのかも、と思ってね。

 で、ヒモが柵にひっかかって持っていけないうちに自分たちが戻ってきたとしたら。

 すぐそこに隠れてるかもしれないじゃないですか。


 おや、どうしました急に真剣な顔になって。

 幽霊よりそっちのほうが怖い?

 何言ってるんですか幽霊のほうが怖い、げふん、だから幽霊なんかいないって言ってるでしょ!


 ほら、詰め所はあっちです。行きましょう。

 もうカンテラは落とさないでくださいよ?

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