曼珠沙華
しらす
君への思いと曼殊沙華
空の青さも忘れるくらい 一面に広がる紅はただ眩しくて
川岸を埋め尽くすその華が 君の涙を見た日を呼び覚ました
君はまだ憶えているのだろうか あの日を
その涙は止まっているだろうか
暮れゆく季節のひとひらを 噛みしめるように咲いた 曼珠沙華
君が隠していた思いを知らずに ずっと笑っていた自分を
私はいつまでも忘れられないで
空の青さえかき消すほどに 私の全身を染め上げる紅の色
いつだって君と一緒だった 幼かった私の記憶を描き出す
君もきっと覚えているだろう あの日を
私が止められなかった涙とともに
暮れゆく季節のその中で 何かに負けまいと咲いた 曼珠沙華
君が何も言わずにいた季節を ただ一人こらえていた日々を
忘れてほしくて でも忘れないで
長いひととせのほんの一瞬 紅を広げ 私をかき乱す幾千の華よ
美しかった記憶の全てが あの日 天地と共に覆った
無邪気すぎる私を責めなかった君は
涙しながら微笑んでいた
暮れゆく季節を彩るように 凛と茎を伸ばして咲いた 曼珠沙華
君を初めて美しいと思った 愚かで盲目な自分を
それでも君には憶えていて欲しくて
空の色さえ褪せるほどに 一面に広がる紅にただ立ち竦んで
君と過ごした日々を数えた あの日から私は変わっただろうか
私はまだ忘れないでいたい あの日を
今になって同じ涙を流しながら
暮れゆく季節を知らせるように 今年も一面に咲いた 曼珠沙華
君と共にあった幸せな日々を 奇跡だったと知らせるように
何度でも思い出させてほしい
空の青さは見えなくなっても 地に広がる紅の季節は訪れる
君がくれた言葉と同じ色をして 鮮やかに ただ鮮やかに立ち並ぶ
何度でも思い出して 少しだけ涙しよう
いつか笑顔で語り合えるその日まで
曼珠沙華 しらす @toki_t
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