まず驚くのが、正確な科学的な考証に裏打ちされた異世界に関する考察であり、その異世界が「何」なのかという謎が物語をぐいぐいと引っ張っていく点です。
6進法、形態学、万有引力、緯度の割り出し方、火山からの年代測定、各地の神話など、著者の教養の広さと深さ、それを物語として落とし込める力量に脱帽です。
また、題材に東西世界をつなぐ要所であるアナトリアを持ってくる歴史的、地理的センスも素晴らしいです。読んでいる最中、イシュタルやアシェリアが確かにこの世界の延長として存在しているかのように感じました。
また、ファンタジー要素の設定も論理がしっかりと立っており、できることとできないことの境界が分かりやすく、想像力を掻き立てるものでした。
ただ、そうした点が垣間見え始めるのは10話を越えた辺りになるので、ぜひそこまで読み進めて欲しい物語です。
ヒロインのアシェリアとの関係性は古き良きセカイ系の系譜でありながら、圧倒的なファンタジーに対して現代の洗練された科学的知識で立ち向かう異世界の系譜でもあり、「イセカイ系」と呼称したくなる新しい物語を描けています。
序盤の異世界考証や中盤の異世界探訪、ラストの怒涛の展開も見事でした。
二組の男女の、出会いと別れと再開(会)の物語。
青年ヒカルは、夢を見た。神話と夢の不吉な叫び。
十和田湖畔から迷い込んだ異世界で、
ヒカルは見知らぬ人種と神の存在を知る。
その世界での神は、地球以上に人と親しんでいた。
出会った女神アシェリアの協力を得て、
その地を調べるにつれ、イシュタルと地球二つの世界の類似性に気付いて行く。
やがて繋がりゆく二つの世界。
イシュタルを巡り、強大な敵と、繋がった地球の人々の思惑、
神話と託宣の影を前にヒカルとアシェリアはどう立ち向かうのか。
二つの世界の創成の秘密に迫る意欲作。
量産され気味の最近のノリとはちょっと違う味わいをお求めの方はいかがでしょうか?