異世界転生したけど勇者で平和に暮らしたいだけなんですが?!~ハーレム最強剣聖への道~

あずま悠紀

1a

「ようこそ、勇者よ。異世界への転生をご希望の方ですね。承りました」

女神はそう言った。

「あぁ、俺は異世界に行ってみたい。ただ、チートスキルも無いし……いきなり魔王とか倒すような能力も持ってないけど大丈夫か?」

俺の言葉に女神は無表情で応える。

「はい、もちろんですとも。勇者になられても世界を救う必要は無いのです。貴方の目的は異世界で幸せになることにあります。ですから……」

「だから?どうすればいいんだ?」

俺の問い掛けに、女神の姿が一瞬歪んで見えた。すると突然視界が暗転し、俺は真っ黒な空間に立っていた。周りには黒い渦のような物体が浮かんでいる。そしてその向こう側に見えるのは……。

『さあ選べ!剣や魔法のファンタジー世界か、科学技術が発展した未来社会だ!』

そんな文字と共に映像が流れているのだ。俺は慌てて手を伸ばしてそれを遮ろうとした。しかしその手をすり抜け、映像はそのまま目の前を通過していくのだ。俺は思わず声を上げた。だがその言葉さえも届かないようだ。そのまま映像が次々と流れていく。しかし俺はなぜか気付いた。それらの映像が全て見たことがあるものだった事に。それらは全部、自分がいた世界の映像だということに……。俺はその映像を必死に追い駆けながら声にならない叫びをあげた。すると今度は真っ白な部屋へと飛ばされた。そこには机があって書類が置かれている。そこに女神らしき姿が現れると話しかけてきた。

『この世界の魔王を倒し、世界を救ってください』……え?どういう事だ?なぜ俺の世界がこんなにも危機的状況にあるのか?そもそも魔王とは一体なんなんだ?疑問を口にするが、それに答える者はいない。

俺は自分の世界に戻れないという事を理解した。そして代わりに女神が説明してくれるというのだが……。その内容は驚くべきものであった……。それは……。

*****

『勇者よ、お主に使命を与えます。この世界に蔓延する邪悪の存在を倒す為の唯一の手段。それ即ち魔王の復活を阻止する事でございます』

女神の言葉を聞いて俺は混乱するしかなかった。そもそもどうしてこんな事態に陥っているんだろう?俺がそう口にすると、再びあの映像が流れ出した。……そこは荒れ果てた荒野だった。巨大な山が連なる険しい地形の先には大きな湖があった。周囲には森が広がっていたが、今はそれが無惨に引き裂かれているように崩れている場所があるだけだ。

そんな場所に倒れ伏す人影がある。その人物は鎧を身に付けていたがボロボロの状態になっているようだ。そして体中のあちこちからは血を流し、もはや生きているかどうかさえ判らない状態になっていた……。

**

***

次に映し出されたのは何処までも青い空だった。そこに一隻の飛行機が飛んでいた。機体は大きく弧を描くようにして空を飛んでいる。機体の前にはプロペラ機のように複数のエンジンがついているように見えたが……実は違った。翼の上に小さなロケットが取り付けられていてそこからジェット噴射しているように見えるだけのようだった。

その機体の機首部分には何かが描かれている。大きな星と十字架だろうか。まるで宇宙服を着た人間が操縦してるような絵が描かれているように見える。やがて機体はある地点に達するとその勢いを止めゆっくりと降下し始めた。そのまま着地しようとするがその途中で機体が大きくバランスを崩したように横滑りしていく。機体はなんとか着陸したがその後、機体はそのまま爆発してしまった……。

次に映されたのは暗い室内の映像であった。床一面に大きな魔法陣が描かれているようだ。そこに一人の男が現れた。背丈は170cmほどで眼鏡をかけた神経質そうな人物だ。男は何かブツブツと言い続けているようで時折口を大きく開けている。

やがて魔法陣の一部が輝き始めると、それに合わせるように男の声も大きくなっていく。男の額には大量の汗が流れ、目からも涙が溢れ出している。男は両手を前に出し祈るような格好のまま動かなくなってしまった……。

*****……その次は荒廃した街並みの風景だった。ビルや住宅は瓦礫の山に埋もれてしまい人の姿がまったく見当たらないようだ。ただ建物の向こう側にはうっすらと煙が立ち上っている場所があり、そこで何かが爆発しているらしいことが窺えた……。

次に浮かび上がったものは何処かの地下施設の映像であった。広いフロアの一角で数人の男女が何やら慌ただしく動いている。どうも何か作業中だったらしく足元には図面らしきものが置かれていたりもしていた。

やがて部屋の奥にあるドアが開きそこから白い防護服のようなものを身につけた人物が入ってきた。全身を白で覆われており頭部も同じ素材でできている。その姿は明らかに異様であり異様な存在だと思わせた。そして彼等は何やら会話をしているようだ。その声が小さくて何を言っているのかよく聞こえないが……突然映像にノイズが入り音声まで途切れてしまう……。

それから次々と映し出されるものがあったがそのほとんどが見るに耐えないものばかりだった。しかしその中でも俺が一番気にしたのは先程の女性が写されたものだ。彼女の周りには何匹もの虫が集まってきているようだったが女性は悲鳴を上げることも逃げることもできないようだった。

やがて彼女はそのまま無数の昆虫に囲まれていく……。彼女の身体中を食らい尽くすかのように昆虫達は飛び回っている。そしてその顔に食らいつくようにも見える。その瞬間の映像を見て俺は目をそらすことが出来なかった……。…………しばらくの後、俺の心の中に声が響いてきた。それは映像の中の女性と同じ声なのだが……何故か機械的な合成音にも聞こえる不思議な声だった。その声で告げられた事実はかなりショッキングな内容であることがわかった。

俺はどうも異世界で勇者として魔王を倒して欲しいと言われたようである。そしてその為に必要なチートスキルを与えてくれるようだ。そして俺が選んだ世界では勇者は特別な力を持って生まれることになっているらしいのだが、残念ながらそれを選ぶことは叶わないということだ。だからその代わりに好きな世界で幸せに暮らす権利を与えてあげると言っているのだ。……だがしかし!そんな事は関係なかった!そもそも俺は最初からチートは欲しく無かったんだ。確かに俺には夢があった。それも実現不可能なほど壮大なものである。だけどそれを叶えることなんて出来るわけがないんだから仕方ないだろう。それに何より問題なのはその世界が剣とか魔法といったゲームの世界みたいな世界だということだ。

もしも俺が普通の高校生のままでいたなら……。普通に学校に通い友達を作り遊んでるだけだったら……。きっと今の生活が最高だと思うだろう。でもそうじゃ無い。俺の願いはそれとは違うものだった筈なんだ。そうさ、俺の夢っていうのはもっと凄かったんだ。だって、もしそれを実現できれば世界中のみんなを笑顔にしてあげられるような、誰もが楽しく過ごせるような、そんな世界になると思っていたからさ。……なのに、俺が望んでいた未来はその世界のどこにもなかったんだよ。だったら俺が行きたい世界って一体どこなんだ? そもそも俺はどうしてこんな事になったんだろうか?何故?俺は勇者に選ばれなければならなかった?何故こんな目に合わなければならない?そもそも俺は勇者なんかじゃない!勇者なんていないんだ。この世界に勇者なんていないんだ!勇者が必要なのは魔王のいる世界でだけなんだよ!俺は絶対に魔王のところに行きたくない!俺は勇者になりたくは無いんだ!! *****

『勇者よ!貴女に使命を与える!』

『魔王の復活を阻止する為に勇者の力が必要だ!』

『魔王復活を阻止するため、世界の為に戦ってもらいます!』

『世界を救う唯一の希望!貴方だけがそれが可能なのです!』

女神は俺が望まないことを言い続けてきた。

しかし俺はそんな言葉に従う気など一切ない。そもそも魔王とはなんなんだ?魔王が復活したら世界は滅茶苦茶になってしまうんだろ?世界を救うために戦うのは嫌だが……それでも世界を滅ぼす奴と戦うこと自体はやぶさかではないぞ! だがその前に……魔王について知りたかった。だから俺は魔王のことを女神に尋ねた。すると返ってきた答えは意外なもので、魔王と呼ばれる者はかつてこの世界を創った最初の神だという。だが長い年月の間に徐々にその姿を変えてしまったようだ。その結果、現在の世界には存在しない、想像の産物になってしまったという。そして、その本来の姿を見た人間は恐らく俺一人だけだと言った。だがそれがどんな姿をしていたのかは、教えてくれなかった。そしてもう一つ質問をした。すると女神の返事には戸惑いが見られるようになった。しかし、その問いに女神は応えようとしてくれたのだ。

だが……女神の説明はとても理解し難かった。それは女神の話によると……。

『まず第一段階!邪悪の存在は異世界の創造主である!これは理解できるか?』

俺は当然の如くうなずいた。だが……。

『邪悪の存在の正体が創造主なのです!』

「はい?」

俺は思わずそう聞き返してしまっていた。

「あの~、ちょっとよくわからないんですけど……」

俺は申し訳なさそうに言った。すると女神は無表情のまま、こう説明を続けた。……『邪悪の存在……つまりこの世界を造った者というのはですね、元々この世界を造り出した時の神々の一人だったそうです』

「なぁ、ちょっと聞いていいかな?」

俺はそう前置きしてから女神に疑問を投げかけた。

この世界の神様がこの世界を造り出した者だということまでは判るが……なぜ魔王と化した?この世界の者だった筈なんだろ?……女神が説明を続けて曰く……。『この世界の人間とこの世界の生き物は元々一つだったと言い伝えられております』

「へ?どういう事だよ?だって俺たちがいるのはこの世界なんじゃないか」

俺の言葉を聞いて女神が無言で説明を続ける。『この世界の生き物の魂が人間の魂と融合した時、新しい生物が誕生したと言われております』

そしてさらに詳しい説明を聞いていくうちに俺の頭の中で疑問が次々と湧き出てくるのだった。

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『まず始めの第二段階。邪悪の力は強大で邪悪な存在でございます。しかし同時に、その邪悪の力が弱まれば他の種族もまた新たな力を得ることが出来ました。それにより、この世界でも多くの国が興ったり、滅亡したりするほどの栄枯盛衰を繰り返したと言われております。そして……この世界で最も古い国であるエルデン王国の始祖でもある、英雄アスタ・ベルフェクトは強大な力を身に宿しておりまして、それによって魔王を倒したと伝えられております。彼はその後、自分の子孫に自分の力を分け与えましたが……その者達がやがて国を興していったということになります。つまり現在のエルデン王家の祖となり、その初代国王こそが……我が愛しき御方だったのです!!』……俺は女神の言葉を聞き流して次の質問をぶつけることにした。

「あーえっとさ、今の話は置いといて……。結局……その邪悪っていうのは何者なんだ?」

『はい、邪悪と言うものは異世界の神が転生して生まれたものだと言われています』

「え?異世界ってあるのか!?て言うかさ、俺もその異世界に行ってたってことなのか?それならその異世界に戻れないのか?」

『いえ……。おそらくですがその世界での出来事は全て記憶に残っていると思われます』

俺はそれを聞くと少し安堵した。どうやら向こうでの俺は死んでいるらしい。でも死んでいても帰れたみたいだ。そして俺は自分が死んだことにショックを受けていた事に気づいた。やはりまだ現実味が無いのかもしれない。俺は一度ため息をつくと、気持ちを整え直した。

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【 】内は音声のみ 女神が語り始めた。

「……そして第三段階。魔王の復活を阻止する為には勇者が必要になります。何故なら邪悪の存在が復活するためには魔素というものが必要になるのですが、それは人の負の感情からも得られるからなのです。よって、邪悪が力を取り戻す為には、人の負の感情を大きくさせる必要があるということです。そしてそれは人々の恐怖心であったり怒りだったり……そういったものになりますが……。そこで重要な役目を担う事になる勇者が貴女様ということになるわけです。そしてその為に魔王を倒すために異世界より呼び出す者を聖戦士として選び召喚するのであります。それが私どものいう所の『聖なる戦士』『光の導き手』であります。そして貴女様をこの世界に連れてきた理由もそこにあったのです!」

俺の頭に一つの考えが浮かんでくる。だが俺はその考えを一旦忘れると……。「でもさ……その異世界に行くのが無理ならさ、俺がその魔王ってやつ倒せば良くね?」

すると女神の返答に戸惑いが見えてきた。そして、何か考えているのかしばらく無言が続く……。やがて……。

そして……俺の心の中に声が響いてきた。それは映像の中に出てくる女性のもののようで、どこか無機質な印象を与えたが……その口調から察するに俺に対して話しかけているらしい事が伺えた。俺は恐る恐るそれに返事をする。すると……。「……はっ!……はい?いや、あの……その……魔王を倒すのに協力して頂けるという話でしょうか?」

どうも彼女は俺が勇者になるのを反対しているようなのだが、それでもなんとか魔王を倒す方向に話を持っていきたいようだった。しかし俺も簡単に首を縦に振るつもりはない。そしてしばらく問答を続けていくうちに彼女の性格が段々とわかってきたのだが……彼女はとにかく魔王の事を悪く言いたくないようだ。俺がそれを指摘してもなかなか認めなかったのだが……。それでも根気強く説得を続けているうちについに彼女が折れた。そして渋々だが俺が魔王と戦うことを認めてくれたのだ。


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【 以下会話文のみなんですけど。長いので改行しています。読みづらくなっていたらすみません。】

「……それじゃさ、今から行く世界はどんな世界なんだ?俺は剣とか魔法のあるゲームみたいな世界はごめんだぞ」

「勇者様がお気に召さないかもしれませんが……実は私のいた世界では、そういう類の物語が人気がございまして……」

「……まさかと思うが……。あんたがその勇者になって魔王を倒して欲しいってんじゃないだろうな?」

俺はそう言いながらジト目で彼女を見た。

「そ……その……もし勇者様にご不満があるという事でしたら……」

「だから俺は魔王とか戦いたくねぇんだって言ってんだろ!だいたい魔王のいる世界で勇者とかあり得ねえだろ。俺は魔王なんて嫌だ!俺は絶対嫌だからな!!」

俺はそう叫びながらも、魔王との戦いを拒否し続ける。しかし、この女神は一体何をしたいんだ?

「わかりました。それでは引き続き勇者召喚の方を進めさせて頂きます。」……何だって?どういうことだ?

「えっと、俺は別に勇者にはならんけど……。それでもこの世界に残るのはいいけど。……魔王退治は拒否してるんだけど?」

俺はそう確認するが、その問いに返ってくる答えは……『いいえ。貴女の希望に沿えるようにするには……それしか方法がないと思います』と、そんな感じだった。そして……。『まず始めの第四段階ですが、邪悪の封印が解けぬようにするための処置を施します。これにより、邪悪の力が解放される事は無いでしょう』……え?

『第二段階では異世界からの召喚という形を取りましたが……第三段階においては、貴女の魂そのものをこの世界に残します』……はい?ちょっとまってくれ……。「あのさ……その、つまりそれって……」

俺は戸惑いつつもそう口に出した。すると彼女はこう告げてきた。

『はい。私はこのままこの世界を去ります。ですが私が去った後は……貴女だけが頼りなのです。』と……。

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『最後に第一段階をお伝え致します。先程説明した通りに邪悪の存在によって世界は再び混乱を極めております』

「ああそうだ。その話は聞いているよ。それで?」俺はそう問いかけたあと、「あれ?て言うか、そもそもなんで俺にその話をしてきたんだ?」と、尋ねたところ……女神がこう応えてきた。『まず第一にこの事は知っておかなければならない事実だったということ。それと、貴方様の心に語りかけなければならなかったから。ということになります。つまり……これから起こる事を見届けてもらう為には、私の存在を感じ取れるだけの強い心の持ち主でなくてはならなかったのです』と……「あ、うん……。それはいいんですけど……」と、そう言いかけた時に突然、女神の声のトーンが変わった気がしたので……思わず俺は言葉を止める。

そして俺は思わず女神の顔に目をやる。だが……。……女神の身体はまるで蝋燭の灯りに照らされているかのように徐々に薄れ始めていた。そしてそのまま光の粒子へと姿を変えて、俺の中へと吸い込まれていく。そして俺の心の奥深くに光のような塊として溶け込むようにして消えていった。


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【以下、女神とのやりとりです。かなり長くなるので改行無しです。】


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俺の心の中に女神の姿が現れると俺に語りかけてくる。

『勇者様……どうやら、こちらの準備も終わったみたいです。まずは、最初に私からお願いしなければならない事があります』と、そして女神の口元が再び動き出すと……「なんだよいきなり、それより……その喋っている奴を止めてくれ。頼む。もう、聞きたく無い。」俺は耳を塞ぎながらそう叫んだ。だが、次の瞬間。俺の目から涙が溢れだしてくる。……それは俺が、子供の頃……母さんの事を忘れようとした時以来のことだった。そして女神はこう語り続けた……。『どうか、勇者となって下さいませ。この世界を救う為に』

そして、俺の意識は真っ白になった……。

そして気がつくとその部屋の中には……一人の老人が立っていた。そしてその老人がゆっくりと歩み寄ってきて、目の前にしゃがみこむ。そして俺の顔を覗き込んできた。……するとそこには、女神の姿が映し出されていた。そして、その顔を見ると……俺は自然と涙が出そうになる。するとその表情を読み取ったのか、老人はそのしわくちゃの右手を差し出してくる。

そして、その手が触れた途端、女神の映ったその顔が、別の人間へと変化した。

それは俺の記憶の中にある人物のようだったが……どこか違和感を感じる部分があった。だが俺はすぐにその事を頭の片隅に押しやると……。俺は自分の名前を名乗った。

すると彼は「うむ、良い名だのう。わしの名はアスタだ。宜しくな」と挨拶をして手を握ってくるのだが……。

「……?」俺には彼がいったい何をしているのかわからず戸惑っていた。そして彼は立ち上がると、何かを思い出したかのように自分の懐に手を入れていた。そして取り出されたものは一冊の本と手紙らしきものだった。そして俺に向かって差し出されると「これがお前さんの新しい身分証だ」といってきたのだが……俺は首を傾げる。なぜなら、その紙切れは、俺がよく知っているもので……それが身分証明書であるはずがなかったからだ。そして、俺はそれを確認する為にその紙に触れてみる。するとそれはまるで映像の様に変わり始める。そしてそこに現れたものを見て驚いた……。……それは間違いなくパスポートと呼ばれるもので、しかもそれは……俺の知る日本のものではなかったのだ……。


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俺は、自分が夢を見ているのだと確信した。だってこんな事があるわけないのだ。だが……。「ほれっ!」と、アスタと名乗る男がそれを押し付けるようにして俺の手に握らせようとする。「えっ?え?ちょっ……。」俺はそれを手に取ってしまう。すると……。「おめでとう!」と言って手を叩く。そして再びその男の手が伸びてきて……俺は反射的にそれを後ろに隠してしまった。すると男は……残念そうな顔をして、「はぁ……」とため息をつく。そして俺に背中を向けると「仕方ないか」と呟いて、また俺の方を振り返る。「勇者さま……そいつを読んでみなさい」そう言うので……俺は言われた通りそれを開いた。


***

するとそこには見覚えのない文字で文章が綴られていて、日本語ではないということがわかる。……だけどなぜか、読めないのにもかかわらず、意味だけは理解できてしまっていた。俺はそれに目を通すことにする。

・ 勇者とは……世界を平和に導くためにこの世に産まれてきた選ばれし者。

・ 魔王は邪悪なる力を身に宿した人の形をした化物で……その姿を見たものに死を与える。

魔王の討伐の為には……聖剣と呼ばれる聖なる剣を使い、その身を盾とし邪なる存在を滅ぼすのだ。

勇者とは……邪なるものの全てに恐れられ……時には魔王と間違われ迫害される事もあるだろう。だが……その力を持って邪悪を打ち倒す事で、人々に救いの光をもたらす事が出来るはずだ。勇者よ……人々の期待を一身に受けよ。そして世界が魔王の脅威に晒されぬようその身をもって守るのだ。

だが魔王も決して負けてはいなかった。邪神を復活させようなどと考える愚かな者達の欲望が生み出した魔王は……人の負を取り込み強大な魔力を身につけていた。その魔剣は持ち主の身体を傷つけることは無い。その邪剣で切り裂かれたものは闇に取り込まれ永遠の苦しみを受けることになるのだ。だがしかし……その闇の力には致命的な弱点があるようだ。その力は……人間の心を狂わせる。負の感情を暴走させるようにしてしまうらしい。魔王と戦うときは十分に注意するように。だがもし戦う事に迷いを感じたならば……。己の力で乗り越えていけることを信じるんだ。君にはその資格がある……。


***

そしてそこで文章は終わっていた……。そしてその下の方を見る。するとある絵が描かれているのだが、そこには大きな竜の姿があり、その頭に小さな人間が乗っかっているという、奇妙な絵であった。これは一体何を示しているのかがまったく分からないのだが……なんとなく嫌な予感を覚える。

俺は思わず眉間にシワを寄せたのだが、そんなことを気にしないというか気づけなかったのか……アスタという名の老人が、急に思い出したかのような口調になって喋り出したのだった。「あっそうだ!お前さんの連れの人達の事を伝えておくぞ?まずはあの猫娘なんだが……あいつは、この世界で死んだら転生することになると思うんだ。つまり、記憶が無くなっても生きていく事になるってことだ」と、その言葉を聞いた瞬間……俺の心は動揺してしまったが、なんとか平静を保つことが出来たのは幸運だったと言えるかもしれない。だが俺の脳裏に……女神の最後の言葉がよぎってしまったせいで俺は冷静ではいられなくなった。そして思わず「待ってくれ!彼女は……あいつは……あの人は……。」……そこまで言いかけて……言葉が出なくなってしまった。

そして俺は俯いてしまう。だが、そんな様子の俺に対して、まるで諭すように老人が語りかけてきた。「……落ち着けって。……あの女には……もう時間が無いんじゃから……。」と……。


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「……どういうことだよ?」俺は思わず口走っていた。その言葉に反応する様に女神の姿が再び現れて、こう話し始めた。『貴女に託さねばならない使命を果たす為です』と、その言葉は淡々としていた。

『私の代わりに……この世界に蔓延る全ての悪を……討ち滅ぼして欲しいのです』と、女神の姿は、今度はその美しい顔を見せてくれたが……それはどこか寂しげで切なそうだった。だがその声からは悲しみや絶望といったものを感じることは無かったのがせめてもの慰めとなっただろうか……。だが……『でも……それは私が勝手にやってはいけないことで……勇者が自らの運命を乗り越えて初めて出来ることなので……だから私は貴方に……』と言いかけたところで、突然女神の顔に変化が起こった。それはまるで泣き顔のような表情で……。……それはどこか、母さんと似たような顔をしているような気がしたが……その言葉は遮られた。

『ごめんね……。私の事忘れないで……』という言葉を最後に……。

「あ……。おい!ちょっと待てよ!」俺は、女神の身体に手を伸ばしたが、その手は何も掴めずすり抜けていっただけだった。そして、そのまま消えてしまった女神の姿を俺は見送ると……「ちくしょう……。なんでだよ。なんで俺が……。」と、独り言のように小さく呟いていた。

それからしばらくの間、俺の中で女神の声が響いて消えないような状態が続いたのだが……俺はそれを無視して部屋を出ることにした。扉に手を掛ける前に振り返ると、先程までは無かったはずの机の上に置かれた手紙のようなものが置かれていた。

その紙には、俺の名前と生年月日が書かれており、そして写真には今の自分よりも幼い容姿をした自分自身の姿が写っているようだったが……それが本当に今の俺なのかを判断することはできなかった。

俺の年齢は17歳なのだが、どう見てもその写真の中の人物は10代にしか見えないのだ。だがそれはそれで構わないとも思った。何故ならそれは今の世界ではどうすることも出来ない問題でもあったからだ。……それよりも……。……俺は、目の前にある手紙らしきものを手に取る事にする。

そして、その中身を読んでいく。すると…… 【拝啓 時が過ぎ行くのはとても早く感じるものですね。あなたももう16歳になったんですね……。そしてこれからも元気に育っていく事を祈っております。】……と書かれていたのだった。その文字は明らかに女性の筆跡だと思われるものだった。

そして、その文字を読んで、ふと気付く。……もしかしたら、母さんが書いたのではないか?と……。俺の母さんが残したメッセージだとすると……その内容がとても嬉しく思えるのはどうしてなのだろうか……。

俺はそれを大事にポケットの中へとしまい込むと、その部屋を出て行ったのだった。

そして、しばらく廊下を歩いていくと……。そこは……神殿と呼ぶべき場所なのだろうか?かなり広く天井の高い場所に出てきたのだが……俺の目はその部屋の中央で止まっていた。なぜならばそこには大きな石板が置かれていて何かしらの文字が書かれているのだが……。……残念ながら俺はそれに書かれている内容がまったく理解できなかったからである。だけどそれでもその石板の前に行けば分かるんじゃないかと思っていたんだ。だけど……。その願いは無情にも叶わなかったようである。だっていくら見てみてもそれが日本語ではないということしかわからないからだ。しかもよく見るとそこに描かれている絵らしきものは……俺がよく知っているものとは違ったものであったし、そこに使われている色も、白、黒、茶色などが中心となっていて……そうそう、まるで昔のアニメなんかに出てきそうな感じの色使いになっていたのである。だが、その石版に描かれていたものというのはどうやら地図みたいなもので、俺がそれを覗き込んでいると、不意に声をかけられる。

「おーい!……そっちの状況はどんな具合だい?」という男の言葉に反応して振り向くと……そこには一人の若い男の姿が有った。その男は背が高くスラリとした体格をしていた。

年齢は俺より一つか二つ年上くらいに見える。

俺と同世代か少し下ぐらいの見た目で、その肌の色は白く、瞳は青色のようで髪は黒く短かった。彼は、この国の住民らしい服装をしているのだが……その姿を上から下まで眺めた限りにおいて特に変わった点は無いように思う。強いていえば……俺と同じで、背中に大きな荷物を背負っているのでは無く、その背中には大剣を二本、腰には銃を装備しているという点だろう。だけどそれ以外に目立っておかしい部分は見当たらなかったんだ。だけど俺は、なぜか彼の顔を見ているとその違和感を覚えることになったのだった。……だけどその理由はわからずじまいで……。俺は、この青年が何者なのかという質問をしてみる事にした。だけどそれに答えるのは俺で無くて……何故か、さっきの石版のところに立って俺を見下ろしていた例の金髪碧眼の美女だったのである。「えっと……あのぉ……すみません。ここって一体どこなんでしょうか?」と俺が聞くと、「……は?お前何言ってんだよ?……もしかして、頭打ったりしてねぇか?」なんて返されちまったのだった。その言葉に、俺の額から冷や汗が噴き出し始めたが、なんとか冷静を保つことが出来ているのは……この女性が美人なせいだろうと思う。

そして、俺はとりあえず自己紹介から始めようと決めた。「あの、俺の名前は、佐藤……いえ、タロー・サトーといいます」と言いかけると、その女性はすぐに俺のことを睨みつけて「おい……ふざけてんのかテメェ。偽名を名乗ろうってんなら……俺がぶっ飛ばすぜ」と言ってくる。

いやまぁ本名を名乗ったつもりだったんだがな……。「いえ、本名を言ったつもりです」と、言い訳をしようとしたのだが……。「あの女神様……こいつはどういう事なんですか?記憶喪失になったとかじゃないですよね?」と急に、背後にいたもう一人の人物の方へ話を振ってしまう始末だ。

その人物はというと、黒い髪を短くカットしており、鋭い三白眼に褐色の瞳を持つイケメン風の少年といった印象を受けるが、そんな彼から感じられる雰囲気はなんというか……野性的というか……。

その身体つきはというと筋肉質な体型であり、身長も俺と同じくらいなため恐らくは年齢は同じなのではないかと思うのだが、やはり同じ服を着ているのにもかかわらず、彼が身に付けていたものはこの世界で見かけたものとまったく異なるデザインであったようだ。その身体はというと、まるでスポーツでもしているのかと言わんばかりに無駄な脂肪の無い肉体だったのだが、服の胸の辺りが苦しそうだった。そして彼はというと……俺の事を見て首を傾げて不思議そうな顔を見せると、口を開く。「う~む。この者は……一体?私にはどう見ても記憶を消したり、記憶喪失にさせられたりしたとは思えんぞ?」と。……あぁ、やっぱり俺はどこか変になってしまったのか?俺は不安になって「……じゃあ、これは夢ってことですかね?」と言うと……その女性は呆れた表情を見せて「馬鹿なこと言い出すなって!お前はまだ自分の名前さえ覚えて無いって言うつもりかい?まあ確かにこんな場所であんな女神様を見たんだ。そりゃあ気が動転するかもしれないけどよ……」と。そこで、俺はハッと気づいたんだが、その彼女の後ろからもう一人別の男が姿を見せたんだ……。

俺達は三人揃って石版の所へと向かう。

だがそこでふと気づくことがあったのだが、先ほどまではその女性の後ろをついて回っていたはずなのに……いつの間に現れたのか……その隣には先程の見知らぬ男性が居て、その男性をじっと見つめていたのだ。

それは不思議な光景だったが……おそらく、その男と女性との付き合いが長い関係なのだろうと察する事ができたのだ。

「それで?……あんたは何がしたいっていうわけだい?あたし達と一緒に来る気は……無いんだよね?そもそも……女神様に言われた通りに勇者召喚をしただけに過ぎないんだ。勇者として世界を救うために動いて欲しいと頼まれたんだからね」その女性の言葉で俺は理解することが出来た。「ああ……そうですね。あなたは女神様なんですよね。で、その……勇者召喚を行ったのが、この世界の人々ってことで……俺は……あなた達の手伝いをして欲しいと言われて来ただけなので……その、別に勇者になるつもりも無かったんで……。あ、それと、あなた達が言っている女神様というのはもしかして……俺の……いやなんでもないです。」と俺は女神のことについて何か聞こうと思ったがやめたのだった。……だが、彼女はすぐに俺に尋ねてきた。「で、お前はなんなんだい?女神に呼び出されたということは女神によって選ばれた人間ということになるが……。」俺は答えようとしたところでふと考えると……先程聞いた女神の言葉が思い出されてきてしまう……。それは、【私はこの世界で魔王と呼ばれている者と戦う為に存在する存在だから……】というものだった。……だが俺は、その言葉を心の奥底に閉じ込めることにしたのだ。……そして……。「……俺にも分かりません……。目が覚める前に女神を名乗る少女と出会っただけですし……ただ……。……もしも……もしもの話になりますが……その少女の言葉が真実なら、それは……もしかすると魔王との戦いの為の存在なのかもしれません。……もしそうならば……俺はあなた達に協力してもいいと思っています」という言葉を聞いた二人はお互いに目を合わせると……。「はははっ!どうやら本当に面白いヤツのようだよお前は!いいだろうさ!ただしあたしが鍛え上げてやるまでは絶対に死ぬんじゃねえぜ!」という金髪の美人の女性は笑顔を見せた。

その笑顔は眩しくて……一瞬目をそらしてしまったほどだった。

その女性は、その見た目からは想像できないような乱暴そうな話し方をしていて……正直に言えば少し怖いと思っていたのだが……なぜかその笑い声はすごく魅力的なもののように感じてしまったのだ。

そして…… それから俺とその美女とで話を進めていく。……といっても大体は彼女に任せきりにしていたが。……だけど……俺は彼女に一つ聞きたいことを聞いてみる事にした。「あのぉ……つかぬ事をお伺いしますけど、俺って元の世界に帰れないんですか?その……俺、向こうで行方不明扱いされている可能性もありますので……連絡だけでもできれば……と思うんですが」俺はそれを聞くまでその可能性を忘れていたんだけどな。俺には……向こうの家族がいるはずだからだ。……俺は高校に入ってから一人暮らしを始めたからあまり家に帰りたいとかそういった気持ちは無かったんだけどな。だけど母さんが心配してる可能性もあるからさ。一応気になることを尋ねたのである。すると彼女はというと、「そうだな……。普通だったら無理だろうね……。お前の住んでいたところはこの世界でも随分遠い場所にあるようだったし……。だけど……。まあ……大丈夫さね。女神様の力を持ってすれば可能だと思うよ。まぁ、お前さんのことは私が面倒を見てやるから安心しておきな!とりあえずは私の弟子にしてくれてやるが、その後は、冒険者に登録することになると思うからね。まぁお前に合った仕事を探す事になるだろうが……それでも構わないだろ?」なんて言ってくれたのだ。

どうやら彼女は……この世界の住人である俺に親切に接してくれてるみたいだ。……俺は嬉しかったね。異世界転移なんてされた挙句に……この世界に放り出されたっていうのにさ、この人は優しくしてくれるって言うんだぜ。俺は感謝の念を彼女に抱きつつ、その言葉に対して「はい。ありがとうございます。ええっと……あの、あなたの名前はなんていうんですか?」という質問に「おう!悪いね。まだ名乗っていなかったか……。私はサーシャだ!サーシャ=マモン。気軽にサーニャとでも呼んでくれればいいさね。よろしく頼むよ!タロー・サトー!」と彼女が手を差し出してきた。

それに俺は応えると……。

「俺の方こそお願いいたします。サーーニャ先生って呼べば良いのかな?」と言ったのである。……すると、サーシャの顔はというと赤くなったように見えた。

「なんだよ……そういうの恥ずかしいだろ……。タローは私の弟子にするとはいえ……まぁ仕方が無いがな……。よし分かったよ。特別だぞ?お前のことをこれからは師匠と呼ばせてやっても良いぞ?まあ私からしてみれば弟弟子って事になりはするが……な。まぁ仲良くやろうじゃないか。な?まぁまずは、私の家に行って、荷物を纏めてこいよ?お前をしばらく寝泊りする部屋へと案内してやるからな」……こうして俺は、この世界で初めての師を得たのだった。

その日俺らは、この世界で生きていけるように訓練を始めることになるのだが……。まぁ……俺は勇者なんかじゃないんだが……。

まぁでも今はそれで良いのかも知れないと……俺は思うのであった。

サーニャと出会ってから一夜明け……。昨晩のうちに色々と話を聞いたんだが……。

俺は今朝方になってようやく落ち着いてくることが出来たので、その辺りの話をサーニアのほうからも聞かせてもらうことにしたんだ。俺が異世界から来た事を話すと驚かれたけど……。

サーナによるとこの国はアルセシア帝国と呼ばれる国なのだとか……。ちなみにアルとはアルセリアという大陸のことで、サーナ曰く、アルセリアという名前にしようと決めたのだそうだが……長いのと、この国の成り立ちから、略してアセリアと呼ぶことが多いらしい……。

俺がそんな事を考えている間にもそのサーナはというと、朝食の準備をテキパキとしていたのだが、そこで俺も手伝いをして、二人並んで料理をしている。この世界で目覚めたばかりだというのにも関わらずに。……俺はこんな状況になるのは予想していなかった。なぜなら俺は……こんな生活ができるほど、余裕がある生活をしているわけでは無い。親は共働きだし……俺は学校に通う以外はずっと家で勉強していた。そのため家事などほとんどやらずにいた。それが災いしたんだ。俺はそんな家庭に育ってしまったのが原因なんだと思う。だからなのか……こんなにもサーニャと一緒に居て楽しいと思うとは思ってもみなかったのである。そして俺はこの世界で生きるために……強くならなければならないと思うようになったんだ。俺はこの世界の人間ではないだろうからね。この世界を生き抜いていくためには力が必要なのだと感じた。だから俺は……「俺……いや、俺は頑張るぜ!……この世界を救うためじゃなくてさ。自分の為に……強くなりたいんだ!それでさ、いつかはさ!……俺がこの世界を救った勇者だって呼ばれるようになるぐらいさ!それで、サーニャー!お前が、俺の自慢の弟弟子になった時には……俺は……お前に恩返しがしたいんだ!だから俺は絶対に強くなるんだ!」なんて俺は言ったのだが、サーニャの返事は無いんだ。

「おーい、サーニャー?聞こえてんのかよ?」と言ってみても同じで…… 俺は不安になって、横を見ると……なんと、サーニャが涙目になっている。どうしたっていうんだよ!?……俺は思わずびっくりしちまったぜ。そして俺が驚いて固まっていると……その俺の視線に気付いたのか、慌てて涙を拭き取るサーーニャなんだが……。やっぱり泣きそうな表情だった……。

俺はどうして泣いたかなんて聞けずにいて……そして黙ったままでいると……しばらくしてやっと落ち着きを取り戻したようで……。サーニャに謝られてしまったのだった。だけどそれは何時もの強気な口調ではないものだったのだがな。

それを聞いてしまった以上俺も謝ることしかできなかった……。結局そのままお互い無言の状態になってしまったので……気を取り直してから食事をとることになったのだが……俺は思った。……こういう時はさ、男なら男らしくしないと駄目だよね?という結論に至り「なあ、ちょっと外に出ないか?」って誘ってみたら「おう。わかった」と素っ気ない感じだが、なんとか了承してくれたのだ。なので、俺たち二人は街に出掛けたんだが……。サーーニャって意外と可愛いところがあって、人混みや騒々しい場所って苦手みたいなんだよな。だから俺とデートっぽいことをするのが恥ずかしいみたいでさ……。でも……俺は、俺に出来る事は……この子に少しでも楽しい思いをさせてあげるってことだ。

だから俺は……思い切って……彼女の手を繋ごうとしたのだった!すると、案の定サーニャの手が震えている……。俺はそれに気が付かないフリをしながら、サーニャと手を繋ぎ、歩き始めた。すると、次第に彼女はいつも通りに戻るのが分かりほっと安心してしまう俺……。でも、それでも……彼女は時々暗い顔をする事が多くなってきてさ……。それを見ていると俺は……辛かった……。そして俺は決心する……。彼女には……笑顔が一番似合うのだからと。そう思ってしまう自分が……不思議だった……。

そんな気持ちを抱えたまま、歩いているうちに目的の場所へと到着し……俺たちは二人で武器屋を見ていくことにする。そういえばさっきまでは、お互いに自己紹介してなかったな。そう考えて、俺は名乗る事にしたのだが……。「俺は佐藤太郎だ!改めてよろしくな!」と名前だけしか言わなかったので、「タローはどんな武器を使いたい?」と聞かれてしまった。「俺は……う〜ん。剣……かな?できれば両手用のでお願いしたいな」俺は、少し悩んだ後でそう答えるのだったが……。しかしサーニャは、俺の言葉を聞いた瞬間に顔色を変え「えっとな……。言いづらいんだけどさ。タローの身長じゃさ、ロングソードなんて使えないぜ?多分、普通のショートソードか……ナイフの方が使いやすいと思うぞ?」という衝撃発言を受けて、俺は言葉を失ってしまう……。どうせ俺は、チビですよ……。そんなに言うことないじゃないかよ……。と内心は結構ショックを受けていたのだ……。そして落ち込んでいる様子を隠せずにいたのだが……。そんな俺を見て、サーニャが俺の背中を叩きながらこう言った。「大丈夫だ。私が教えてやるからな!まぁ私を安心して任せておけって!お前が私の弟弟子になるにはそれしかないだろうがな!それにな、タローは私よりは弱いだろうからな!私が鍛えればお前だって直ぐに強くなる!安心して私についてこいよ!それとな、タロー!これは私の考えなんだがな……。タローは、私に会ったときも言ったけどさ、お前が異世界からやってきたっていう証拠なんて無いわけだよな?つまりさ、別にこの世界で生きていけなくたっていいってことだろ?違うか?」

「ああ……。まぁ確かにそうだね。」と俺が言うと……。「だろ?まぁ……タローの世界の事情なんて知ったこっちゃないがさ。とりあえずタローが生き抜くために、冒険者に登録しておくべきだとは思う。そしてその実力を身に付けておくべきさね!それに私はタローを鍛える!タローは強くなる!それでタローがこの世界を救ったときに……タローはタローがこの世界に来た時に着ていたという服を着ていけば良いんだよ!」なんて言うのであった。

そして……サーーニャと俺は一緒に防具を見ることにしたんだが……どうもサーニャはあまり装備に興味がないみたいだ。俺はというとサーニャの意見を聞きながらも……色々と見て回った結果……。服に関しては動きやすくて丈夫であれば特に気にすることは無いらしいという事がわかってきた。サーーニャいわく冒険者は、とにかく頑丈さが第一であると、サーーニャ自身もそういった類の服装を好むのだという事を俺は初めて知る事になる。

俺はそれから、サーニャの買い物に付き合い、サーニアの家に戻った後はというと……。俺はこれからの事を話し合っていた。

俺はこの世界のお金を持っていないから……依頼を受けて稼がなくてはならないのだが……俺に受けられる依頼など殆ど無いに等しかった。俺もそれは予想していたことではあるんだが……やはり厳しいものはあった。サーニャによるとこの辺りの冒険者たちの平均年収が、だいたい1日あたり金貨2枚程度らしいのだが……。

俺がいくら持ってるかと言えば……まぁ10万程は所持金はあるんだが……。それだけあれば一月ぐらいは生活できてしまうような金額ではあるが……。俺の持ち物の中には食料とかが無いため、それを買い揃えようと思った場合、すぐに無くなってしまう程度の額である事は確かだったのである。俺はというと……。サーニャの家で厄介になっている以上……サーニャに負担はかけられないと思い……。どうにか仕事を見つけようとしたのだが、そんな俺の行動を見たのか……。サーニアに止められてしまったのだ。なんでも俺には才能が有るような事を言うもんで……それならその力を磨いてみるべきではないかと言われてしまったのだ。確かにそうなんだが……。と悩む俺だったのだが……。ふと思うことがあった……。

俺は……元の世界に帰りたいとかそんなに思ってないんだが……。なんで俺こんな必死に元の世界に帰る方法を探そうとしていたんだろう?

「ねえサーニア、俺のステータス見れない?」

「そうだよ、タロー、それが目的だって言ってたのに忘れてんじゃん。まったく……。はあ…… えぇとねぇ……。うん?……え!?ちょっと待って!……タ、タッ、タ、タッ、タックさん!? なにこの能力!?」

サーニャが突然大きな声を出して驚いているので、何事かと思って覗き込むと……。

種族:人間

職業:なし

レベル0 体力 :G-

筋力 :15E

攻撃力:25D+5(30)

防御力:45D

知力 :C

精神力:25D-

(28720/24800)

敏捷

:FFF

DEX:65

…………え!?……ちょ、……なんだこれ?……俺って……実は超能力が使えちゃったりしたの!?……って、おい……。

「うっそぉおおーーーー!? なんじゃこのチート能力は!?」

俺だって驚きだよ。だってさ、俺の頭に浮かび上がってきた説明文がさ……。英語と日本語の両方で書かれていてさ……。しかもなんかさ……俺の理解力が足りないのか……所々読みにくい文章もあるし……。

『新しい生命』って……俺、男なんだが……。そして俺は思った……。これは……あれか?……あの有名な……神様転生か?と。そして俺は……思い当たるフシがあったのだ……。

いや……そんなはずないよな? 俺はそんな妄想を頭の中で膨らませていたが……

「うわぁあああぁあああ!!!」という大声で現実に引き戻される。そしてサーニャはというと……。目を輝かせているのだった……。「タ、タローって……もしかしたら凄いかもしれないぜ!」と……。サーーニャの反応を見る限り……どうやらこの世界にはそういうものは無いらしい。だが、サーーニャがいうにはまだ俺は発展途上だから、もっと強くなれば出来るようになる可能性は大いに有るとの事だった……。そしてサーニャはというと……興奮しながら色々と質問攻めにしてくるのだが……俺はその全てを無視して考え事に没頭するのだった。……俺の考えが正しければ……。ここは……やっぱり……。俺の居た世界とは別の異世界なのだろうか?でも、どうしてだ?……一体何が起こったんだ? まあ良いか……。とりあえずは俺は俺なりに努力してみるしかない。そして強くなる。そうしないと……。

そして……。もし、俺の考えた通りならば……。……俺は……。サーーニャを……。守り抜いてみせる……。そう心に決めた。そして俺達は……。サーニャの家で寝泊まりし……。朝から昼にかけてサーニャに剣の指導を頼み込み、昼食後にはギルドへ登録をしに行ったりもして……。サーニャから依頼を受けたりしたのであった。サニア村周辺のゴブリン退治とかで報酬が良い依頼を受けてみたが……。俺にはさっぱりだ……。そもそも魔物とすら遭遇せずに終わった。

まぁ俺は、一応、異世界に来た勇者候補の一人なのだ!という訳の分からない理論武装を行いながら、俺は、この世界での初めての依頼をこなすべく行動を開始した。そしてその日の夕食の時にサーニャに言われたのは……。

サーニャ「タロー!お前には剣の才能が皆無だ!諦めろ!」……俺は思わず涙が出そうになったのだが、それでも……めげずに頑張った。サーニャの言い分も良く分かるが、このままではいけないのは確かなんだ!そんな感じで……今日一日は……依頼は受けず……。

次の日の朝……。

昨日の晩に俺は……この異世界について、ある程度調べたんだ……。それで、わかったのが……この世界の暦だ。この世界には3つの季節があって……春が1月から3月……そして秋が4月から始まるんだ。それで、今が夏で……。あと半月程で1番暑い時期になるんだと……。それで……。

「タローは、まだ15歳だったな。じゃあさ、もう大人みたいなもんじゃないのか?」というサーニャの疑問をはねのけ、「まだまだ、子供です!」と言い切りつつ、依頼を受けることにした。ちなみにサーニャも付いてくるらしい。

そして俺たちは、この村の近くに居るというコボルト退治に出かける事にした。コボルとは亜人の犬人間という種族らしい。犬といっても二足歩行しているからどちらかといえば、イヌではなくネコに見えるらしいが……。まぁその程度の違いだ。とにかく依頼の討伐対象は……その犬人間が群れをなしている集団だという話だった。俺の感覚では……。この辺りの森ならスライムやゴブリンの方が脅威度は高いように思えるんだが……。サーニャ曰く、どちらも危険な相手ではあるが……基本的に単独で行動する生き物が多いのが森の恐ろしいところであり魅力なのであるらしい……。そして……サーニャによると……。この近辺の森に巣食っている連中の中には、上位種がいる可能性があり……そいつらが指揮をしている場合は特に注意が必要との事であった。……まぁ、気を付けるとしよう……。

さて……早速依頼にあった場所に向かうのだが……。そこは森の中にあるという小さな湖が有る場所らしく……そこに行けば直ぐに見つけることができるだろうという事だったので……まずはその場所を目指して移動を始める。すると、俺の気配察知が反応を示し始める。それは俺達が移動するにつれ少しずつ範囲を広げていく。……この感じだと、多分だが……この周辺にゴブリン達も生息していたのであろうと思われる。まぁ、俺に言わせればゴブリンもオークも似たようなものだから気にする事も無いんだけどな……。そして暫く進むと目的の場所に辿り着いたのだが。俺の視界に写る景色には見覚えのある物が写っていた。そして俺の記憶が正しければそこには、この前俺が倒したあのデブ猫の死体があるはずだったのだが、それは無かったのだ。それを見てサーニャは不思議がっていたが、その時は、サーニャが気にしないでおこうと言ってくれたので俺も深くは考えなかった。

しかし、少し離れた場所にも俺の知る死体が存在した。俺の目の前に横たわるソレは、紛れもなく以前見た、あの豚顔のデブ猫であった。ただし、俺が戦った奴とは違う個体のようだった。そして俺は考える、何故コイツがここに倒れているのかと。しかし、いくら考えてみてもその理由が俺には思いつかなかったのだ。なのでその事は忘れる事にして俺とサーニャは先へと進んで行く。それから程なくして、目的地である、例の小さな湖畔が見えてきたのだが。そこで俺とサーニャの足が止まる事になる。

「タロー、あ、あれは!?」

サーニャの視線は一箇所に集中しているようだったが。俺はそれを目で追ってみると確かにそこには見知った姿が存在していたのだ。

「あれって……オークじゃないか?」

「そ、そうだよ!あいつだよ!でもなんで、タローはアイツを知っているんだ?」

「え? あ、あぁ、実はだな」

と、俺がそこまで言いかけたところで。サーニャは「ちょっと待って! タロー! 今はこっちに集中しなよ! なんでか知らないけどさ! あいつヤバイかも!」と叫びながら俺に向かって突進してきたので、俺は、その場から急いで退避しようとした。

「タロー! あんたはそこから動いちゃダメだからねぇ! 危ないからさ!」と叫んでサーニャが飛びかかるのはオークの頭部。しかし俺の目から見てもその軌道は外れていたのである。

「タロー!避けて!」

「分かってる!」

俺はサーニャの声を聞きながら、咄嵯に体を捻ると地面を蹴って跳躍した。そして俺はサーニャの背後に降り立った。しかしその直後。サーニャと対峙するオークは右手を大きく振り上げており、サーニャはその一撃を食らってしまったようでそのまま後方へと吹き飛ばされてしまったのだった。

「くぅっ!! いっつー!! 痛ったいわねぇ!! って!あれ? なんかおかしいわね? え!? うそ!?」サーニャは起き上がりざま自分の体の変化に気付き驚きの声を上げていたが、その声を遮るように。

『ブゥォオオオオーーー!』

と雄たけびを上げるのは俺の眼前に立つ巨体の魔物、オークと呼ばれる存在だ。そして、どうやらサーニャが攻撃を受けた事で、サーニャと俺との間にいた、サーニャが警戒した相手の姿が露わになっていたようである。

「お前がサーニャを怪我させたのか?俺の女を傷つけた報いを受けて貰うぜ!!」

そう言った直後。俺は一気に加速して距離を詰めてみせた。そして俺の手は、俺の意思に従って、勝手に動き出したかのように、俺は手にした刀を抜き放ったのだった。

そして俺はサーニャと戦っている、サーニャに攻撃を仕掛けた相手を確認する為。サーニャの方を振り向いたが、俺は驚愕してしまったのだ。サーニャは既に満身創痍の状態となっていた。そしてそのサーニャと対峙しているのは2匹の大鬼だったのだから。しかし俺はすぐに思考を切り替える。大鬼の注意を引きつけなければサーニャを助けることはできない。そう考えたからだ。

そして俺は大鬼達に切りかかっていく。その瞬間、サーニャと戦っていたはずの大鬼がサーニャへの攻撃をやめ、突然、後ろへジャンプをしたのだ。どうやら、俺の攻撃が回避されたらしい。まぁそれも当然かと思いつつ俺は着地と同時に大鬼に肉薄していく。俺の持つスキルの効果なのか俺の動きは自分で言うのもなんだが素早かった。そして俺は大剣を構えた大鬼に対して攻撃を繰り返すがことごとく防がれてしまう。そして再び俺は距離を取り呼吸を整える為に一旦後退しサーニャの元へ駆け寄ろうとしたのだが、その隙を突かれて今度は棍棒を持った小さめの鬼に大剣使いが追撃を繰り出そうとしているのが見えたので、俺は即座に方向転換をすると全力で飛び出していった。

そしてなんとかギリギリ間に合った俺は、棍棒による打撃攻撃を刀で受け止めると鍔迫り合いに持ち込んだのだが、その時、俺は気がついた。俺よりも大きな体格を持つ大鬼に勝てるのは今しかないという事に。俺は素早く懐に飛び込むようにして蹴りを叩き込んでみせる。すると一瞬だけ体勢が崩れたがそれだけだったのだ。やはり力で勝つのは不可能だと考え俺は瞬時に判断を下した。

そしてサニア村で初めて戦った時の感覚を思い起こすように魔力循環を意識し始めると全身から魔力が流れ始める感覚を覚え始めたのである。それから間髪入れずに、刀と腕の力だけで大鬼を押し返してみるとあっさりと力押しに成功すると。次の瞬間、大剣と小さめの鬼は互いに衝突する形となった。結果その力は均衡するように思えたのだが俺は直ぐに手に力を入れ直すと小さめ鬼を押しつぶすように更に体重をかけてやると、小さめ鬼は苦しそうな表情を見せたがそれでも必死に押し返そうとしてくるので、このままではまずいと踏んだ俺は刀を放すと小さめ鬼の脇腹あたりを殴りつけてみたのだ。すると、思ったよりアッサリとその拳が通ったので続けて二発ほど殴っていく。すると流石に堪えきれなくなったのかその場に倒れこんでしまった。

そして俺が再び振り返り、先程のサーニャと大鬼の戦いを見ると丁度サーニャの大剣が、小鬼の体に突き刺さる寸前というところだったので、サーニャのピンチを救った形になってしまったのかもしれないなぁなんて考えつつ俺は小さめの鬼の首を落としにかかるのだった。その時に背後に殺気を感じ取ったので俺は、咄嵯に前転してそれを回避しつつ立ち上がるのだが。その目の前にいたのは棍棒を構えてこちらに突っ込んできた、先程まで戦っていた、大きい方ではなく、小さいほうの鬼だった。

「お前の相手はこの俺だってわけかい? いいだろう相手になってやるよ」

そして俺達は互いの命を奪い合う戦いを始めていく。

「お前もあの時、村に来ていれば、あの子もあんな目には会わなかったのになぁ。お前が、あの娘を襲ったんだよなぁ」と俺は言い放つと。

すると大鬼はというと「あの少女だとぉお!?」と言いつつ俺を睨んできた。どうやらコイツは、この前の豚猫とは違い。人の言葉を理解していそうだ。俺はそれをチャンスだと思い一気に畳み掛けようと攻め立てた。俺と奴との距離は約5メートルといった所だが。そんな事は関係無いのだとばかりに、奴との間にある距離を潰しに行く。そして俺は上段から奴に斬りかかろうとするのだが、それを阻止しようとする奴が邪魔をして来る。

俺達の攻防は次第に激しさを増していく。しかしそこで俺はある事に気付いた。奴の武器が俺に届いてないのだという事を。恐らく俺に反撃されない様に、わざとリーチの短い物を使っているのではないかと思うのだ。そこで俺は賭けに出ることにする。もし、これが成功すれば俺は大鬼を倒せる筈なのだから。俺は大鬼に悟られない様に徐々に後ろに下がり始めながら機会を待つことにした。そして俺は、俺の読み通り奴の武器は俺が想定していた以上に短かったのだ。そして遂に、そのチャンスが訪れると俺はすかさず行動に移すと、俺に背中を向けている大鬼に切りかかったのだ。そしてその結果俺の刃が大鬼の胴体へと深く食い込んだ。

俺の狙い通りに上手くいったと思ったが俺は油断しなかった。何故ならまだ終わってはいないのだから。俺はそのまま勢いを殺すこと無く大鬼の横へと回り込むと。そこから一気に首を狙って振り抜いた。その俺の行動を見て驚いたのか大鬼は、その場で立ち止まって振り向こうとしたようだったが、俺の渾身の一撃によって、その頭は切り離されてしまい、俺はその反動で、数歩後ずさってしまった。

『ギャアァー!!』と悲鳴にも似た叫びを上げた大鬼だったが。その瞬間。

『ギィヤァー』と言う断末魔と共に崩れ落ちていく。

「ふうっ、勝ったぜ」と思わず安堵した声を上げていた。

「タロー! 凄いよ! 強いんだねタローは!」と言ってサーニャが抱きついてきたので「おい!や、やめろって!」と引き剥がそうとするがサーニャは中々離れてくれなかった。そこで俺達の間に割って入る者が現れる。それは俺の仲間となったサーニャだ。

「何すんのよ!!タローの優しさに漬け込んであんた!私から奪おうって言うの!?あんたにだけはタローは渡さないからねぇ!!私の男だもの!」とサーニャはサーニャでとんでもない発言を連発してくるのだ。

「えっ!!?」俺は驚愕の表情を浮かべるしかない。するとサーニャは勝ち誇ったかのような笑顔を見せ、

「どう?悔しいかしら?」と煽ってきた。

それに対して俺も負けじと

「ああ、勿論だ!悔しいな!それにサーニャ!俺の女になった覚えは無い!勝手に変なこと言うな!それと、サーニャ、俺は誰とも付き合ってないし!お前のものじゃないし、俺が誰かを自分の女にする訳ないだろう? あと、お前俺のこと、ずっと呼び捨てにしてただろ?急に、様付けなんかしなくても大丈夫だぞ。俺ももう仲間なんだし。これからは名前で呼んでくれ。サーニャ。」と言った。

そして俺は今の状況がかなり気恥ずかしくなってきてしまっていた。サーニャは嬉しそうに頬に手を当てており

「うん、分かったわ、ダーリン、よろしく頼むわね♪ ところでダーリンは私の名前、ちゃんと呼んでくれるかしら?」と聞いてきたので

「あぁ、もちろんだ。

サーニャ宜しく。じゃぁそろそろ行かないか?早く皆の元に戻って報告して、報酬もらって美味しいご飯食べて寝るに限るよな。

それから俺達は、再び馬車に乗り込み。森の入り口を目指す。そして森の中に入った俺とサーニャはすぐに違和感に気付くことになる。何故かモンスターに出くわすことが無かったからだ。そしてその理由はすぐわかることとなった。

森の奥へ進むにつれどんどん空気が悪くなっていったのだ。

俺は少しだけ不安を感じていたのでサーニャの様子を見る事にしたのだが、彼女は平然とした様子で、特に気にした素振りすら見せていない。

するとサーニャは俺に向かって

「ふぅ〜やっぱりこうなったか。まぁ当然の結果よね。だってこの森には、殆ど生き物が存在しなくなってるもの。だからモンスター達が逃げ出さなかったとしても不思議じゃないでしょうけどね。ほら、見てみてダーリン。あれ、あの魔物、何か分かるかしら?」と、言って指差したのは。

巨大な昆虫型モンスターだったのだが、明らかに通常のサイズよりも大きく。しかも羽を広げた姿などは、まるでカマキリを大きくしているかのように見える程の大きさを誇っているのだ。

「あぁ、あいつか。そうだな、ちょっと大きいな、確かジャイアントビーだったかな、でもあんな大きさの蜂見た事が無いぞ」

するとサーニャは

「へぇ、よく知ってるのね。さすが私の見初める男だけあるわね。あの大きなハチの正式名称はジャイアントバタフライ、そうよ。でも、私が言ってるのは、こっちの方の事なんだけどね」と言って今度は地面の方を見ている。

俺は地面に目を向けてみると、そこには全長30cmくらいの虫が大量に群がっているのが見えたのである。すると、

「これね、ジャイアントホッパーって言ってさ、普通のバッタの10倍近く大きいのよ。しかもこいつらの主食って人間の生き血らしいのよ。

こんなのが大量にいるんだから、モンスターが逃げるのも無理はない話よ。

ちなみにこいつは、人の味を覚えた個体だけが巨大化すると言われているみたいだけど、実際にどうかまではわからないの。でも少なくとも今までに発見された全てのジャイアントホッパーは巨大になっているわ」

俺がその言葉に驚きを隠せずにいると。突然サーニャは、刀を抜いて走り出した。

するとその先で突如として轟音が響き渡る。俺が何が起きているのだろうと、慌てて音のする方へ向かうと、そこでは先程の巨大な昆虫型モンスターの群れと、サーニャが激しい攻防を繰り返していた。

「タロー、悪いけれど手を出さないでね、今、私はこのバッタ達の相手で手一杯になるはずだから、あぁ、そんな心配そうな顔しないで、安心しなさい、直ぐに片付けるから、 【天剣絶光】発動!!」

サーニャはスキルを発動させると。先程とは比べ物にならない速度で動き出す。その姿はとても美しく輝いているように見えるが。同時に禍々しい殺気のような物を身に纏っていた。そしてサーニャの放った一撃によって周囲の木々が一瞬で吹き飛ばされ、大量の土煙が発生してしまうのだが。俺は何とか目を開く事に成功する。そして視界の隅の方に写りこんだサーニャの姿を確認する事に成功した。俺はその姿を見て息を飲んでしまった。何故ならそのサーニャはというと。

まるで鬼神の様な恐ろしい形相をしているからである。しかしそれも当然といえば当たり前だった。あの巨大なカブトムシ型のモンスターはというと、腹部に綺麗な大穴を開けているにも関わらず。未だ倒れることなく、その身体を激しく痙攣させながらも、どうにか動こうとするその光景を目にしてしまったら。

そのあまりのおぞましさに身震いを起こしそうになる。そして俺の目に飛び込んできたものは、さらに驚くべきものであった。なんと大穴の開いた胴体の部分に腕のようなものが突き抜け出てきたのである。それはまさしく、さっきまでサーニャと戦っていたジャイアントホッパーの頭部に他ならなかった。そしてそれは俺が理解出来ないうちに、胴体部分を完全に貫き終えると。そのまま空中へと飛び立っていったのだ。しかし、俺の目は、それだけに止まらなかった。なぜなら俺の視線が次に捕らえたのは。頭を失いながらも、いまだに動こうと藻掻いていた胴体部分が徐々に崩壊していく姿を目にしてしまったのだ。つまりこれは俺が知らない未知の力を使ったのだということを理解するに至る。

俺が唖然となっていると。サーニャはようやく俺の存在に気付いたのか

「あら、タローったら随分と可愛い子を連れ込んだのね? それともあなたもタローの女に成り下がったの?どう見てもまだ成人前の子供に見えるんだけど。」と言ってサーニャはニヤリと笑みを浮かべながら俺に迫ってきたのだ。

「なっ!?ち、違う!誤解だってば!」と慌てるが、

「照れなくていいのよ。それに私に遠慮することないからね?タローもそろそろそういう時期だと思うし。ただちゃんと避妊しないとダメだよ?子供が出来たりしたらもめ事になるからさ、あと私以外の子を娶るって決めたら、ちゃんと言いに来てよね。その時はちゃんと考えてあげてもいいからさ、だから私のところにちゃんときなさいね?」と言って抱きついてきたのだ。そしてその背後ではさっきからバッタの大群の大群が俺に向かって襲い掛かって来ていたのだが。

俺は咄嵯に魔法を使おうとしたところで思い出した。サーニャは確かこう言っていなかっただろうか。『私の邪魔だけはしないでね?』と。ならばここはおとなしく、サーニャに守ってもらうのが一番いいのではないかと思い至り、とりあえずサーニャに全てを任せることにしてみたのだ。

すると次の瞬間。

サーニャの足元に紫色をした魔方陣が展開されると、そこから現れたのは漆黒の鎖で雁字絡めにされている巨大な黒い球体であった。それは見るものを畏怖させる程の圧倒的な存在感を放っており、思わず俺は冷や汗を流してしまう程のものでもあったのだ。そして俺が動けないでいると。その黒い球体は徐々に膨張を始めると。ついには俺を包み込んでしまい。気が付いた時には、何時の間にかサーニャの腕の中に移動してしまっていた。

「ねぇ、タロー。私の言うことちゃんと聞いてくれたんだね? 嬉しい♪」と耳元で囁かれた俺は全身に寒気が走るのを感じる。だがサーニャは俺を解放してくれるどころか、ますます強く抱きしめてくる始末で、俺はというと完全に身動きが取れなくなってしまったのだ。そして俺の顔のすぐ横にはサーニャの柔らかい胸があるのだが、そこに押し付けられて息が出来なくなっているのである。

「ちょっと待て!苦しいって!! くそ!窒息する!死ぬから!!!やめてって!サーニャ!!」俺は本気で苦しくて暴れたつもりだったのだがなぜかサーニャは全く意に介さないといった様子で全く放してくれず結局解放されるまでにかなり時間がかかってしまうことになるのだが、そこで俺はふと思った。そういえば、俺に巻き付いていたあの真っ黒なものは何だったのかと疑問を抱いたのであるが、その正体を確かめる事は出来ず。気が付く頃にはすっかり辺りは暗くなっていたのだ。するとサーニャは俺をそっと降ろすと。俺の手を引いて歩き始めるのだった。そして暫く歩くと俺の視界に映った景色を見て驚くことになる。そこは一面の緑で覆われていて、まるで草原のようになっていたのだ。俺は目の前に広がるその風景に心奪われていたが、 突然俺とサーニャの間合いに一匹のモンスターが現れた事で現実に引き戻されてしまう。そして俺はモンスターと戦闘を開始することになるのだが、そのモンスターの正体は一体の巨大カエルモンスターであり、大きさとしては、全長3mはあるであろうと思われるほどのモンスターが出現した。しかも、それが一匹だけでなく、かなりの数がいた為に少し面倒臭いことになりそうだと感じるが、そんな考えも一瞬で消し飛んでしまう出来事が起きる。なんと、そのモンスターの集団は、瞬く間に切り裂かれてしまい一瞬で絶命し始めていくのだが。その光景を作り出した人物こそ、何を隠そう、先程からずっと行動を共にしている、サーニャであったからだ。しかも俺には見えなかっただけで既に何十匹というモンスター達が存在していたようで。それを一人で瞬時に倒しきってしまったサーニャの強さには脱帽せざるを得なかった。

すると俺の気配を感じたらしいサーニャは再び振り返ってくると、「あーあ!せっかくダーリンと一緒にいられた時間をこんなモンスター共の為に割かなきゃいけないなんて最悪な気分だわ。

そうだ、もうこんな時間だし。

このまま野宿してもいいかもね、幸いにもここには大きな湖があったからね、うん、そうしようよ。」といって突然服を脱ぎ出す。俺はその様子を見て呆然としてしまうがすぐにサーニャを止めにかかる。そしてサーニャはというと。「えっ、タロー。あなたってこういうの好きじゃ無いの?」と言って不思議そうな顔をしているのである。俺はそのサーニャの表情を見た途端になんだか馬鹿らしくなりため息をつくのだが。それと同時にこの世界ではまだサーニャと二人っきりなのだと再認識させられる結果になってしまう。なのでとりあえず俺はテントを取り出して設営を行い始めたのだが。その様子を見つめるサーニャの視線を感じてしまったせいなのかやたら落ち着かない状況に陥ってしまっていたのだが。どうにか気持ちを切り替えると夕食の準備に取り掛かる事にするのだった。すると、いつの間にかいなくなっていたサーニャが戻ってくると。今度は俺がサーニャから渡された謎の薬を飲むことになった。正直不安だったが、特に害はなかったのでそのまま飲み込むことにすると、しばらくした後に異変が起こる事になる。それは何故か身体中が火照ってきた上に。どうやら下半身に血液が集まっているような感じがするのだった。そしてそんな状態になって初めて自分が興奮していたのだと知るに至るのだが。サーニャの方はと言うとそんな事はまったく気にしていない様子で料理を作り始めているようだ。しかししばらくして俺の状態に気付いたのか、サーニャが俺の方を振り向くと、ニヤニヤしながら俺の事を見つめてきていたのだ。その視線に耐えかねた俺は「なぁサーニャ。」と言って声をかけると。「う~ん、ダーリンは本当に可愛くて、いい子ね?ほらもっと近づいてきてもいいんだよ? それにさっきは私が助けてもらったし。そのお礼も兼ねて色々としてあげるね。」と言ってサーニャはいきなり抱きついてくると、先程よりも激しくキスを求めてきたのだった。そして俺はサーニャにされるがままになっていたのだが、そのうちに意識を失ってしまう事になった。なぜならあまりにも濃厚な体験のせいで頭が働かなくなり何も考えられなくなった挙句にそのまま寝入ってしまうという結末に至ったからである。しかしそれでも身体は熱くなるばかりで、収まりそうもなかった為、再びサーニャに助けを求める事にするのだが。その時にはサーニャはというとすでに眠っていた。そのあまりの無防備さ加減に、俺も流石に怒りが湧いてきたのだが。俺がサーニャに手を出そうとしたところ、なんと、あの黒く巨大なものが、サーニャを守るように覆い被さり。そして、あの巨大な黒い物体に潰されたはずのあの巨大な虫達が俺の周りを飛び回っており、俺に攻撃を仕掛けてきたのだ。そして俺はなす術なく一方的に攻撃を喰らう事になる。俺は慌てて結界を発動すると、何とか防御する事に成功できたのだが、その隙にまた一匹の昆虫が襲い掛かって来ると。俺はなんとか結界を維持し続けるために集中しなければならなかった為に防戦一方の状況になってしまい。結局逃げる羽目になるのだ。その後を必死に追い掛けてくる黒い虫達はついに森にまで到達するとそこで一旦諦めて何処かに去っていったようであったのだ。俺はホッとしたと同時にある事を確信する。やはりここは地球ではなく。俺が異世界に転生したという証拠でもあったのだ。なぜなら俺は今、森の中に迷い込んでしまったわけだが。今まで住んでいた場所では、まず間違いなくあり得ない植物があちこちにあることに驚きを隠せなかったのだ。そしてこの世界に飛ばされてからというもの。自分のステータスを覗けなくなっている。

そしてどう考えてもここは地球ではない。それにここは地球でいう中世ヨーロッパくらいの文化レベルしかなさそうである。それにどう見てもモンスターがいる時点で、現代文明などあり得はしないのは間違いないのだろうが、それを証明する手段もない以上、俺は現状どうしたらいいのかという疑問を頭の中でぐるぐると考える事になるのだった。そしてその晩はサーニャと一緒に眠ることにしたのだが。翌朝起きてみると、なんとサーニャはいなくなっていて。かわりにサーニャの荷物らしきものがあったのである。だが肝心の本人はどこに行ったのやらと探しに行くと。

案の定。

サーニャは一人でどこかへと行こうとしているところを発見するのだが。その瞬間俺はふと気付いてしまう。ここはサーニャに聞くしかないと決意を固めたのだ。というのも。サーニャは明らかに普通じゃないので、もしかしたら何か知っているのかもしれないという可能性に期待したのである。そして俺はサーニャに声を掛けようとしたその時だった。サーニャは突然後ろを振り返ると、「誰?私を尾行するのは辞めてくれる?バレてないと思ったの?」というのだった。すると茂みの向こうから現れたのは俺が見たこともない女性だった。それは俺より年上に見える黒髪の女性でサーニャと同じような民族衣装を身に付けている。そして腰には剣を下げており、サーニャ同様、只者ではないというオーラが滲んでいるように見える。

俺はとりあえず隠れることにして様子を見守っていたがどうやら二人は会話をし始めたようである。その内容は俺にも聞こえてきたが、その内容を聞いて俺は衝撃を受けることになる。それは俺にとっての天敵となるモンスターが存在するという内容であった。しかもかなり危険度が高いモンスターであり。そのモンスターの名はブラックスライムというモンスターであり。その特性は極めて粘着質かつ物理攻撃を一切受け付けないモンスターであるようだ。更にその粘液に触れたものは全身の自由を奪われるらしい。しかも恐ろしいことに、一度囚われたが最後。死ぬまで脱出不可能であるというのである。その為、その危険性は相当なものであり、遭遇してしまったら最後、死を覚悟しなければならないらしい。さらに厄介なことには。その個体は非常に珍しいモンスターでもある為目撃情報さえほとんど無く、この世界の人間でさえその姿を確認することは殆どできないのだというのだ。ただ一つ言えることといえば、その生物はこの世で最も醜悪なる存在で。出会った者は生きて帰れないといわれている程の化け物であるということだ。しかもサーニャはどうやらこのブラックスライムを倒すつもりでいるようで、そのためにその生息地に向かうというのである。俺はサーニャと女性の会話を聞き終えたあと、その場を離れサーニャに見つからないように移動を開始した。俺はどうせサーニャは俺の知らない世界の知識をもっている筈だと考えたのだ。そこでサーニャに色々と聞いてみようという訳である。そこで俺はサーニャをこっそり追いかけてみたのだったが。サーニャは途中で見失うことになる。しかし俺にはまだ転移がある為。それほど困ることは無かった。そして俺はというと、サーニャの足跡を見つけながら進む事にしたのである。そして俺はついに目的の場所に到着したようで。そこには確かにモンスターがいたのだが。俺の想像を絶するような異形の姿をしたモンスターが存在していた。しかもサーニャの話通りならばそいつはサーニャと同じモンスターだというのだから驚く他なかった。そして、そんなモンスターを見て。俺は心底恐怖を覚えたのである。なんといってもその大きさがあまりにも規格外過ぎた。高さ5mはあるのではないかと思われるほどの大きさをしており。しかも全身から生えている腕のような器官が無数に存在する為に、非常に不気味であり、しかもその一つ一つが、明らかに人を殺し得るだけの鋭利さと強度を備えているようで。俺にそんなものが突き刺されば確実に絶命するであろう事が容易に予測できたのである。そして俺はふと思い出すと、このモンスターこそが、あのサーニャを襲った正体だと悟った。しかしここで逃げ帰れば俺の正体がばれてしまう恐れがあり、俺はどうしたものかと迷っていると、そこにいきなり黒い物体が現れると、突然その物体は、その大きな怪物に向かっていったのだった。すると大きな怪物はその攻撃を意にも介さずにその巨大な手で叩きつけるように反撃してきたのだ。そして、その攻撃により、巨大な生き物は一瞬だけ怯むような仕草をみせたものの、再び黒い物体に襲い掛かるのだった。すると黒い物体は次第に追い詰められていくと、とうとう大きな怪物の攻撃をまともに受けてしまい。大きな音を立て吹き飛んでいってしまったのである。すると巨大な物体は地面に転がるように倒れ込むのだが、そこで驚くべき事が起こった。黒い塊からまるで人の手のような形をかたどるとその黒い物体は徐々に形を変えていったのだった。

俺はその異様な光景を唖然としながら眺めていたが。そこでふと気付く。その巨大な生物と対峙するサーニャの様子がおかしい事に気づいたのだ。そしてよく見てみればサーニャの手の先が変化しており、それは見るからに刃物のようなものに変化していたのだった。

俺はそれを見たとき思わず息を呑んだ。なぜならば、その刃先は先程まで俺を攻撃していたあの大きな黒い生き物に向いているように感じられたからである。つまりサーニャはあれを狩るためにここまで来たという事になる。そして俺の考えが正しいとするならば。それはこの世界に居るモンスターの頂点ともいえる強さを持つモンスターであるという可能性が高いということになるだろう。

俺は完全に混乱状態に陥ってしまう。何故サーニャがその様な化物と対峙しているのか理解できなかったのだ。だがこのまま傍観している場合ではなかった。なぜならサーニャは先程からその手に持った得物を向け、まさに今その命を刈取らんとしている状況なのである。サーニャが本気でその巨大なモンスターに止めをさす気なら、俺は今すぐ全力でもって助けなければならなくなる。なぜなら俺は先程サーニャに助けられているからである。俺の命を助けてもらったばかりか、住むところや食事まで用意してくれて、更に仕えるという名誉まで与えてくれたのは紛れもなくサーニャだといえるからだ。そのサーニャを殺されてしまえば俺は間違いなく生きる希望を失い。自ら命を投げ出してしまうだろう。だからこそ俺は何としてもそれを阻止しなければならないと決意を固める事にした。しかしサーニャの持っている武器では、おそらくあの大きな黒い生物に致命傷を与えることは恐らく不可能だろう。俺の持つあの武器ならば或いは仕留めることができるかもしれないが。しかしそれを行うのは非常に危険が伴う。下手をしてサーニャを巻き込んでしまったりしたら取り返しのつかない事態になってしまうので。それは出来ないだろうと判断した俺は。まずは自分の力だけで戦うことにしたのである。そうして俺の戦いが始まったのだが、俺は目の前で繰り広げられる光景に目を奪われてしまった。というのも。サーニャが巨大な生物の体の一部を切り裂くと中から大量の赤い血が溢れ出して来たのだから当然といえば当然だろう。俺はその様子を見たときにもしかするとこれは倒せるのではないかと考えた。しかしすぐに俺はある事に思い当たったのだ。サーニャの強さが桁違いに異常過ぎるのは確かである。そしてこの世界の住人であるあの黒衣の女剣士の剣もかなりのものである。それに俺の所持する剣だって決して弱くは無いはずだ。だがそれでも俺の考えが正しければ、その2人がかりであっても互角といったところで、倒すことなどできないだろうと判断できたのである。それくらい圧倒的なまでのサーニャと女騎士の実力差が俺の目にははっきりと見えてしまっていたのだ。俺は何とか隙を作ってくれと必死で念じるものの、その様子は全く無く、ただ一方的に追い詰められていってしまう。俺はなんとかしようと、転移を繰り返しながら、何度もサーニャの手助けを試みるが。やはり全て失敗に終わる。そうして俺はふと気づく。どうやらサーニャはこの巨大な怪物が弱ってきた瞬間を狙っているようであり。その時を待つかのようにじっとしているのだ。だがそれも長く続くことはなく。徐々に巨大生物の身体から出血が増え始めてきたのだ。俺はサーニャの行動を観察していて、このタイミングで何かが起きると確信した。なぜならば、明らかにサーニャの攻撃回数が多くなってきたからである。しかも先程の大振りではなく。小さな切り刻むかのような攻撃をするようになった為、相手は防戦一方になり、明らかに体力を消耗し始めたようであることが伺えた。そしてそれから更に暫く時が経過するとついに決定的な一撃を加えることに成功したようである。それは相手の体の至るところから大量に飛び散るようにして血液を噴き出した事からも分かるのだ。俺はその様子を確認するとすぐさま動き始めることにする。俺もあの攻撃に参加しないとサーニャの援護ができないのは確実であると思ったからだ。俺の今の実力がどの辺りにあるのかはまだ把握できていない為分からない部分もあるのは間違いないのだが、とりあえず転移を上手く使えさえすれば勝てる見込みはあるはずであると信じて行動することにしたのである。俺の作戦としてはこうである。あの大きな黒い生き物はどう見ても瀕死なはずで、あと少し攻撃を続ければ確実にとどめをさせると思うのである。なので俺は、転移で近寄り。渾身の一撃で斬りつけようとした瞬間、突如として現れた黒い影によって阻まれたのだった。そして次の瞬間。その衝撃的な光景を見ることになったのだった。その大きな黒い生物が黒い液体へと姿を変えたかと思いきやその体が一気に巨大化していったのである。そして最終的にはサーニャ達と同じ姿へと変貌したのだった。

「嘘でしょ!?そんな馬鹿な!!なんでこんなことに!!」サーニャは焦ったような表情を見せるとそう叫び声をあげた。そして女騎士もその変化を目の当たりにして驚愕しており、サーニャに至っては顔が青ざめているように見えたのである。どうみてもこの巨大な黒い怪物とサーニャ達は何らかの繋がりがあるようで、つまり仲間同士だったのではないかと俺は思ったのだが。今は考えている余裕はなく。俺は自分の身を護るのが最優先であると判断し。俺はとにかくその場から離れる事にする。幸い俺の姿は二人から見えていない筈なのだが、何故かその怪物に俺の存在を感じ取られたらしく。その怪物は凄まじい速度で襲いかかってきたのだ。その速さはかなりのものだったが、俺の目に映らないほどのものではなかったのである。その為俺は転移を発動させ回避するとその大きな怪物に反撃を加えた。そしてそれと同時に女剣士の方を確認するが。俺の想像通り既に限界だったようで、その場に崩れ落ちてしまい。その怪物から距離を取ろうと後退していたのである。しかし女剣士はもうこれ以上動けないというように膝をつくのだが、そんな事はお構いないとばかりに再び立ち上がろうとする。俺は慌ててサーニャに助けを求める為に駆け寄るとサーニャに抱きついた。そうしないと今度こそ本当に死んでしまう気がしたのだ。そしてその黒い生物をどうにかしてほしいと告げると。サーニャは何を考えたか分からないが、俺の頭を両手で抑えつけたのである。そしてその怪物はサーニャに向かっていくとサーニャに攻撃を仕掛けてくるが、それを俺を抱えた状態で見事にかわすサーニャであった。俺は一体どうしてこのような事になったのか訳が分からなかったが、とりあえずはあの化け物を倒すまでは大人しくしておく事にする。なぜならば、その大きな黒い生物は俺に意識を集中しているように感じられたからである。

俺はその後、転移を使って逃げ続けたのだが、どうしてもサーニャが俺を庇うように抱え込む形になってしまい。その度にサーニャの動きが悪くなっていったので非常に危なかったのである。そして俺がそろそろ頃合いだと判断できる状況になるまで逃げるのを続ける事にしたのである。俺の考えではあの大きな黒いモンスターは瀕死の状態だったはずである。あれだけ大きなダメージを受けていれば流石のサーニャも手を出すことはできないのではないだろうか。それにあの状態であれば、先程よりも楽に倒せるはずであるし。俺がサーニャに抱っこされているのは、この世界で俺が一番強いと思われているせいで守ってくれているという可能性も有るが。恐らくはサーニャがそうしたかっただけの可能性もあるだろう。どちらにせよこのままサーニャに任せておけば何とかしてくれるかもしれないと思った俺は、ひたすら逃げ回りながら様子を観察することにしたのである。

そしてついにサーニャが大きな怪物に一撃を加えると。あの巨大な黒い生物は一瞬にして先程の大きさに戻った上にその身体が光に包まれると元の人族の姿に戻っていったのである。俺はその姿を見て唖然とする。先程あれほど強かったのが何故だか人間になっていたからである。それを見た俺は驚いていたがサーニャだけは納得がいかないといった様子を見せており、今すぐ殺そうとする気配を見せた。

しかしそこでようやく俺に気付いたらしいこの国の領主を名乗る女騎士がサーニャを説得したおかげで何とか事なきを得た。俺には何が起こったのか未だに理解できていなかったのだ。そして俺達は領主に案内されて屋敷に招かれることになった。ちなみにこの国の名前はアルタイルといい、ここの国は貴族制を取っているという説明を受けたのである。

屋敷に入ると豪華な調度品に囲まれた広間に通されたのだが、俺はどうしたものかと考えている。というのもこの国の国王に会うために来たわけではないからだ。それならばすぐに帰ればいいと簡単に思うかもしれないが、サーニャは違うようであり。俺にこの世界の話をもっと聞かせてほしいと言ってきたのである。正直俺としても聞きたいことはたくさんあったし。話も面白そうだとは思ったが、俺はここで一つ提案をしてみることにした。

「じゃあまずは腹ごしらえしようよ。ほら、こっち来て!」

俺がそういうとサーニャは俺が言った言葉の意味がよくわからないという様子だったが、それでも俺の言葉に従ってくれて一緒に食事をすることにしたのである。俺が料理のメニューを選んで頼むと、それを見ていた他の者達は驚いた様子でこちらを眺めていたのである。どうやらこの世界には存在しないメニューらしく、とても不思議そうな目で見られていた。だがそんな中でもサーニャとサーニャの二人だけが喜んで食べてくれたのだ。二人は初めて見る食材に興味深々のようであり、美味しいかどうかを聞いてきて、特にサーニャが色々と話しかけてきてくれるのである。その様子は非常に可愛いもので、思わず頬が緩んでしまったのだった。だが、その時突然後ろから大声が上がった。

「わー!!待って下さい!この人は私が狙っていたんです!!」

という声と共に、サーニャの胸を鷲掴みにする何者かが現れた。どうやら女騎士さんが帰ってきたようで、どうやら女騎士は食事中に戻ってきたようだ。そして女騎士団長はというと。サーニャを見て驚きの声をあげると、「サニャちゃんだよね?え、どういうこと?」と混乱した様子を見せていたのである。

「私はタローと結婚するんだもん」サーニャは不機嫌な声でそういうと、俺の腕を取って自分の腕を組み直した。

女騎士はそれを見ると顔を真っ赤にさせて何か言おうとしていたようだった。だがサーニャの「タローは私の恋人だよ。だから邪魔しないで!!」という言葉を聞くと何も言わず項垂れて引き下がった。どうやら相当サーニャに負けているらしくかなりショックを受けたようである。そんな様子を確認してから、サーニャはこの場から逃げるために俺を引っ張って行こうとするが、それを今度は俺の方が止めてしまう。なぜならこの場で俺は言っておきたい事が有ったからである。そして俺からすると一番の不満をぶちまけたのだが、それに対して女騎士は言い返すどころか反論すら出来ずに押し黙ってしまったのだ。しかもなぜか俺が言う前に、女騎士団長であるこの女が泣き出してしまったのである。

俺はサーニャの方に振り向くと。この女性と少し話がしたいと告げる。するとサーニャはとても不愉快そうな態度を示したものの、仕方が無いとばかりに了承してくれたのである。そして俺は改めて女騎士と向き合う。すると彼女は何かにすがりつくかのような眼差しを向けてくるのだが。それはどこか期待したかのような表情にも見えた。どう考えても俺に恋しているとは思えないのにである。

俺はとりあえず名前だけでも教えてもらおうと思ったが、名前を聞かれるだけで嬉しかったようで、満面の笑みを見せる。その反応を見れば彼女が俺に対して好意を抱いていない事はわかるが。どう見ても女騎士はサーニャに惚れているのは明らかであった。つまり俺は女騎士の恋のライバルなのである。だが、サーニャは俺の事を諦めないと言い切っているし。そもそも、俺はサーニャの恋人ではないから、別に争う必要もないのである。そして、俺は彼女の口から俺に恋人はいないという話をすると、明らかにほっとした表情を見せるのだ。そしてそれから俺の方は、どうしてここにいるのか尋ねることにしたのである。

すると彼女曰く。あの巨大な黒いモンスターは実は俺達を襲ったものではなく、ただ単に迷い込んだだけであったらしいのだ。どうやら女騎士はその事にいち早く気付いたようで。どうにかあの怪物を倒した後で、俺達が襲われた時に俺が放ったスキルについて聞いたらしい。そしてそのスキルで倒した怪物が元に戻った事から。もしかしたら、あの少女が使った薬と同じような効果があるのではないかと思ったようだ。つまりは俺のスキルがサーニャと同じものであると考えた女騎士は俺に興味を持ったという。そこで俺は女騎士が俺達の会話を聞き耳を立てて聞いていた理由を知る。そしてどうやら女騎士は先程俺が女盗賊と戦ったのを目撃しており、それで確信を得たのだという。俺は自分の事をあまり知られたくなかったので、女騎士団長が俺のスキルに付いて知った事に関しては秘密にしてもらいたいと告げる。すると彼女はもちろんと答えるので、この国の王様と謁見してみたいと伝えたのだ。すると彼女は、その程度の事でしたら喜んでと笑顔で応じてくれた。そして早速向かうことになったのである。

俺が屋敷の中に入ると、執事と思われる人物が近づいてくると丁寧に挨拶をする。俺もそれに応えると案内されようとしたのだが、その前に俺は女剣士に用事があると言って離れてもらった。そして先程の戦いの借りを返してほしいと言うと、俺を睨んできた。どうやら俺が何を言っているのかわからないようだったので俺は仕方なく説明する。

「さっきの続きをしてあげる。ただし君が勝てばだけどね。もし僕に勝てたら見逃そう。もしも負けるようなら、その時には覚悟を決めてもらう。でも心配しなくても、その傷なら死ぬことはなさそうだし、後遺症が残るようなこともしないつもりだよ」

そう告げると剣を構え直す女騎士であったが。まだ自分が戦う事を諦め切れていないようで悔しそうに俺を見てきた。

俺がこの世界に飛ばされた時のことを話すと納得する部分があったのだろう。ようやく戦いに応じる姿勢になってくれたので俺はサーニャに審判を務めてもらうようにお願いした。流石に見られている中で全力で戦うわけにはいかないので加減するつもりなのだ。それに相手を傷つけないように戦わないというのは結構面倒だと感じたのだ。だから出来るだけ手の内は晒したくないと思っているのだ。そしてサーニャの合図と共に試合が始まったのである。

俺は相手の隙を探すべく間合いを取るが。俺の意図に気付いたようで一気に飛び込んで斬りつけてくる。俺としてはなるべく手を抜いて相手をしてあげたいところだったが、相手が本気になった以上それに合わせることにした。そしてお互いが一撃を加えると、お互いに弾かれたように後ろに飛んでいく。そして仕切り直しとなったのである。そしてまた俺の一撃を食らわせると相手は防ぎきれなかったらしく、苦悶の表情でその場に崩れ落ちる。俺はそれを見て手応えを感じてしまったのだが、それでも何とか立ち上がろうと必死に足掻いていた。その様子は明らかに普通ではないと感じてしまい思わず尋ねてしまう。

「何がそこまで君を頑張らせるんだ?」

その質問に相手は一瞬動きを止めるが、やがて力尽きたかのように倒れ込むと。意識を失った。俺はその様子を呆然と眺める事しかできなかったのである。どうやら俺はやり過ぎてしまっていたらしい。完全に殺してはいないとはいえ瀕死の状態になっているようだ。

そこでサーニャが女騎士団長を回収して部屋に連れて行って休ませるという事になったのだが。何故かサーニャもその部屋に着いて行ったのだ。どうやら回復魔法の使い手がいるようでサーニャはそこで待機していたらしいのである。そして俺にはどうすることもできず、女騎士団長が起きるまでの間暇になってしまった。なのでサーニャ達にお城の案内をしてもらう事になるのだが。そこでふと思い出したことがあり、女盗賊に頼まれていた伝言を伝えるために再びサーニャの元に戻ることにしたのだった。

そして俺の言葉を聞いた女盗賊は涙を流して感謝してくれた。やはりあの手紙は俺の母さんからのものだったようで。俺の母親から貰った手紙が今、この世界に来て初めての宝物となったのである。そのことに少し感動を覚えながら。俺は女騎士団長が目覚めるまで待つ事にしたのだった。ちなみにサーニャもずっとついてきており、なぜかサーニャまで俺に懐いたらしく俺から離れなくなってしまった。どうやら一緒に居ないと嫌らしいのである。

俺は目覚めた女騎士を治療してくれていた女性と少し話をすることにした。名前はアイシャというらしく。この国で治癒師として働いているそうだ。サーニャが連れてきた俺を警戒していたのだが、俺が事情を説明すると、警戒心を解いてくれたようだった。

それから俺は女騎士団長が寝ていたベットの横にあるソファーに座るのだが。サーニャとアイシャが両脇から挟む形で俺の隣に座ってくる。それを見ているとまるで俺を誘惑するように胸を押し当てている。

「タロー!私は諦めてないんだからね!絶対タローを振り向かせて見せるんだから!!」というと俺の頬にキスをしてきた。

「え?私も狙ってるんですよ!!あなたが望むならば、私の身体を差し出すくらいに!!でも安心して下さい!サニャちゃんより私の方が上手くできますから!」そういうと今度はサーニャの方を挑発してくるのだが。どうやらアイシャは、この場で俺の争奪戦を始めようとしているようで。それは困った事態になっていた。なぜならこの二人が争ってしまうことで俺に対する影響が大きいからだ。もしここでサーニャかアイシャのどっちと付き合えば良いかを迫れれば俺はどちらとも付き合いたいと答えるかもしれない。だから二人の言い分を聞いてみた結果。どちらも譲らない状況だった為、俺は二人に提案する事にしたのだ。つまりこの場で決着をつけないでお互いに俺を譲る事にすれば丸く収まるのではないかというものだ。俺はそうするとこの場を収める為に行動に移した。すると二人は顔を合わせてしばらく考えていたが納得したらしく。

「分かったよ」と言って了承したのであった。

俺達は女騎士団長の回復を待って城の中に用意された客間に移動するとそこに荷物を置きに行こうとしたのだがその前にやるべきことがあった。それはあの黒いモンスターの死体を放置しておくのはよくないだろうと考えて、アイテムボックスに入れる事にしたのである。そうしないと誰かが回収に来たときに騒ぎになりかねないからね。するとなぜか女騎士団長が起きてこないので俺が一人で行くことになったのだけれど、サーニャも一緒について来ると言い出し。そして結局はアイシャも着いてきて四人で黒い死体のある場所に向かったのである。

そこには黒い大きな魔獣がいたのだが、それは巨大な熊であり。おそらくはジャイアントベアーと呼ばれる魔物であることが分かったのだが。それを見てもサーニャは全く驚いていなかったのである。どうやら以前にも同じような魔物と遭遇したことがあるようだ。そのおかげで冷静に対応出来たサーニャは剣を抜くと俺よりも先に切り込み。一撃で倒す事に成功したのだ。その姿を見て感心した俺は、さすがサーニャは強いなと思ったのだ。それからサーニャが嬉しそうな顔をしている間に、俺が魔法を使って死骸を消滅させたのだが。それを見たアイシャはかなり驚いていたが、その理由は簡単で、普通は死んだモンスターは消滅することなどないのだと教えてくれたのだ。俺はその言葉に衝撃を受けた。

俺は今までの異世界で生きてきた中でそんな話聞いたことも無かったし、見たこともなかったのだ。そのせいでかなり戸惑ってしまった。どうやら俺はとんでもない勘違いをしていたらしい。俺の中では死んだ生き物は消えるのが当たり前でそうではない世界もあるという事実に驚きを隠すことができなかったのである。その事について俺はサーニャや女騎士団長にも尋ねたが、その答えは同じで。

【生きている者が死ぬときに、肉体と魂の繋がりが切れて存在そのものが消え去る】ということのようだ。これはどうやら神様によって決められているルールのようで変えることは出来ないと教えられたのだ。つまりは死んでも復活出来るなんていうのはどう考えてもこの世界のルールに反することになるので無理だということなのだ。なので、もし俺が元の世界に帰りたくなって。それが出来ないと理解した時には覚悟を決める必要が出て来そうだなと思うのだった。

俺はそれから部屋に戻ると自分のステータスを確認することにした。

名前 神威 レベル 2(5UP)

職業 なし 体力 1000 攻撃 600 防御 420 魔力 3100 知力 1200 速さ 560 運 500 特殊スキル 鑑定、経験値倍化、状態異常耐性MAX 固有能力

(無属性魔法★3)NEW 生活火属性☆1(NEW)NEW 水鉄砲☆1 剣術 NEW 槍術☆1 斧術☆2 弓術☆1 投擲 NEW 盾術 new 棒術

☆1 刀術☆1 拳闘

☆1 柔術

☆1

体幹トレーニング 効果:筋力向上 new 筋トレ 効果 NEW その他 アイテムボックス×∞ 言語変換機能付与(NEW)NEW 称号 巻き込まれた者 女難の相

(NEW)

装備 聖剣エクスカリバー 防具 旅人の服 武器 無し このステータスをみて俺が最初に思ったことはやはりレベルが上がっていることだった。しかもかなりの数が上がった気がしたのだ。どうせ上がるのならこの世界でもっと戦ってレベルを上げようと考えたのだが、俺の頭に浮かんできたのは、チートスキルを手に入れることだけだった。だが、今の俺ではどんなに頑張ってもそれは無理なように思えたのである。それを考えるだけで、ため息しか出てこないような状況だと感じた俺は少し気持ちが落ち込むのを感じてしまうのだった。そして次に気になったのが、やはり攻撃力の数値が異常なまでに高くなっていて。その他の数値はそこまで変わっていないように感じられたのである。そして何気なく一番気になった特殊スキルの項目に視線を向けた。そこで俺の目に入って来たのは。新しい生活魔法の習得の知らせだったのである。

俺はその知らせを見て、本当に使えるようになったのか気になって試しに使ってみることにした。そこで部屋にある水を少し出してみる。すると手から小さな水の球が出てきたのだ。そのことに俺は興奮してしまい、何度も繰り返したが一向に減ることが無かったのである。

どうやらこの魔法の水は無尽蔵に出てくる魔法のようで、使い放題だったのだ。しかし俺はそれに満足せずに。今度はもっと多くの水を出すために、水鉄砲を撃つ感覚を思い出してみたのだ。そしたら簡単に発動できたのだ。そして俺は、さらに大量の水を手のひらから出すことに成功した。そしてそこで俺の中で疑問が生まれてしまったのである。どうしてこんなに楽に水鉄砲を発動できたんだろうと不思議に思って考えたのだが、その瞬間に俺の中にある考えが浮かんできて。俺の目の前にはゲーム画面のようなウインドウが現れたのだった。そこにはこう表示されていたのである。

『ウォーターボール』LV.2 生活魔法の一つ。水を発生させることが出来る どうやら俺の考えが間違っていなければ、生活魔法のスキルを覚えていたおかげのようであった。それで思い出したが。俺は昨日は寝落ちする前に寝ぼけながらトイレに行って。用を足していたのでそのまま寝てしまったのである。そのせいか寝ていたときに寝ながら無意識のうちに尿意を感じていたというわけだった。

どうやら俺が意識を失っていた時に覚えたものらしい。ただそれでもまだ足りないと思い。他の種類の魔法を覚えようと集中した。その結果がこの水系統の魔法ばかりだったようだ。そしてそのお陰なのか。他にもいくつか新しい魔法を覚えており、その中でも俺が驚いた魔法が一つあった。

それは風系の魔法であり、その魔法もかなり便利だった。どうやら俺は風系統の生活魔法を覚えたらしく。その魔法はウィンドアローと言う名前のようで、風の矢を作り出すものだった。

それは、魔法で出来た透明な羽を持った鳥のようなもので。その鳥の形をしたものを作り出せるらしい。俺はそれをイメージしてみると。実際に作り出すことに成功している自分に驚くしかなかった。なぜならその作ったものが宙に浮いていたからである。俺はその光景を見て思わず「すげぇ!!」と声を出してしまっていたのであった。それからすぐにそれを消そうとしたが。その必要は無かったのだ。俺がそのウィンドイーグル?という名前を付けた生き物は勝手に部屋の中を飛んでいたからだ。どうやら自動操作が可能なようで自由に行動できるみたいだ。

そしてそれはしばらく部屋を自由に飛ぶと、どこかに行儀よく座ると止まって俺の事を見つめていた。その姿を見ると可愛いと感じてしまい。まるでペットでも飼っている気分になってしまう。そうしてしばらくの間はその不思議な生き物の事を眺めていたが、いつまでもそうしていると疲れてきてしまうので。その魔法を解くことにしたのだ。それから俺は改めてこの世界でのステータスの恩恵をありがたいものだと感じる。なぜならレベルが上がりやすく。そしてその上昇幅も高いからであった。だからレベルが上がってから数日でレベル30に到達していて。そこからさらに10ほど上昇したところで成長が鈍化した。つまりはもうこれ以上は上がないということになるのだが、逆にいえばそれはレベルアップに必要な経験値を稼ぎやすいということであり、それを考えればこれからの戦いは俺にとっては楽になる可能性が高いと言えると思う。

ただでさえ強くなれる可能性は無限大なのだが、俺が覚えた特殊スキルの効果は、それこそ神からのプレゼントだと思うくらいにありがたかった。それは何かと言えば俺の成長に関する事なのだが、まず俺はどうやら成長率が異様に高いらしい。それも一般的な人間の3倍以上はあるようだ。それが俺の固有能力の影響だというのはすぐに分かったのだが、この世界に生きるすべての人間も俺と同じ効果があるらしいので、俺が特別ではないことが分かったのだ。なのでその事実は、俺にとって安心材料となり。戦いやすくなるのだと実感する。それに俺は普通の人間がレベルを上げるのは簡単じゃないことも知っていたのだ。なぜならレベルを上げている間はステータスをひたすら上げ続けなければならないし。戦闘技術なども身につけていないといけないのだ。そのせいで一般人がいきなり戦えるようになるのは難しい。

だけど俺が異世界に来て最初に得たスキルは、それらの問題をすべて解決してくれたのだと確信できたのだ。だからこそ俺は、この世界に来る前よりも今の方がよっぽど強いんじゃないかと思うほどである。そして俺は、ステータスをもう一度見て、確認をしておいた。特に新しく手に入れた称号のところを見たときに俺の顔が緩んでしまうのだが。その理由は女難の相とかいうふざけた称号だった。俺はこんなの称号を付けられる心当たりがなかったのだが、何故かサーニャと一緒に居たときに限ってこういうことが起きるんだよな。まぁその事は後で考えるとして、今はサーニャの件を考えないといけないな。

アイシャは俺に抱きついて眠ってしまった。だから俺は、アイシャに布団をかけてやり。俺はサーニャの部屋へと移動した。その途中でサーニャの姉である女騎士団長に出会って。どうやら俺を探しに外に出ようとしていたらしい。その事に気づいた俺だが、とりあえず話を聞いてみようということになったので、俺は女騎士団長と共にサーニャの部屋に戻ってきたのである。

俺はサーニャが無事だった事でほっとしていた。それにしてもアイシャのあの豹変ぶりは一体何なんだと困惑してしまう。どうやら俺に気があるみたいなんだけどさ。そんな素振りは一切見せたことが無かったので、俺は正直な所。俺の事を好きになることなんてあるのだろうかと思ってしまう。

それから俺はサーニャと話して。どうやらサニャは自分の気持ちに気づいたみたいだった。だが俺はそれを知っていて気づかないふりをした。俺は自分がどうすればいいのか分からなくなっていたのである。今までの人生の中で俺のことを好きなる女子など一人しかおらず。その子にも振られたのに。なのにどうして俺はモテるのか意味不明だったのだ。だから俺はどう接したらいいのか迷っていたのである。

そして俺は自分の部屋に戻ると再びステータスを確認してみると。また新たにスキルを覚えていたので確認しておくことにする。俺は先程のウインドアローという魔法を使ってみることにしたのだ。そしたら俺は魔法を使うことができたのである。どうやら俺は魔法を使うことに慣れたようで、魔法を使いたいと思った瞬間に魔法が使えるようになっていたのである。それはそれで楽になったのだが。やはり俺としては魔法を使わないですむならそれが一番良いので魔法の練習はあまりしていない。

俺は魔法の使い方についてはなんとなく分かってきたので、次は剣術の鍛錬をすることにした。この剣聖というスキルのお陰なのか分からないが。どうやら俺は普通以上に剣の扱いに長けているというのだ。そのせいなのか俺は自分で剣を振りたいと願っただけで。体が自然に動いてくれて、その通りに動くことが出来たのである。俺はそのことを不思議に思いながら。剣の素振りを繰り返し行っていた。すると俺はその動作にだんだんと違和感を覚えるようになってきたのである。そしてしばらくして剣を振る速度が上がるにつれてその違和感は消えていったのだった。そしてそのことに俺は気づくと同時に。その剣のスピードが異常なほど早くなっていくことを感じた。そして最終的には音速に近い速度で振ることが可能になったのである。だがそれでもまだ遅いと感じる。俺の中の本能的な部分がもっと早く動けと言っていたからだ。そして俺はまだ動き続けることが出来るのなら。俺はさらに速さを求めることができるとわかった。俺はそれからさらに加速していった。

だがそこで限界が訪れることになる。そして俺はそこで体を動かすことが億劫になり。その場で倒れるように横になるとそのまま眠りに落ちてしまうのだった。そして俺が目覚めると、すでに夕方だった。どうやらかなり時間が経っていたようである。俺は寝すぎて少し痛くなった体を無理やり起こすとそのまま立ち上がって、俺は軽く運動をする為に庭に向かったのである。そこでもしかしたらスキルを習得できるかもしれないと考えての行動だったが。結果としては何も得ることが出来なかった。そしてそのまま俺が部屋に戻るとそこで俺を呼びに来たらしい、執事がやってきていた。

俺はそれに驚きつつ。急いで支度を整えると、一緒に食堂へと向かったのだった。俺達が食堂にたどり着くとそこには既に食事の準備が出来ていて俺たちを出迎えてくれる人たちがいたのである。それは女騎士団長を始めとして女騎士たちであった。彼らは全員が女性であった。どう考えても男手が無いと思われるのだが、なぜか全員メイド服を着ており、男性の使用人らしき人も居なかったのである。だからなのか、料理を作るのはすべて女性であり。しかも見た目には若い女性ばかりだったのだ。俺がその光景を見て唖然としていると、女騎士団長がこちらにやってきた。

「あら、遅かったですね。今日は皆んなで集まって夕食を食べましょうって決めていたんですよ?」そう言った後に。「さぁ行きますよ!」と言ってから歩き出した。

「は、はい。わかりました」

そう言って俺がその後ろを付いて行こうとすると。

「待ってください!わたくしを案内してください!」と一人の女性がそう言ってきたので。俺はどうするかと悩むと、彼女は「ではあなた、お名前は何というんですか?私はアシュリーと申しますが」と言われ。俺は「おぉそういえば自己紹介がまだでしたね。俺は九条勇です。よろしくお願いします。あと俺はここの屋敷の持ち主の息子なだけなのであまり気にしないでいただいて結構ですよ。一応ここでは俺はお客さんみたいなものですし。それでよろしければ案内をさせていただきますがどうでしょうか?」と俺が言うと。

『お姉ちゃんのところに来なさい!!』と急に俺の横に来ていた女の子に服を引っ張られながら俺は連れて行かれたのである。その光景を見て、俺は、えっ?と戸惑うと、

「あぁすみません、この子ちょっと寂しかったみたいなんで、じゃあこの子をしばらく貸していただけるということで大丈夫ですか?あと私の名前はアイシャって言います。それじゃ行きましょう。アイシャは私の事を姉の事を呼ぶのですけども、別に呼び捨てにしてもらって構わないので」

と突然言われてしまった。俺はこの屋敷の女使用人たちはなぜこうなっているのか理解できなかった。そして俺とサーニャが食事をするために用意された部屋に入ると。俺達の分の食器が用意されていることに気づいたのである。そしてそこに用意されていたのは、まるでレストランで出されるような、豪華なものだった。俺はそのことに驚いてしまうが、すぐに女騎士団長が俺に席に座るように促してきた。俺はそれに従って座ると、すぐに飲み物が用意されて。女騎士団長は俺にワインを渡してくれた。俺はそれを飲むと、そのおいしさに驚愕してしまった。今まで飲んだことの無いほどおいしいと感じたのである。

「それはとてもおいしいものでしょう?実は今日のは特別なんですよ。なんせアイシャのために作られた特別のブドウジュースなんですよ。それをぜひ味わってみてくださいな」

と言って俺の前にそのグラスを置いた。そのグラスの中にはピンク色をした飲み物が入っているのだが。それを見たとき俺は、これはまさかと思いながら女騎士団長を見つめた。

「ふふん、やっと気づきましたかね?この私が、あの天才と呼ばれるこのアイシャ=アルフォンスその人であります!!つまり私はあの大魔道師でもあるわけだなのですよ!!」

俺はその事実を知り。驚いたが、それと同時に納得する部分もあったのだ。確かに俺が出会ったあのサーニャという子は普通の人間の子供ではないのだと分かったからである。

俺が異世界に来てからもう3週間が経った頃だったと思う。この世界で生きるための生活に慣れ始めた頃に。俺達はダンジョンに挑むことになったのである。それは俺のレベルが3を超えたのがきっかけだと思う。俺達の目的はレベル上げなのだ。

そもそも俺がサーニャと出会った時のレベルが7で。そこから2レベル上げたら9になったのだ。俺はレベル上げをしている間に、自分の能力値がどれほどのものかを改めて知ったのである。そして俺が持っている称号の中に賢者と言うものがあったのだけれど、それを見た時。何かがおかしい事に気がついたんだよ。

俺は称号欄を確認してみるがやはりおかしなことになっていたのだ。なぜならば俺の称号の中に何故か二つあるはずがないスキルが追加されていたからだった。その追加されているものを確認するためにもう一度見てみると。どうやらそのスキルはユニークスキルと呼ばれるものみたいで効果の方に意識を向けると詳細が表示されたのだが、それはあまりにもとんでもないものだったのである。だがそんなことを思っている場合じゃないなと思いなおすと俺は目の前に迫っている敵に対して意識を集中したのだ。今俺達に向かってきているのは魔物でありオークという名前の存在だった。俺とサーニャはその日二人でダンジョンを攻略をしていた。目的は俺が手に入れたこの世界に存在するスキルを確かめたいと思っていたからだが。

その目的の為に俺達は二人で協力してレベルを上げることになったのだ。そしてサーニャと二人っきりで、ダンジョンに挑んでいたのだが。最初は順調に進んで行ったのだが、次第に魔物の数が多くなり、俺とサーニャは分断される羽目になってしまったのである。そのせいもあってか、俺とサーニャは別々の場所で戦うことになってしまう。俺は俺が覚えていたスキルの一つを使い、魔物を次々と葬っていく。

俺はこの時。自分の体に何が起こったのかを理解することはできなかった。俺は気づけば体が勝手に動いており。俺の意志に関係なく動き続けたのだ。俺が自分の意思に反して動いたことに気づいて慌てている時に。さらに俺の体を操ったやつは俺を殺そうとしてくるのである。俺はなんとか自分の意志で体をコントロールしてその場を逃げ出したのだが。そいつらは俺のことを逃さないかのように追いかけてきた。そしてそいつらと俺との距離が縮まりそうになったときに俺のことを救ってくれたのが。先程使った俺が取得したスキルの力だった。俺がその力を使えるようになってすぐに俺を追いかけてきていた奴らを一瞬のうちに倒してくれたのである。

俺の体を動かしたのは間違いなくあの力であるのがわかっていたのだが。あれほどの実力を秘めた存在を俺は一人しか知らなかった。だがあいつとは一緒に旅をしただけでほとんど一緒に過ごしたことなどないのである。なのにどうしてなのか分からなかったが、それでも俺はその力で窮地を切り抜けた。俺はその後もその力を使い続けていくうちに、どんどんその使いこなせるようになっていくのを感じた。そしてそれは同時にこの力がいかに強力なものだという事も実感していったのである。俺はそのことに恐怖を覚えたが。それよりもこの力は使い方さえ間違えなければすごいものなんだとわかったのである。そしてそれが分かると同時に。俺はこの世界に来れてよかったと心の底から思ったのであった。

俺がこの力を手に入れる切っ掛けになったのには理由があったのである。俺にはどうしても確認したいことがあり、その為にも俺と同じような人間を捜そうと、そしてあわよくば俺と似たような力を持つ人と会えないかなと考えていたのである。だが俺には俺を召還しようとした人がいるらしいのだがその人たちに会うことも出来ずにいたのである。

だからこの力があればその人達を探し出すことができると思った俺は。まず最初に自分がどんなことができるかを確かめることにしたのである。その結果俺には様々なことができたのであった。

まず一番初めに使うことが出来た魔法についてなのだが、その属性は闇属性というものだった。そしてその魔法は、その魔法の名を唱えることで発動させることが出来る。ちなみに魔法を発動するときのイメージだが。俺はゲームに出てくるような呪文を思い浮かべて唱えるのではなく。自分の体の内にある魔力を感じるとそれをその魔法に変換するような感じをイメージしたらうまく発動させたのである。どうやらイメージの仕方次第でどういった現象が引き起こせるのか決まるようで、俺のやり方だと。それはまるで漫画やアニメの世界で出てくる攻撃のような事が出来るのかもしれないと感じていた。まぁまだ試したことはないがな。そして次に、俺の能力の中で気になっていた部分があるのだ。俺の称号に追加された謎の文字に関しての説明文を読んだのだが、そこには、こう書かれていたのである。

【名前】

九条勇太(♂)16歳 【職業】

異世界からの来訪者 【称号】

勇者/異界の英雄 この世界の救世主 異世界の覇者 【恩恵】

この世界の神々の寵愛 創造神クレアラート 【固有技能】

『鑑定』『言語解析』『法則変換』『経験値増加』

『全能力上昇』、『無限収納庫』

【技能】『剣術』

『火術適性』、『風術適性』、『水術適性』、『雷術適性』、『土術適性』

『聖炎耐性』・『光魔耐特性』(new)

『毒無効』

【加護】

『精霊神の加護』(New)

と書かれていたのだ。俺も最初これを見た時は何が何だかさっぱり分からなかった。だってこれを見て真っ先に俺が思ったことは一つしかない。それは俺のステータスが異常なくらい強くなっているということである。それこそチートとかいうのに近いのではないかとも考えたが俺はそうは思えなかったのである。その理由は、俺がこの世界に来て手に入れた称号に異世界の救世主というものがあるからだ。もしこれが本当の意味でこの称号の効果ならば俺はかなりとんでもない状況に陥ってしまっていると理解したのである。

それに、俺が一番気にしている事があり。それはこのスキルが俺に与えた恩恵というのが問題だった。俺は確かに異世界の神様によって呼ばれたということは理解しているが、俺は別にこの世界を救えと言われていないのだ。それにも関わらずこんなものが付与されていたのだ。つまりそれは何かあるんじゃないかと思ってしまったのである。

そして、これらのスキルをどうやって習得したかという疑問については俺はもう諦めたのだった。おそらく俺以外の人が見たらふざけてるんじゃないと怒る人もいるだろうが、だが俺としてはむしろ嬉しかったんだ。なぜならそのスキルを俺に与えてくれたのは俺に好意を持ってくれている女性達だったのである。そのスキルのおかげで、彼女達を守れるなら俺はどんな苦難にでも立ち向かえる気がしていた。実際俺はサーニャを守りたいとも考えていた。俺はそんなサーニャを守ることが出来れば後はどうなってもいいと思えるほどに、あの子を愛していたのである。だから俺はこれから先の人生をサーニャのために捧げようと決意したのであった。

「お兄ちゃん!!」

「アイシャ!?」

アイシャと名乗る少女と別れた後、俺はサーニャと合流してダンジョン内を進んでいた。その道中で魔物と何度か遭遇して、それらを全て倒してきたが。そこで急に、俺達の前にあのアイシャが現れる。その事に驚いたのだが、俺はそれよりもサーニャとアイシャの関係の方が気になって仕方がなかった。なぜあの子がここにいるのかと不思議でならなかったのだ。しかも彼女はアイシャのことを自分のことを知っているみたいな言い方をしたから尚更気になったのである。そんな俺の心配をよそにアイシャとサーニャはすぐに仲良さげな雰囲気になっていて。そして二人は何か楽しげな話をしていたのだった。そしてしばらく二人が話をしているのを眺めていると。ふいにこちらを振り向いたサーニャと目が合う。

その事に少しドキッとしたのだが、それと同時に俺はあることを思い出してしまった。サーニャと出会ってすぐのことだが、彼女が自分の事を天才と言っていたことを思い出したのである。俺はそれがどういう意味なのか気になりだしてつい聞いてしまう。するとその言葉を聞いた瞬間。アイシャの笑顔が固まってしまい、そのまま動かなくなってしまったのである。それからしばらくの間、静寂が訪れると、その空気を打ち破るようにして俺の腕にしがみついてきながら話しかけてきたのはアイカだった。

そしてその事にまた驚かされる。俺には何が起こったのかわからないが、突然腕を誰かに掴まれたので驚いてしまい。その犯人の方を見てみると。その人物は、アイシャであったのだ。その事に驚き、戸惑っていると、今度は俺に向かってその手をかざしてきたのである。

そして俺は意識を失ってしまい、目を覚ました時には、知らない天井を見ていたのだった。俺はその時の光景を今でも覚えている。そこは病院と思われる建物の一室で。その部屋に入ってきたのは俺のことを見下ろしている人物で、それは、サーニャだったのだ。

その後俺のことを見下すような目つきをしていたサーニャだったが。そんな表情が嘘だったかのように、いつもの可愛らしい笑顔を浮かべるので。俺は思わず見惚れてしまっていたのである。俺は彼女の顔から視線を下に移すと、そこには、サーニャのお腹が見えたので、そこで初めて俺はベッドに寝かされているのだという事が分かったのであった。だがそれだけじゃ俺にはこの状況がなんなのか分からないままだった。

俺はサーニャのことが好きなのだ。もちろん女の子として好きだという意味であり、彼女に告白までしたことだってあったのだ。だから今の俺は、彼女の体を見ているというだけでドキドキしてしまう。その事は俺自身も理解していたが、それでも抑える事が出来なかったのだ。

俺は恥ずかしくなり慌ててサーニャから離れようとするが。体が思うように動かない。俺はどうにか体を起こそうとするが全然言うことを聞かなかったのである。

そんな俺を嘲笑うかのように笑みを見せてくるのは。俺の目の前にいるサーニャだった。俺のことを愛してくれていたはずなのに。俺に対してそんな態度をとるなんて信じられなかった。そして同時にその行動でようやくこの世界に来た時、俺がサーニャに言った事を思い出す。俺は、君を助けたいとか言っていたけど。その事で嫌われたんじゃないかと思っていたのだ。だけど違ったみたいである。俺がその事に気づいたのが遅かったせいか、それとも別の理由があるのかわからないが、とにかく俺は、今サーニャの様子がおかしくなっているという事実を受け入れるしかなかったのである。

そしてサーニャはそのままどこかに行ってしまい、戻ってきたときにはその隣に立っていた男によって。俺は無理やり起き上がる事になったのである。男はなぜか、この世界の神を名乗った。そして、そいつは、自分が誰なのかを俺に説明し始めた。そして、俺はそいつの話を聞いたときに、すぐにそれが事実ではないと気づく。この世界で俺は神の力を手に入れて、この世界に転移する時に貰った特典のような力で、自分が元の世界ではどこにも存在していないことも知った。そして俺は、俺と同じような境遇の人間を探し出して仲間に引き入れようとしているのである。

だが俺は俺以外にこの世界に召喚されたという人には会っていなかったので俺にはどうすることもできなかった。それに神と名乗った男も、俺がこの世界で生きていくことができるようにする為にいろいろやるとしか言ってこなかったので。俺は仕方なくそれを信用する事にしたのであった。そしてこの日から神を自称する男による特訓が始まったのである。

俺に課された訓練の内容は大きく分けて三つあり。一つは魔法の扱いを覚えることだった。そして二つ目はこの世界での戦い方を覚えろということらしい。そして最後に、三つ目の内容なのだが、それは、この世界で使える力の確認をするという事だそうだ。俺はそれについて詳しく聞いたのだが、詳しくは教えてくれなかったのである。そして俺はまず最初にこの世界で初めて会ったサーニャについて知るために。彼女を探そうとしたのだが、俺はそれをやめさせられてしまう。理由は簡単で、それは俺自身がこの世界の事を知る必要があったからである。だからこの世界の神である自称神にそう言われて納得したのだ。俺はそう言われた後に神を名乗る男と話をしてこの世界の事を教わることになった。

俺達がこれから進むべき道は。とりあえずこの世界を探索してみようと言う話になっていた。その途中でもし仲間を見つけることが出来なければ俺一人でこの世界を見て回ればいいと考えていたのである。そして俺はこの日、ダンジョンの中で見つけた転移陣と呼ばれる魔法によって。とある場所に来ていた。そこには大きな屋敷があって、俺の知っている場所で例えるなら貴族が住む家のような造りをしている感じだったのである。俺達はそこで一晩過ごすことになったのである。そこで俺はサーニャとアイシャに魔法を教わることになった。魔法については、俺が思っていたよりもかなり簡単な物で、俺は拍子抜けしてしまったのである。というのも俺は今までの経験からもっと高度なものを要求されるのではないかと思っていたのだが。実際に俺が使ったことは火の属性を持つ魔法だけという事で、それなら他のもすぐに使えるようになると言われたのだ。なので俺は少し自信を持てたしサーニャに感謝したのである。そして俺はサーニャと一緒にアイシャの訓練を受けることとなったのだ それから数日間は、ずっと同じことを繰り返していたと思うがはっきり思い出せなかったので、割愛することにする。

そうこうしている内に俺にも新しいスキルが増えており、それが、『聖魔無効』というものと『精霊神の加護』というものであることがわかったのだ。聖魔とは邪悪な力のことで恐らく魔王の力みたいなものだと思われていて。そしてそれに相反する存在なのではないかと予想していたのだが、その考えは概ね合っていたようである。ちなみに俺はこれを知ったとき少し嬉しかったんだ。なぜならこれでサーニャを守ってあげることができるからだ。でも俺はサーニャを守れているんだろうか。彼女は強くなったと言ってくれるがそれでも不安だった。なぜなら俺がまだ弱すぎるからだ。だからこそこれから鍛えなおす必要があると思っているとそこで神と名乗る男が現れたんだった。その事に驚いていると今度はサーニャとアイシャが現れていた。そしてそこから先はまた思い出せないんだが、その日の夜はサーニャ達と一緒に食事をして過ごした。その時食べたご飯はおいしくて、それでいて体に染みる美味しさだったのである。そして夜が明けた翌日になると、俺たちは再び動き出す。だが、昨日の晩に、アイシャからあることを提案されていたのである。その内容は、一度地上に出て、冒険者ギルドに行き、そこの支部に所属している人達と情報交換をしませんかというものだった。そして、その提案は俺達にとって都合の良いものでもあったので俺は承諾してサーニャにそのことを話すと賛成してくれたので。俺達はその計画に乗ることにしたのだ。「お兄ちゃん」

「え?アイシャ!?」

「はい!」

俺はそこで目を覚ますと何故か俺の顔の近くに笑顔を見せる女性の姿があったのだ。それもとびきり美人さんがだ。その事に戸惑っていると。彼女はそんな俺に向かって、手に持っていた何かを手渡してきたのだ。それは一枚の名刺で。その名刺には『株式会社イフリートプロモーション』と書かれておりそこに電話するようになっていたのである。そこで俺はやっと目の前の人物が何者であるのかを理解したのである。だが、それと同時に彼女は名乗った時のセリフを思い出すとその正体にも気がついたのだが、まだ混乱していて頭の中がごちゃごちゃになりかけていた。そしてそんな状態のままで俺に向かって話しかけてきていたのだが。そんな彼女に急に俺が反応して驚いた顔をしたので。俺はその事で我に返ることができたのだ。

「すまない!びっくりさせてしまって」

「いえ、いいんです。それより私のことわかるのですか?」

そう言うとアイシャと名乗る女性は俺の手を握ってきて、真剣に聞いてきたのである。そしてそんなアイシャに、俺が答えるより先に、アイカと名乗る少女が口を挟んできた。

「私の妹よ!」

俺はアイカがそんな事を言っているのを見ても意味がわからずにいた。そして少し間を置いてから。俺は二人に説明を求めようとしたのだ。

「待ってくれ。どうして君たちがここに居るんだ?」

その言葉を聞いて、二人がキョトンとした表情を見せた。すると、そこで突然アイラが笑い始めたのである。そしてそんな彼女の姿を見た俺は驚いていたのだ。

「くっくっくっ。さすがだねー。まさかここまで上手くいくとは思わなかったけど、やっぱり面白そうだから黙って見てたら大爆笑だよ!」

俺はそんな彼女の様子に戸惑っていたのである。すると突然アイラの態度が一変した。まるで別人のように変わり俺はそのことに驚いてしまう。

俺の目には、俺のことを睨んでいるように映るのだがその顔は明らかに怒っているように見えるので。何に対して怒ってるのかが全くわからなかったのである。だが俺がその事に驚いて戸惑っているうちにもどんどん話は進んでいたのだった。そして彼女が話し終える前に今度は、俺の方から説明を求めたのであった。だがそれを聞いた彼女は信じられないことを口にするのだった。

彼女はこの異世界に元々住んでいる住人では無く、ある日偶然転移に巻き込まれてやって来たと言っていたのだ。そしてその時の記憶を失っていたのだというのである。しかもその記憶喪失というのが実は俺のせいで起こった事だというのだ。つまり、俺がアイラをこの世界に呼んでしまったというのだ。

そんなことを言われるなんて思ってもいなかった俺は。彼女の話を信じたくはなかった。そもそもそんな事が簡単にできるはずはないと思っていて。きっとこれは、俺の事を騙しようとしているに違いないと思ったのだ。しかし、そこで再び彼女の雰囲気が変わったのである。

そして、アイラはその口調や態度を変えたことによって俺を脅してくるのだ。そして俺はそんな彼女に恐怖心を抱き始めていたのである。だから、彼女の言い分を聞くことしか出来なかったのである。

俺達はそれからしばらく歩いていた。すると途中で、俺達の視界には見覚えのある建物や看板が見えてきて、ここが自分の故郷に近い場所だと認識したのだ。だがそれでも俺は警戒を解くことはできなかった。その理由は、俺の事を騙していたあの女の人が今も近くにいるのではないかという可能性を考えていたからである。ただそう考えるのはまだ早いと、俺は自分の中に湧き上がってくる疑問に蓋をして抑え込むと。とりあえず、この近くにあるダンジョンに足を運ぶことに決めたのである。ダンジョンならば強い敵と戦うことができるはずだし。もし仮にモンスターがいないのならその時に、別の手段をとればいいと考えていたからだ。

ダンジョンの入口付近に行くと。俺達が知っている町と比べてもあまり違いがなかったので俺は少し安堵した。だがその安心も長くは続かなかった。なぜなら、ダンジョンの中から出てきた冒険者達の様子を見てそう思ったからだ。彼らの中には傷を負って苦しそうにしている者もいたし、仲間と思われる者たちに支えられながら何とか歩いている人もいた。その様子を見ていてもしかするとここでは何かが起きたのではないかと考える。

ダンジョンの外に出てきた人がいるということはこの階層に居てもしょうがないと思い。上の階層に向かうために階段を探すことにするとそこで一人の男性と出会ったのである。彼は俺の方に近づいてくるなり俺に助けを求めてきたのである。そしてそんな彼にどういった経緯でこんな状況になったのかきいてみたのだが。どうもその男は仲間を助けることができなかったらしいのだ。なので俺にその仲間の仇をとって欲しいと言うのである。そしてその代わりに何でもいうこと聞くから頼むと言われてしまったので俺はとりあえず話を詳しく聞かせて欲しいと言って彼の話を促すと。俺は男を連れて人気の無い場所にまで移動した。すると男がいきなり話を切り出したのだ。

「実は俺は仲間を見捨てちまったんだ!だけどそいつらにどうしても頼まれたんだが、あいつらがあんな目にあった原因はこの奥にあると思うんだよ!俺は今、無職だしあんたの頼みをなんでも引き受けるから代わりにあいつらを殺した犯人を見つけてくれないか?お願いします」

男は必死になって懇願するように俺に言ってきた。でも、その男の気持ちを考えるならここで引き下がってもらうべきだと考えたのだ。なぜなら俺はこれから、この世界に来たばかりの時に襲ってきた連中が落とした剣を使って戦おうと思っていたのである。だから男の話を聞いて俺は男の仲間の遺品を回収してからでも大丈夫なのかときいてみることにした。だがその返事はNOだったのである。なぜなら、早くしないと死んでしまうかもしれないからといって聞かないのだ。そして最後にはお金ならいくらでも払うからといって頼んできた。その事で少し悩んだが。結局男の要望通り一緒に行動することに決めるとまずは怪我をしている人たちを治療するために教会がある街へと向かいそこで事情を説明して治療して貰えるようにすると、そこで一休みしてから、その問題の場所へと向かうことにするのだった。

ただ、そこで問題がおきてしまうと。そのせいで俺はある人と敵対することになってしまったのだが、それについてはあとで説明したいと思う。なので先に説明しておくことがあるのだが。実はダンジョンの中にあった宝箱の中で不思議なスキルカードを手に入れたのでそれを使うと、俺が倒した魔物の経験値の半分を手に入れることができたのである。その結果レベルが大幅に上昇することになったのだった。

そしてダンジョンを出てから数時間ほど経過した頃、俺はその場所について説明を受けていた。俺が最初に聞いた話ではその場所で何が起きていたかがはっきりとわかっていなかったのだが。今はもうその状況ははっきりしていて。その原因があの女性の人のお兄さんが関係しているようだった。その人は、俺と最初に会った時よりもだいぶ様子がおかしくなっていたのだが。そのことについて、アイナが教えてくれたのだ。アイナは、その人がどうしてああなってしまったのかを知っているみたいだった。それは彼が持っている固有スキル『精神操曲』というものに原因があってその効果にアイナが悩まされていたということだったのだ。アイラのその話を聞いている最中は、俺はアイリが何かを隠しているような気がしていた。そのことが少し気になっていたので。それとなく探りを入れてみたんだがうまくかわされてしまった。そんな感じでアイラとの会話を続けている間に俺は目的地にたどり着いていた。

俺がそこで目にしたものはまさに地獄と呼ぶにふさわしい光景で。そこにあったはずの建物や地面などが、見るも無残に破壊されていて、まるで災害が起こった後のように荒れ果てていて、そしてその真ん中には大きな魔法陣があったのだ。俺はそこで、先程までのアイラの説明が本当なのだと確信したのである。すると、突然背後から殺気を感じ取って俺は咄嵯に後ろを振り返るとそこに居たのは、黒いフードを被ったローブを着た人間で。明らかに怪しい格好だったので俺はとっさに武器を構えようとすると、相手がこちらに向けて攻撃をしてきたのである。そしてそれを俺はなんとか受け止めた。すると相手の力が思っていたよりかなり強く押し返せなかった。

「なるほど、流石勇者様ですね。私の攻撃を防ぐとは。」

「お前は、誰だ?」

「ふむ、そういえば自己紹介がまだでしたね。私の名は、イフリートと言います」

「イフリート?もしかしてあの有名な四大魔王の一人がなんでこんなところにいるんだ!」

「いえいえ。私は別にあなたと戦いに来たわけではありませんよ。むしろあなたの力を見定めに来ているのですよ。それでいかがですか?」

俺はそう聞かれて思わず苦笑してしまうと。相手の様子を伺うようにじっくりと見つめていた。ただその言葉とは裏腹に、その態度や視線からは、まるで隙がないように見えたのだ。そして俺は、目の前の人物が俺に対して敵意を剥き出しにしていることだけは理解していたのであった。

すると、俺が黙っていることに焦れたようで。再び目の前の人物は攻撃を仕掛けてくる。今度は魔法も使ってきていたがその全てが、高密度に練り込まれたもので。普通の人が使ったとしても、その魔法一つで国を滅ぼせるのではないかと思ってしまう程のものだった。そして俺も全力で対応していった。なぜなら、今の俺はレベル上げのおかげで以前と比べ物にならないくらいステータス値が高くなっているからだ。しかもこの能力値の上昇値は今まで俺が強くなって行った中でも群を抜いていて。おそらく今ならレベル99999を超えた存在と戦うことができても勝てる可能性があると思えるほどのものになってきていたのだ。だがそんな俺でも、イフリートと名乗る人物の攻撃を受け続けるのは、厳しいと感じていたので。この場にアイツがいたなら間違いなく瞬殺されていたことだろうと思った。するとそんなことを考えていたら。突然、イフリーは手を引くとそのまま何もせずにどこかに行ってしまったのである。俺が呆気に取られているとそんな俺にイフリーは声をかけて来た。

「さすがは、勇者といったところでしょうかね。貴方の強さを見させていただきました。なので私では貴方に敵わないということがわかりまして今回の戦いはこの辺りにさせていただく事に致しました。しかし私はまたすぐにこの場所に戻って来ることになりそうですがね。それじゃあ、今回はこれにて失礼いたします」

そう言って彼は消えてしまったのである。そしてその場には静寂が訪れると。しばらくの時間が過ぎた頃に今度は別の人達が現れたのだ。俺はそれを見ると急いで戦闘態勢を整えるのであった。

するとその集団の中から一人の男性が出てきた。そしてその男性が口を開くとこんな事を話始めたのだ。彼はこのダンジョンの主の使いだと俺達に告げると、ここにやってきた理由を語り始める。それによると、主の命令で、その男はダンジョン内の宝物を奪いに来る者を待ち構えるように命令されてここでずっと待ち続けていたのだという。ただ、俺達が来るまでは誰も現れなかったために。この階に存在する魔物達が地上に出てしまって被害が出ていて困っていたらしい。ただ俺はそんな事を言われても信じられなかったのだ。だってそうだろう?普通そんな事があり得るはずが無いと思ったからだ。ただそこで俺はアイナ達の方に顔を向けてみるとその話を肯定するかのように真剣な顔でこっちを見てきたのである。

「もしかすると、そのダンジョンの中にいる奴がこの騒動を引き起こしている犯人ってことになるんじゃないか?」

俺はアイラに向かって問いかけてみたが、その問いに対する答えはすぐに帰って来ることはなく、少し間をあけてからようやく彼女の口から言葉が紡ぎ出された。

「もしかするとそうかもしれませんね。それに、そうであれば。ここで戦う必要はありませんし、今すぐ逃げるべきでしょう。ですがそうなった場合の対策はしっかりとしておかなければいけませんけど。でももし、このまま戦った場合には、負ける可能性が高いですね。その場合の対処方法などについても一応考えておいた方が良さそうだと思いますよ。それと、タックさんの実力でしたら、あの方々が出てきていなくとも倒すことはできると、私は考えていますがどうでしょうか?もちろん、もしもの時のための保険としては用意しておくべきなのでしょうが。今から準備しておいた方が良いかと思いますよ」

俺達が話し合っている間、他の人たちは何もすることなく、じっと待っていた。すると俺が話しかけてきたのでどういった用なのかときかれてしまう。俺はダンジョンの件でここのダンジョンマスターの使いが来て俺が話したいことがあると言っていると伝えると、みんなが話し合いをしている最中に俺達は外に出ることになったのである。

俺はその前にまず、アイリに声をかけることにした。なぜならアイリがあの男と会っていないかを確認しておく必要があったからだ。

「アイリ、ちょっとだけ聞きたいんだけど。いいかな?」

「はい?なんですか?何か問題でも起きたのでしょうか?もし、そうならすぐに助けに向かいましょう!それとも私の助けが必要になります?」

アイラがなぜか、嬉しそうに俺のことを見ている。そしてなぜかわからないがサーニャはアイリの側に近づいていき、頭をなでながらアイリを抱きしめている。そしてなぜかアイナまで一緒になって、3人で楽しそうにしている。そんな彼女たちを見ながら、俺はどうしてこうなったのだろうと頭を抱えそうになる。そして俺はそんなことよりもまずはアイリスの事を聞くために、彼女について知っていることがあるかを聞いてみる事にしたのだった。すると、意外な事実が発覚する事となったのである。それは彼女が、ダンジョンの中で出会った時に、何か不思議な気配を感じると話してくれていた事だった。その話を聞いた俺はもしかしたら、アイカのことかもしれないと思い彼女に質問をしてみる。すると案の定彼女はアイカを知っているようで、名前を出した時にすごく驚いた表情を見せたのである。俺はそれから詳しく事情を聞こうとしたのだがアイリに止められてしまい詳しい説明を受ける事はできなかった。

そして俺がダンジョンを出ていこうとすると何故かアイラやサーニャが付いてきて。そしてアイナまでもついてきている。俺はそのことに不思議に思い聞いてみると。

「えっとですね。私がタックさんに頼んでみて欲しいと言ったんですよ」そう言い出したのだ。俺は、その理由を知りたかったがとりあえず後回しにしてアイリが何か言ってくるのではないかと、そちらに視線を向けると少し不安げな様子でこちらを見てきていたが、特に何も言うことはなかった。

俺達は、ダンジョンの外に出る前に装備を確認することにしたのだ。そしてその時に気付いたが、俺のレベル上げのおかげもあって装備品も一新されていた。だから確認のためにも装備の変更を行っておくことにする。そうすると、新しく生まれ変わった装備は以前と全く違う見た目になっていて性能の方も大きく変わっていた。それは以前のものとは全く別物に思えて、もはや新しい装備を買ったのかと思ってしまうくらいだったのだ。そしてそんな事をやっている間に他のメンバーたちはすでに外へ出る準備ができていたみたいだったので、俺もそれに合わせていく事にしたのだった。

そして、俺達が地上へと出ようとする前に、その異変には直ぐに気づくことになったのである。

俺は地上にでるために扉を開けるとそこは森に囲まれた場所で目の前に巨大な塔が立っていたのである。

俺達はその事に驚いて固まってしまっているとその建物の中に入って行ったのだが、その建物は外から見ていたより広く感じる構造をしていた。

俺はその事を疑問に思ったが。とりあえず先へ進もうと奥へと進んでいくと。その途中に複数の敵が現れたのだが、先程の魔物とは比べものにならないほど強かったので俺は苦戦を強いられることになってしまう。

「ここは任せてください!私の魔法で一気に蹴散らしてしまいますよ!」

すると、アイナはそう言って杖を構えると詠唱を始めていくと。俺の後ろで待機しているアイラが俺に向かって注意を促してくれたのだ。

「あ、あのですね。あの人は魔法使いの中でも有名なあの有名な人なんですが、あまり魔法を使いすぎると魔力が枯渇しちゃう可能性があるんです。ですので魔法を使う時はなるべく温存した方がいいと思うのですが。まあ、そんな事言ったら魔法自体を使わないようにした方がもっと効率が良いわけなんですけどね」

そんな事を言いながら笑っている。俺としてはそんなアイラの話が本当なのかどうか気になったのであるが、実際に魔法の効果が発動されると俺の目の前にいる敵の集団を瞬く間に全滅させてしまったのだ。

そして俺は改めてアイリの力の凄さを知る事になった。しかし、それと同時に、俺の能力がどれだけ低レベルかと言う事も実感させられたのである。そのことに俺はとても落ち込んだのであったがそんな暇もなく次々と魔物が現れたため。俺とアイアは必死になって魔物を倒していった。するとそこでアイリスとサーニャが合流し、アイオのパーティーメンバーであるニーナも一緒に合流してきて俺の仲間たちとアイリアのパーティメンバーが合ってしまったのだ。そして俺達はお互いに挨拶をしていくと、それぞれの自己紹介が始まったのである。俺も自分の名前を名乗っていき、そしてサーシャに会った時に感じた事を説明すると、やっぱりという反応が帰ってきた。どうやら、彼女はアイリスの妹でアイリアの仲間の一人らしい。その事からアイラスの時と同じように、彼女の仲間と俺達は合流する事になると。アイリスの案内に従って移動を開始したのだ。俺達は、道中に出てきた魔物たちを倒していった。

アイリスの話によるとこの階に存在するダンジョンボスがアイオの言っていたダンジョンの主だという事で。この階に存在する全ての敵を一人で倒していってしまうくらい強い相手なのだという事を教えてくれる。するとそこでアイナがある事を話し始めた。それはそのダンジョンの主が人間ではなくて。別の種族が姿を変えて存在しているのではないかというものだったのである。

そのことについてアイナスが話し出す。その話はアイナス達の一族に伝わる昔話で伝えられてきた話であり。その内容について話してくれる。それは次のようなものだった。

昔々、一人の青年がこの世に誕生した。しかし彼は生まれてすぐに両親の手によって育てられることはなかったのである。なぜならば、この世に生まれた子供は全て精霊王の元へと連れていき育てなければならないことになっていたからだ。そして、彼の父親に当たる人物は、彼を精霊王の元へと連れて行こうとした時にとある事件が起きてしまう。それは彼を連れて行こうとする最中に、彼が突如として姿を消したのだ。そのため、母親は慌てたがそれでも急いで捜索隊を出して彼を探し回っていた。そしてしばらく経った頃に、森の中にある小さな村を見つけることができたがそこにいたのはなぜか血だらけで倒れている女性の死体だけで他に生存してる者は誰一人として存在しなかったのである。

それからというもの、母親と父親が二人で子育てを始めたがやはり育児が上手くいかずに、何度も手をかけようとしてしまったのだという。

それから数年が経過してからある男が母親の家に訪れることになる。それがその当時精霊王が統治していた国の大臣だったのだ。その男は当時国の中で問題になっていた事柄について相談したいと言って訪ねて来たのだという。すると、父親はそんな事は後で良いからまずは自分の息子を探すのが優先だと怒りだす。そのことに男は謝罪すると、この国で一番信頼の置ける部下を集めて探すように指示をしたのだった。しかし、この国にはいないのではないのかと考えるようになり始めており、この世界にいるはずもないと思っていた。なぜなら、赤ん坊を誘拐するのは罪になるためそのような行為をする輩などこの世界には存在しないからなのであった。そして、男の部下が捜索範囲を狭めていこうと決めた時に、一つの噂が彼らの耳に入ってくることとなる。それは、ある街に魔王が誕生したという噂だったのだ。男はそのことに驚きすぐに調査をするよう命令を出したがその結果としてわかったことは、どうやら、その男の娘である事が発覚することになる。だが彼女は普通の状態ではなかったというのである。なぜならば彼女の姿は本来ならばあり得ない状態になっているからだった。その容姿というのは人間のものではなくなっており、しかもなぜか角や翼なども生やし始めている状況だったのだ。そしてそのことから男は彼女が悪魔に取り憑かれたのだと考えるようになった。

そして、男の決断により彼女は隔離施設に入れられることになり。そこで厳重に守られていく事となり、男の娘が悪魔の生まれ変わりだという噂が流れ始めるようになる。そしてそのことに対して誰も異論を唱えることはなく、誰もがその話を信じるようになるのは当然のことだった。その話を広めたのは、実は男の上司にあたる人物であり。それを聞いた男が激怒していたという話が語り継がれることになる。

そのことで娘の存在が世間の目に晒される事がなくなった。そして数年後、今度は勇者を名乗るものが姿を現して、各地で暴れ始めたのだ。それを止めた者たちがいた。それが精霊王の子供たちで彼らは自分たちの力だけでは止めることができずに、結局は他の世界の者に助けてもらうことになったのである。

それから、勇者が封印されると同時に魔王が現れ。そして勇者が復活したことによって再び戦いが幕を開ける。

そんなことが言い伝えられていたのだそうだ。

俺はそこまで話を聞いた後に、少し違和感を感じたことがあった。それは精霊王の子供という言葉についてで、普通に考えるとおかしいのではないかと感じたからである。なぜならば精霊の王がこの世界を管理しているという話を聞いた時に、神よりも上の存在であると考えていたのだが。それと、俺の頭の中にアイリの姿が浮かんできたのだ。だから俺は精霊王についても何か秘密が隠されているのではないかと思いアイリスたちに尋ねてみると彼女はこう答える。

「はい。私たちは精霊の力を宿した存在です」

「ん?どういうことだ?」

俺はよく意味が分からず彼女に質問したのだ。

「そうですね。つまり私達は元々は同じ一族だったんですよ。だけど、色々とあったらしくて今では別々の場所に別れてしまったんです。それで私たちの一族には様々な特徴が受け継がれていくんですが。その中に魔法に長けた一族のものもいれば武術に特化してるものもいる。そして、私たちの場合は魔法に特化した者がその能力を受け継いだって訳なんです」

そう言い終えると俺の方を向いてくる。

「えっと、まあ、そういうことなので。あまり詳しくは説明できないのですけど、私は魔法の扱いが得意なのは理解できましたか?」

その言葉を聞いてアイラの表情を見ると納得できていないような顔を浮かべていた。

しかし俺はそれよりもアイリスが口にした内容が引っかかり。

「じゃ、じゃあさ。お前が言ってたことは本当の事なのか?」

そのことについて確認することにしたのである。

「う~、はい、その通りですよ。私が嘘ついてると思うのなら魔法を使ってみてもいいですし、他の人に聞いてもらっても良いので確認して下さいね」

俺はアイリスの答えを聞くと。とりあえず試しにアイリアに向かって魔法を発動してもらうように頼んでみた。するとアイリアはすぐに魔法を使い始めて目の前に炎が出現する。俺はそれに驚いてしまうと、その様子を見たアイリアが微笑むとこう告げてくる。

「これがアイリスの言っていた魔法よ。この魔法の発動条件は呪文詠唱と魔法名を言えばいいんだけど、今は詠唱破棄しているわよ。でもあなたも魔法を使おうと思えば使える筈よ。ただ魔法名さえ唱えることができれば問題ないんだから」

俺はその話を聞きながら確かにそうだと思った。魔法を使えない俺にとってみれば詠唱ができないと魔法を使うことができなくなると聞いた時は本当にそうなのかどうか半信半疑だったが、目の前に魔法を見てしまうと。もう信じざるおえなかったのだ。そこで俺達は更に上へと目指していくと。そこでアイオが俺達の前に現れる。その時に彼が仲間と共にいたのだが、仲間のうちの一人であるアイオと同じ年齢の少年を見て。

俺はもしかしたらと思って、彼が勇者ではないかと思ってしまったのだ。そのことについて聞くと彼は驚いた顔をした後に俺のことをまじまじと見てきたのである。どうやら彼も同じことを考えたようで、俺が異世界からの転生者だということを説明すると、彼の方からも自分のことを語ってくれた。

彼はどうやら前世の世界で高校生をしており、そして学校帰りにトラックと衝突事故に遭ってしまったということだった。その話を聞いて、俺ももしかして同じように死んでこの世界に来たのではと思うようになったのである。そんな事を考えていると。彼がいきなり自己紹介を始めていき、そして自分の職業を明かしたのである。そして、彼は俺の姿を見て驚く。

そして俺も彼に見覚えがある事に気がついた。その事を告げると、俺のことを知っているみたいで、そのことについて話し合う事になったのだ。しかし、そこで突然現れたアイラスが俺たちに話しかけてくる。彼女は自分の父親に会いたいといってきて俺達はそれを止めるが。彼女はそれでも聞かずに無理やり押し切ってくると、アイオの父親に会わせて欲しいと訴え続けたのである。

その結果、俺は彼女の頼みを引き受けることにした。俺達は、俺の転移の魔導具を使用して一旦俺の城に戻るとアイオたちを連れて俺の部屋に向かう。アイラスに俺がアイオの父親であることを説明するとアイオと一緒にアイリスの元に連れて行ったのである。

それからアイオの母親に事情を話すとすぐに許可が出た。どうやらアイラスが必死になってアイオの父親に会うまで頑張ろうとしていたことが良かったようだ。そしてそのアイラスがアイオの父に抱きつき、泣き崩れたのであった。

そんな光景を見た後、アイオたちとの話が終わると今度はアイリスが、自分がアイナの姉であり精霊王でもあるということを伝えてアイナの居場所を知らないかという話になったのである。だが、俺達が知っている限りでアイナという少女の存在を確認することはできなかったので、申し訳ないと謝罪すると彼女達を安心させることに成功した。

その後、俺はアイリアやサーシャと別れるとサーニャと二人っきりになり一緒にこの階のダンジョンボスのところへと向かったのである。するとそこにはアイラスと、なぜかその仲間たちの姿があり、彼等はどうやら俺達の仲間になりたいという事をアイオに申し出たのだった。

そのことについて話し合いを行うことになったのだが、結局はその提案を受け入れることにして彼を含めたメンバーでボスを倒すことになったのである。そして、無事に倒すことに成功すると、宝箱が出現してその中からある物を手に入れたのである。それは精霊剣というものでどうやら装備することで身体能力が大幅に向上させることができる効果が付与された装備品だったのだ。

俺は早速それを装備した後ステータスを確認してみるとレベルが上昇していることが分かった。そして新しい称号を手に入れることも出来たので。俺達は地上に戻りこの階にあるダンジョンの出口を探し出すことにする。すると、俺達はこの階にあるはずのない場所を見つけてしまい。その場所とは、ダンジョンの出口ではなく隠し通路だったのだ。

そしてその奥にある扉の前に行くことができたが、扉を開けることができなかった。なぜなら、鍵穴がついており、そこに何も入れずにいたからである。そんな状況の中。俺は先程入手した精霊剣を使ってみると、すんなりと開くことが出来たのだ。そのため中に進入することにも成功したわけなのだが。中に入ってしばらくすると、何者かによって襲われる事態になってしまったのであった。そして、襲ってきた相手の正体が分かった時、俺が思ったことは一つだけあったのだ。

「くそ、こんなところにも魔王が待ち構えていたなんて」

そう呟きながら、俺に攻撃を仕掛けて来た相手と戦うために俺は聖剣を手にする。それから、相手がどのような能力をもっているのかを俺は鑑定眼をつかい見てみることにしたのだ。そしてその情報を見て俺は愕然としてしまう。なぜならその相手の能力はあまりにも強大だったからなのである。俺は心の中で魔王の強さを思い知らされてしまった。そしてその魔王の見た目というのは人型のようだった。そして魔王は両手に武器を持っており、右手に斧を持っていることからその正体が何となく予想できたのだった。それは魔王の名前を見るだけで分かることだったので。

【名 前】

魔王ベルゼブア 年齢 不明 種 族 魔王 Lv 1028 攻撃力 453600(4800000)防御力 348500 敏捷性 209900 魔攻力 443000 知力 229901 幸 運 152496 固有技能 完全解析 全言語翻訳可能 剣術 格闘術 威圧 暗黒 恐怖 物理攻撃無効 魔法耐性 自動修復 超回復 即死回避 精神攻撃完全防御 状態異常無効化 全属性魔法使用不可 魔力増幅Lv7 気配感知 空間認識 未来予知Lv5(MAX!)

etc. 魔王は圧倒的な強さを誇っていたが、それ以上にそのステータスの高さと種族の部分に注目することができた。その種族というのが俺にはよく分からない部分もあったが。それは、どうやら人間ではないみたいだった。それはおそらく、あの魔物の魔王だと思っていた存在だった。つまり、あの魔王は本当に人間だったと言うことが分かってしまうが。それは俺が倒した時にすでに知っていたことだ。しかし実際に目にしてみて思うのだが、改めてその脅威さを知ることとなったのである。しかも、その実力はかなりのものだろうと思われる。


そんな事を思っているうちに俺は戦いを開始しようとした。その時に、なぜか魔王の動きが一瞬鈍ったように見えたのだ。しかし、それはただの見間違いかもしれないと思いながらも俺は魔王に向けて切りかかろうとしたが、それは不発に終わり俺は壁に吹き飛ばされてしまう。


「なっ、どういうことだ?今確かに見えたはずなのに」


俺はそう思いながら魔王の攻撃を受けて体勢を立て直す。しかし魔王の攻撃速度はかなりのものだと思うのだがそれをなんとか避けることしかできなかった。俺は攻撃をかわすと反撃するためにスキルを使用した。しかしその攻撃さえも防がれてしまうのである。


その瞬間に俺は確信した。これは、俺の攻撃を完全に見切っていると、だから、いくら戦っても勝機がないと思わされてしまったのであった。


「ちくしょう」俺がそういうと俺は聖剣に全ての魔力を込めて魔法を発動することにした。そして、俺はありったけの魔法をその魔法に乗せたのである。


「はぁー!!!!!」


俺はそう叫ぶと同時に、目の前にいる魔王に対して魔法を発動したのである。すると、俺の視界に大量の魔法陣が展開されていき。それが一気に魔王に向かって放たれていくのである。俺はその魔法陣を見て勝利を確信したが、その魔法はあっさりとその魔王によって相殺されてしまう。そして魔法による攻撃が終わってしまった直後、俺は、再び同じ技を繰り出そうとするが、その時にはもう手遅れだった。俺の体が動かなくなってしまったのである。そんな状況でも、どうにかして逃げようとしたが。その抵抗も虚しく俺が動けなくなってしまっていると。その隙に近づいて来た相手に、俺の首筋に手刀を振り下ろされ、意識を失ってしまったのだった。


目が覚めると、そこには、あの時の黒いローブを着た女性がいたのだ。そして俺は、すぐにここに連れてこられた理由が何かを聞き出したが、それに対して女性はこう答えた。


『あなたにはこれから、私の奴隷として生きて貰います』と言ってきたのである。その言葉を聞いてすぐに俺が反論しようとすると。そこで目の前に魔王が現れて俺のことを指差してくると俺の中に何かを流し込んできたのである。そしてそれと同時に体に力がみなぎってくるのを感じ、それから、今まで経験したことの無い程の痛みに襲われると。次第に俺は気絶してしまったのだった。


それから目をさますが目の前が真っ暗であり何も見えなかった。俺はどうなったんだと混乱していると誰かの話し声のようなものを耳にすると俺はそちらの方向に向かうと、そこにはアイツと女性が立っていた。そこで俺は気がつく。俺の視界に写るものは、アイツが持っていた鏡だったのである。俺はその鏡を見るとそこには見慣れた姿があった。俺はそこで、ようやく自分がどうなっているかを理解する。


どうやら俺は、あの女の手下にされたようだった。そしてアイリスたちは、魔王の手下の手に堕ちてしまっていたのだ。だがここで疑問に思ったのはアイリスとサーシャの二人だった。どうやら彼女達はすでにこの魔王に屈服させられてしまっているようだ。しかし俺にはまだ余裕があり何とかできるのではないかと考えていたが。アイリスたちの話を聞く限りはどうやら俺に期待しているようなことを言っていた。


どうやらこの世界に来てからの俺の強さを知っているからこその言動のようで、俺が覚醒すれば必ず助けられると信じていたらしいのだ。そんな事を聞かされたせいなのか、急に恥ずかしくなり赤面してしまい。思わず、そっぽを向いてしまうと、魔王がそんな俺を見てニヤリと笑うのが分かった。そしてその直後アイリスとサーシャがアイリスの父と母を人質に捕られてしまいアイオやアイナと共に連れていかれてしまったのだ。


そして俺は、その場に放置されることになってしまう。


「くそ、このままでは、みんなを助け出せない。せめてこの視界だけでも元に戻ってくれたら助かるんだけどな」


俺は心の中で愚痴を言うと、俺はある方法を使ってこの状態から抜け出すことを閃いた。それは先程魔王が使った力を利用する事である。


それから、俺が自分の姿を映し出すために魔法を使用すると。その魔法の効果は見事に発動したのだ。


俺がやったことは、自分の体の一部を変化させたことだった。


その結果、俺はこの部屋の中にあるものを利用することでこの場を切り抜けることに成功する。その方法とはというか原理を説明するなら簡単で自分の身体の一部を切り離したわけだ。それから切り離した自分の体をその部屋にあるものに変化させて。俺の視界を確保することに成功したのだ。それに成功したあとで他の仲間達がどこにいるのかを調べようとしたら。突然扉が開かれて何者かが侵入してきたのだ。そしてその侵入者はいきなり剣で攻撃してきたので、俺もそれに対抗するように聖剣で受け止めたのだ。その人物のステータスを見ようとするがその人物は素早い動きで移動しているため、ステータスを確認することができなかった。それでも必死に応戦していたら。その人物は急に立ち止まる。


そして俺の方を見て剣を構えた。俺はその行動を見てから俺も戦闘態勢を整えてからその相手を見るが、俺が見たのは驚くべき光景だった。なんと、先程までアイツが着ていた服装をしていたのだ。そのため、俺も警戒しながら剣を構えると。その相手が、こんなことを口にし始めた。


「お前、まさか勇者か?」


その言葉で俺は、その人物が誰であるか理解できた。


なぜなら、先程、俺が確認した相手とは魔王の格好をしている相手の名前だったからである。俺はどうして、こんなところにいるのか問いただそうとするが、それよりも前に魔王に俺の正体がバレてしまう。


「貴様!!何者なのだ」


魔王は俺を指差しながら大声で叫んでくる。俺はそれに少しだけ驚いたが。それから、すぐに俺のステータスプレートを取り出し見せることにした。


「俺は異世界からやってきた」


俺がそういった瞬間に、魔王が動揺し始めるが、それからは剣を交えながら情報の交換をする。それから魔王を倒すために必要な情報を交換した俺はその情報を元に対策をたてるために。一度、その場を離れようとしたが、そう簡単に逃がしてくれる相手ではなかった。魔王の一撃をくらい壁に激突してしまう。


それから、俺は聖槍を構えながら、どうにかして魔王と戦うことを決意する。それから俺は、魔王と戦いながら少しずつ相手の実力を把握し始めるが。やはり魔王の攻撃にはなかなか対応できないでいると、その度に俺は攻撃を受けてしまう。そして魔王の一撃が、また直撃してしまう。


「ぐぅ、あぁーー!!!」


その衝撃は俺の全身に駆け巡り、俺は、そのまま地面に倒れ込んでしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ」


呼吸困難に陥りそうになるが、魔王の攻撃がまだ終わらない。魔王の攻撃はどれも必殺の攻撃であり。俺は回避することもできずに、受け身をとりながら回避行動を取ろうとするも。結局、それも無駄な抵抗にしかならず。俺にダメージが入るのであった。


「これで終わりにしてくれる」


その言葉を合図に、魔王は攻撃を止めて俺のところにゆっくりと歩いて近づいて来る。


そして、俺が倒れたところで、とどめを刺そうとしてくるが。俺にはもう聖剣を握る力すら残っていなかった。


「さようなら」


魔王がそう言って俺を殺そうとした時だった。俺は聖剣を杖のようにして立ち上がる。そしてその瞬間に今まで感じたことの無い力が溢れてくるような気がした。その力は俺の中に宿り始めて俺の中に新しい力を与えてくれようとしているかのようだったのだ。そんな不思議な感覚に包まれたと思った瞬間に、目の前にいたはずの魔王の姿はなくなっており目の前に立っている少女の姿を目にすることになる。俺は困惑するばかりである。そんな状況を打開すべく聖剣を振り上げると。俺は目の前の人物に斬りかかろうとした。


しかし彼女は攻撃をひらりと避けると後ろに下がってしまう。


そんな様子に違和感を感じていると俺の中から膨大な力を感じることができるようになると同時に俺の中の何かが変化し始めた。俺はその様子を目にするとなぜか嫌な予感を感じてしまう。それはまるで聖剣と融合しようとしているかのような感覚に襲われた。しかしそれは錯覚だと自分に言い聞かせるが次第にその感覚が強くなっていくのを感じてしまう。


「なんだこれ?これは聖剣と同化しようとしてるんじゃ」


俺がそう口にすると俺の聖剣から眩い光を放ち始めると次の瞬間には目の前にいる彼女の腕に突き刺さってしまった。


「あっ、やべぇ、ついやっちまったけど、まぁいっか」


俺がそう言うと目の前の少女の体が淡く発光しはじめると、そのまま消滅してしまったのである。


そして光が収まると俺の中に流れ込んでくる魔力の量が増えていたのだ。


どうやら俺は聖剣との一体化を果たしたらしく、しかも俺に新たな力を与えることに成功していたのだった。


俺は聖槍を構えると再び目の前に出現するであろう魔王に対して臨戦態勢をとる。すると、魔王が姿を現した。そして魔王の体は傷だらけになっていたのである。そして俺はその姿を見て絶句してしまう。何故なら魔王が傷を負っていたからである。魔王は俺の方を見ながら睨みつけると。


「お主。一体、どうやって妾の分身を消し去ったのか答えてもらうぞ!」


俺はそんな言葉を無視して魔王の方に近づくと、聖剣で斬撃を放った。その一撃を受けたことで、俺の力を理解したのか魔王の顔色が変わっていく。そして俺がもう一度攻撃しようとすると魔王はその一撃を回避すると、そのまま逃走を始めたのだ。そして、それを見た俺も追いかけるように追いかけるのだった。


俺達は、森の中を走り続ける。そして俺は走り続けているうちに自分の体に異変が起こり始めているのを感じていた。それは先程の聖剣との一体感と同じで自分がどんどん強化されているのがわかるのだ。そして俺達の間に会話は無かったが、魔王の方に目を向けると、かなり追い込まれていることが伺えた。そのため俺自身も焦っていたが。そんなときだった突如魔王の動きが止まったのである。そして魔王は俺の方を見ると、口元を緩ませていたのだ。そして魔王は両手を広げ魔法陣のようなものを複数展開するとそこから炎の矢が飛び出したのだ。俺もそれに対抗しようにも同じことをするが。どうにもうまく行かず、俺はダメージを受けてしまう。それから、何度も魔王は同じ攻撃を繰り返す。俺はそれに対して防御に徹していたのだが。とうとう、俺は追い詰められてしまうのだった。


「ふはははは、ここまでだな、覚悟はできているんだろうな?」


「はっ、ふざけんな、俺はまだまだ戦えるんだ、このぐらいどうってことねぇよ」


「そうは言ってられるかな?」


そう言い放った直後、俺に異変が起きる。それは聖剣が俺にさらなる力を注いでくれるかのように変化し始めたのだった。それにより俺の中で眠っていたもう一つのスキルに目覚めたのだった。それは勇者の持つべきスキルの一つ。《勇者化》という。それは一定時間の間、自分の身体能力を大幅に上昇させる効果があるらしいが。デメリットも存在するようで。それは制限時間があり過ぎるためにその間ずっと身体中に激痛が伴うのだった。だが俺はそのデメリットなど気にしてはいなかった。それどころではないのだから。俺がそんなことを考えてる間も魔王の攻撃が続いていたが俺はそれを軽々と避けていたのだった。そして俺は聖剣で魔王を切り裂いたのだ。


「ば、馬鹿、な。なぜ妾の攻撃を受けて平気で動ける?まさか、貴様本当に勇者か?」


「そうだ」


「な、ならば、今ここで決着をつけてやる!!」


俺は魔王の言葉を聞いてもなお、自分の限界を超えたスピードを維持し続けたのだ。その光景を見て魔王が動揺する様子が伝わってきたのだが、俺にはそんな事を気にしている暇はない。魔王の方へ近づいていき攻撃を仕掛けようとすると、魔王は慌てて俺に止めを刺そうとするが、俺の剣技の方が早く魔王の腹部を貫通させる。その痛みによって、動きが鈍った魔王の頭部に向かって俺は渾身の一撃を振り下ろす。


そして俺と魔王の戦いは幕を閉じた。しかし俺は聖剣の力を開放した反動でその場に倒れ込むことになるのだった。


***


しばらくした後に俺は目を覚ますと。そこには見覚えのある天井が見えていた。そうそれはいつも俺が生活している宿屋の部屋の中であった。


俺は不思議に思いつつも、部屋から外に出ることにした。それから俺は宿屋の受付に行き店主を呼び出すと話を聞くことにした。「おはよう、おっさん、なんか俺の泊まっている部屋に誰か入ったか?」


「なんだ坊主か?そんなもんお前しか入るわけがないじゃろ、それで今日は朝早くからなんのようだ? それとおっさんじゃなくて、オジサンと呼んでくれと言ったじゃなかろうが、まったく」


「いやいやいや、まだ20歳だよ俺、見た目がこんなだけど」


「ははは、そんな訳ないだろうが。俺より若く見えるのにそんな訳ないじゃないか、ははははは」


俺は店主の一言によりショックを受けてしまう。


しかし確かに俺の年齢よりも下に見えるはずなのだ。だって俺は童顔であり昔から子供扱いされてきたからこそ今の自分に不満を抱いていたのだ。そんな風に考えていた時に突然後ろから声をかけられる。


その人物は俺が振り向く前に背中から抱きしめてきたのだ。


「えへへーユウくんの体温かいね♪」


そんな甘えたような声を出す相手を確認すると、そこには綺麗に整った顔立ちをしている少女がそこに立っていたのだった。


俺は目の前の相手を凝視してしまう。なぜなら、その相手とは最近知り合った女の子であるルミナスという名前の子だったのだ。彼女は俺のことをなぜか気に入っているのか毎日のように会いに来るようになっていたのである。最初はただ、懐かれているだけだろうと思っていたのだが。それが最近では俺のことが好きだとまで言われるようになってしまうほどに気に入られていた。そんなこともあり俺自身も彼女に好意を持ち始める。しかし、俺と彼女ではあまりにも不釣り合いだったため、彼女を俺からは遠ざけようと試みるも失敗していた。


彼女は俺と仲良くなるための努力をすると言い出してしまい。俺の家に頻繁に遊びにきている。しかし俺はその度に困ってしまうのであった。俺が彼女といるところを誰かに見られたら確実に変な噂が流れてしまうからである。しかし彼女の方は俺の事情なんて知らないため俺の家に押しかけて来る。俺はそんな彼女が来る度に頭を抱えてしまっていた。

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異世界転生したけど勇者で平和に暮らしたいだけなんですが?!~ハーレム最強剣聖への道~ あずま悠紀 @berute00

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