クリームソーダと子持ちししゃも
高校生柳生
第1話
昼間の公園
遊具の前で一人で座る三十代ぐらいの男。
周りには体操着袋を振り回して遊ぶ小学生、砂場でおままごとをする幼稚園生、キラキラした光景の中で明らかに浮いている。
その男は側の自販機で買ったであろう缶ジュースを手にした。
最近はマスク生活で髭剃りをサボっているのだろうか、マスクを外すと無精髭が目立つ。
いや私生活で何かあったのだろう、肩を落として落ち込んでいる。
どちらにせよ平日の昼間から公園にいるような男はろくな生活を送っていない。
何の気なしに立ち寄った公園で負け組を見ると少し自信がつくような気がした。
自分も負け組であることには変わりないのに。
人は誰かを見下さないと自分を保てない。
「あいつは一生童貞なんだろうな」
思ったことを口に出して言ってみた。
スッキリした。
ふと目を凝らすと缶ジュースに書いてある文字が読めた。
"がぶ飲みメロンクリームソーダ"
疑念は確信に変わった。
勝った。こいつには勝てた。こいつは絶対童貞。
少し上機嫌になった僕はそいつを眺めていた。
しばらくすると小さな子供がその男に駆け寄った。歯も生え揃っていないその小さな口で
「あぁーあー」と発生した。
曖昧な発音、不安定な声、、、かわいい。
それにしてもなぜ浮浪者予備軍のような見た目の男に何度も話しかけるのだろうか。
耳を澄ましてもう一度聞いてみた。
すると「ぱぱ」そう聞こえた。
気のせいだろうか。
数秒後、1人の女性が近づき男に言った。
「ちかちゃん、もう遊具飽きちゃったみたいだから帰ろっか。」
理解が追いつかなかった。35年生きてきて初めての経験だ。思考停止。
脳がアイスクリームのように溶け出した。
今まで何も考えずになるがままに生きてきて処理能力の下がったこのあたまではりかいできなくなった
ん、あぁ、そうか
子持ち童貞か。
ようやく謎が解けた。
気づけば公園に来て四時間が経っていた。
帰り道に魚屋に寄り、店主に勧められた子持ちししゃもを買った。
すると店主は自慢げに豆知識を披露し始めた。
「昔からししゃもっていうのは人気でね。旬になると脂がのってて、特に子持ちししゃもなんかは昔から人気なんだよ。オスでも卵はないけど脂がのっててうまいんだよこれが。」
店主に乗せられてオスも買った。
また一つ知識が増えた、また一つ頭が良くなった、これで俺よりバカな奴が増えた。
今日はなんだか気分がいい。
買い物袋を振り回しながら両親の待つ家へと帰る。
クリームソーダと子持ちししゃも 高校生柳生 @kousei1115
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