この時間僕は、彼女のために。

ゆゆ

第1話 見失った現在位置

〈ご予約確定いたしました。以下詳細になります〉

〈5月24日、開始時間17時、みゆき様

ご利用エリア新宿、お待ち合わせ場所TOHOシネマズ前、120分コース

初指名、指名セラピスト ユウさん〉


〈ありがとうございます。〉


 何も考えていなかった。中学、高校と大人への歩みを進める中で周りはそれぞれ自分の道を手探りで歩き出した。小さい頃から見ていた将来へ歩き出す者、新しい自分を見つけそれに向かう者。それが‘‘普通‘‘といわんばかりに彼ら彼女らはとても輝いてみえた。

けれど、僕にはそれがなかった。向かうべき場所も、やりたいことや目標も何一つ無かった。

昔から大体のことは何でもそつなくこなしてきた。

手先が器用で運動もできて勉強も人に教えられるくらいにはできていた。

ただ‘‘それだけ‘‘だった。

僕はたった一人違うところにいた。


――2年後—―


改札を抜ける。出口へ向かって歩いた。

流行りのメイク、服装、一見同じような格好の女の子たち。

おそらくホストであろう。ブランドの衣服に身をつつみスマホを操作しながら人混みを抜けていく派手な髪をした男の人たち。大声をあげて盛り上がる若い人たち。

そこは様々な人でごった返していたが、その誰もが世間一般のいわゆる‘‘普通‘‘というものから少しずれているような、自分と何か似たものを感じた。

少し進んで階段を上がると外に出た。

人の流れに沿ってそのどこか違った町の中を進む。

16時42分TOHOシネマズ前。待ち合わせの時間にはまだ少しある。

ふぅと一息ついてGUUCIのショルダーバッグからタバコを取り出す。

事前に知らさせる相手の特徴とか合流後の流れとか出合い頭はどんな笑顔で迎えようとか、そんなことを思い浮かべながらがら空に向かって煙を吐いた。

17時00分。目を覚ましたかのように段々とにぎわいだす歌舞伎町。

流れていく人混みの中に彼女を見つける。

少し慌てた様子で周りを気にしながらこちらへ歩いてくる。

薄ピンクのコート、肩にかかるくらいの艶のある黒髪、目の少し上で切りそろえられた前髪を撫でながら少し恥ずかしそうに、そして不安げに彼女は口を開いた。

「あの、ユウさん...?ですか...?」

「はい、みゆきちゃんですね?はじめまして」

と僕はどこか優しい落ち着いた笑顔で少し大人っぽく丁寧に返す。

そして彼女の手を取って続ける

「今日会えるの楽しみだった。歩いてくるのすぐわかったよ」

「ほんと...?私こうゆうの初めてで会う前から緊張しちゃって、すごい周りきょろきょろしちゃって目立ってたよね」

少し話したあとまだ恥ずかしそうな彼女の手を引いてホテル街へ歩き出した。



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この時間僕は、彼女のために。 ゆゆ @yurapi0622

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