薄暗い森の中に時折差し込む陽射し

『金閣寺』三島由紀夫(新潮文庫)  


 興味を抱いて手に取る小説の中には時々読解力の希薄な読者を跳ね除ける作品があるように思います。現代の小説に慣れ親しんだ者には本作はやや難解の部類で、言葉の意味を探る段階で作者の声がどこからともなく聞こえて来そうな感じがしてなりません。


 お前ごときがこの小説を読み解けるのかと。


 そんな声と自分の読解力とが混ざり合って、何度か挫折しそうになったのも確か。まるでそれは薄暗い森の中をさ迷っているようで表現の仕方やすんなりと読めない漢字等々で足を止められてしまう。しかし、三島由紀夫の最も成功した小説で海外からも評価が高いとなれば一読する価値は十分にあるし、言い方を変えれば一読しておくべき近代日本文学なのだと眉間に皺を寄せながら文字を追いました。


 辺鄙な貧しい寺に生まれた溝口は金閣ほどこの世で美しいものはないと僧侶である父から聞かされて育った。何度となく聞くうちに頭の中で完璧な美として構築されていく。身体も弱くどもりということもあり溝口は皆にからかわれ極度の引っ込み思案になる。やがて父の勧めで金閣寺での修行生活を始めることになった溝口は実際に目の辺りにした金閣を見て、心に描いていたほど美しくないことを知る。


 それほど心象で築き上げられた金閣は美の極みでもあり、宛ら憑りつかれていたと言っても過言ではないでしょう。そんな金閣をどうして焼こうと決心したのか。その過程こそが三島由紀夫という作家の文才の妙でもあり、誌的でかつ精微な文体は脳に新たな刺激を与えてくれること間違いなし。


 読了した時にはきっと知らぬ間に唸り声が出てしまうかもしれません。

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ビブリオ📚レビュー ちびゴリ @tibigori

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