出会いと別れ

Azu Kian

第0話「彼女と出会って」

 噴火の傷跡がえるもなく地震と津波があった。相次あいつぐ天災で多くの人が困窮こんきゅうしている時に、まさしく追い打ちで人災におそわれた「戦争」だ。


 どこそこの海戦で壊滅かいめつしたらしいと不穏ふおんうわさが流れ市民の不安感が高まるなか、政府は首都防衛をとなえて引きこもった。


 地方の緊張がきわまりだした頃、港の沖合おきあいに船をつらねてバリケードにする自警じけいだんの活動に僕は参加していた。

 今から思えば無駄で無謀な事だったかもしれないが、何かしないとたまれなかった。



「おにぎり有りますよ食べて下さいね」

 港と沖を往復していると陸地にいても揺れている感じがするので、食事をくばっている人を見つけて声をかけた。


「薬ないかな頭がクラクラしてるんだけど」

い止めならありますよ」

 船酔いする人が多いらしく準備よくポケットから薬を出してくれる。彼女と初めて話したのはこの時だ。


「ありがと、360度回る体感ゲームよりひどい感じなんだ」

「あれって酔う間もなくぐ終わりますものね500円もするのに、上手うまいんですよ私」

 誰かに呼ばれてっていく彼女の後ろ姿を見ながら、僕が苦手にがてな反射神経のいるゲームの楽しかった一時ひとときを思い浮かべてとうとんだ。



 沖合の大きな船からボートに乗り移って港に戻ろうと準備していると、上からさわぎ声が聞こえだした。

 何だろうと顔を上げてみて漁船が近づいて来ていたのに気が付いた。

「お弁当の差し入れです。飲み物も持ってきました」

 薬をくれた達人たつじんな彼女だった。


 弁当を上に運ぶのを手伝ってから戻ろうかと立ち上がると、拡声機スピーカーさけびだした。

「すぐに陸にもどれ!船団がこちらに近づいている」

 作業していた人達が船を降りはじめた。僕は彼女に向かって叫ぼうとしたが、ボートごとほうり投げられた。


 救命きゅうめい胴衣どういのおかげか海上に浮かんだ僕は砲撃による水柱みずばしらを見た。


 彼女はどうしたろう転覆てんぷくした漁船が見える。そちらに泳ぐとオレンジ色の救命胴衣が目に入った。

 つかんで引っ張ると彼女だ運がいい!まだ浮かんでいるボートに向って泳ぐ、ここから離れないと助けられない。



 この辺りまでしか記憶が無い、横合よこあいから白い波を受けた時に気を失ってしまったのだろう。

 気が付くと見知らぬ所だった。彼女と二人の無事を喜びあったが、意図せぬ故郷こきょうとの別れに驚くことにもなった。


 ここから僕らの新たな日々が始まった。ここが、どこの宇宙いせかいかも分からなかったが。



〈この物語ものがたりはフィクションであり、実在じつざい人物じんぶつ団体だんたい事件じけんとは一切いっさい関係かんけいありません〉


 ☆

 ☆☆

 ☆☆☆


 本作に登場した二人の名前とその後が少しあかされてます。

 関連作「ようこそ我が艦隊へ!新入生の皆さん宇宙実習の時間ですよ」

 https://kakuyomu.jp/works/16817139555262222732

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出会いと別れ Azu Kian @sencyo

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