うまい棒チャレンジ

片葉 彩愛沙

うまい棒チャレンジ

 彼はぼんやりと上を眺めながらつぶやいた。

「もう少しシャキッとしろよ」

「いやだもん」

「何が『もん』だ。いい歳した男子が」

 そう言われながらも、俺はやる気が出ないでいた。

 寒くも暑くもない中途半端な気温では、妙に体が動かないというものだ。

 彼の手が俺の頬に触れてきた。ひんやりとして冷たい。

 何をするでもなく、俺たちはぼんやりしていた。

 彼が身じろぎして、「あっ」と嬉しそうに動いた。

「そうだ。ポケットにうまい棒があったぞ」

 と彼が差し出してきたのは潰れて粉々になったものだった。

「いらねー。口がパサる」

「そうか、ならまた腹が減ったときにでもするか」

 どこかで水滴が落ちる音がする。

「まあ」

 彼は俺を見ずに、まるで独り言つようにまた呟いた。

「明日には出られるさ」

 そう言って三日経っている。

 救助が来る気配はない。

 体感が三日だが、本当は一時間も経ってないのかもしれない。いや、もしかしたら逆で一週間くらい経っているのだろうか。

 俺たちは生きているのか、もしかしたらとっくに死んで幽霊になっているのか。


 わからない。


 うまい棒を食べたら、はっきりするかもしれない。

 でも、なんだか勇気が出ない。

 もっと死にそうになってから試すことにしよう。

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うまい棒チャレンジ 片葉 彩愛沙 @kataha_nerume

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