人権検定

西村洋平

第1話  人権侵害

この世界は、(人権)がすべてだ。

その日、国家は人権に関するシステムを大幅に変更することを表明した。

人権に1から10に分かれた級を設け、人権検定を合格することで合格証明書を得ることができ、その級に見合った待遇が今後約束される。

ただし人権級には1級ならば1年というように有効期限があり期限が切れると一つずつ級が下がっていき合計で20年で無人権者となり国家から排除される。

なお合格証明書を盗難した場合、その容疑者は人権侵害とみなされ前述した通りこれもまた国家から排除される。

そんなクソみたいなシステム。

誰が考えたんだか、そんないわゆるクソゲー。

「お前…いい加減受かなゃやばいんじゃねえの?」

「は…?」

「はってあれだよ。人権検定」

「有効期限…あと何日だよ?」

「一日」

「バカ。学校終わったらすぐ行くぞ」

「お前今5級だろ?この学校入学条件5級以上だったろ」

「え?あれって入学したらもういいんじゃねえの?」

「アホ。入学あら卒業までずっとに決まってんだろ。大体人権6級なんて小学生じゃあるまいし」

「はぁ…マジかよ…」

「それかあれか?またな~んか嫌なこと考えてんじゃねえだろな?」

「ちげえって…なんだよ嫌なことって」

「人権侵害、する気じゃねえよな?って聞いてんだよ」

「まさか…いくら俺でもそこまで落ちぶれちゃいない」

俺はやれやれといった風に両手を振った。

「だよな…じゃなきゃクラスメートやってねえっつの」

「友達だろそこは」

「お前ら~席座れ~」

勢い良く扉が開かれたと思うといつもどうり足の長い細身で天然パーマの教師が入ってくる。

ただ…今日は何か景色が違った。

「え~今日から新しくこのクラスに入ることになった、泉澤だ。みんな拍手」

その瞬間、教室の中にしーんと効果音が聞こえてくるかのような静寂が走った。

「お前ら…ちょっとは世辞ってのを覚えろ。大人は大変なんだぞ…昨日だって酒の席で…」

いつもどうり教師が屁理屈を垂れている中、その女子生徒泉澤は黙々と俺へと近づいてくる。

あれ?俺なんかこいつと接点あったっけ?

もしかしてなんかこれ漫画みたいな幼馴染パターン?それかばったり電車通学の時落とし物を拾ってくれたあの人パターン?

と思う間もなく、そいつは俺の横を通り過ぎていき俺の一つ後ろの席に腰掛けたのが音で分かった。

そうか…こりゃあ現実だ、そりゃあ俺は落とし物なんか拾ってないしましてや電車通学なんてしてないし幼馴染なんているわけもない。

「よーしお前ら、授業始めんぞー」

俺がそんなことを思っているといつの間にか周りの生徒のあやしが終わったのか授業が始まろうとしていた。

「先生ー泉澤さんの自己紹介が終わっていませんが!」

「あーそうだった。あれ?泉澤何処いった!?」

ようやくかといった感じで無能教師は周りを見渡していた。

「ここです」

渋々といった感じでそいつは少し間をおいて手を挙げた。

ため息も少し聞こえた気がする。

ため息は聞こえるとむずかゆくなるからどうせするなら俺のいないところでしてほしい。

「あーそこか。じゃぁ、前に出て来て自己紹介…は面倒だからそこで」

「分かりました…泉澤美玲です。どうぞよろしく」

「はい、拍手」

あのクソ教師は面倒くさいのかそれ以上は何も言わなかった。

「じゃぁー授業始めんぞぉー号令」

「起立、礼」

授業は普通に進み俺も陰気な転校生のことなんて、すっかり記憶の住みに追いやられていた。

「はい、今回は以上。号令」

「起立、礼」

授業は何事もなく終わり、いつもどうりの日々が続くと思った。

「日崎雄介くん、あなたには人権侵害の容疑がかけられています」

どうやら、俺の平穏な学生生活はこの瞬間唐突に終わりを告げたらしい。

心の中でそう…どこか他人事のように諦めにも近い感情を抱いていた…。

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人権検定 西村洋平 @gabigon

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