出会いは別れの始まり?

ぬまちゃん

突然の出会いと別れ

「あれー? もしかして、そこにおるんは野辺良さんやなぃかぁー」

「え、え! もひはひて、まひはん? なんへ、ほんははひょひ、ひるほ」


 学校帰りに、一人暮らしをしている祖母の様子を見に行くついでにご馳走になった夕ご飯は、自宅に帰る前に偶然出会った魔物を魔法少女のお仕事として退治してたために、彼女、野辺良華子のお腹の中からすっかり消えてしまっていた。


 そんな時、大通りで見つけた屋台の焼き鳥屋の美味しそうな匂いの誘惑に勝てなかった彼女。たまたま出会った焼き鳥屋の店主の息子、角川春樹が、いつもテストのヤマを教えている彼女の隣の席に座っているクラスメートだったこともあり、彼女は焼き立てほやほやの焼き鳥をゲットしていたのだ。


 すでに空腹の限界を超えていたこともあり、彼女は裏通りに面した夜の公園で焼き鳥をこっそりと食べ始めていたところ、新しく転校してきた関西弁の女の子、佐倉魔美に出会ってしまったのだった。


 * * *


 もぐもぐ、ごっくん。

 げほ、げほ。

 ぐびっ、ぐびっ、ぐびっ。


 彼女は、口の中に入っていたつくねの塊りを、公園の入り口で買ったペットボトルのホットティーで強引に胃袋に流し込んでから関西弁の彼女に向き直った。


「ごめんね、魔美ちゃん。何言ったのかわかんかなったよね。ところで、ど、どうして、こんな場所にいるの?」

「うちのことは、いいねん。野辺良さんこそ、公園のベンチでなにやってんねん? それ、やきとりちゃうの。家に帰ってたべたらええのに、なんで、公園で食べてるんや?」


 彼女は、食べかけのつくねを焼き鳥が入っている袋にそっと戻しながら、おどおどした調子で答えた。


「あ、あのさ。えーとさ。これはね。ちょっとお腹がすいちゃってさ。ひと串だけ、つまみ食い? ってやつ、かな。やってみたかったの。あのね、お願いだから。このことはクラスのみんなには言わないでね。あ、その、特に、角川君には絶対に内緒だよ」

「あー、わかってるねん。ウチもそんなヤボなこと、いわへんよ。男の子って、女の子が買い食いなんかせーへんと思ってるさかいね」


 関西弁の女の子は、頭をブンブンと大げさに上下に振る。


「そや、ウチがこんな時間に公園にいる理由やろ? 実は、おおさかから追って来た魔物を探してたんや。ウチ、ほんまは魔法少女とかなんよ。これ内緒やで。クラスのみんなには話さんといてな」


 関西弁の彼女は、ベンチに座っている彼女に向かって自分の人差し指を口に押し当てながらいたずらっ子のようにウインクをする。 

 そして、ふと思いついたように彼女が持っている焼き鳥の袋の中から、焼き鳥を一串取り出す。


「え! うそ」


 関西弁の彼女の突然の行動に、ベンチに座ってた彼女は思わず腰を浮かし右手を出して声を上げる。


「おいしそーな、焼き鳥やねー。野辺良さんが美味しそうに食べてるの見てたらウチも食べとーなったわ。なあ、口止め料として一本もらってもええやろ?」


 関西弁の彼女はデヘヘと目じりを下げる。


「う、う、うん。そーね、仕方ないわね」


 浮かした腰をベンチにドスンと下ろして、空を掴んでいた右手も落胆気味に膝の上に戻してから、一呼吸置いて悲しそうに応じる。


 ネギま、ネギま、ネギま。取られちゃった。せっかく最後まで取っておいたのに……


「ほな、ウチはコレで帰るわー。焼き鳥ご馳走さんなー」


 関西弁の女の子は、取り出した『ネギま』をメトロノームのようにフルフルと左右に振りながら、ベンチに座って唖然としている彼女を置き去りにして、陽気に公園から去って行った。


「あー、あのネギま、最後に食べようと思って残しておいたのに。なんて悲しい別れなのかしら。やっぱり大好物は最初に食べちゃうのが正解だったのかな……」


 ベンチに一人残された彼女の背中には、別れたモノへの悲しみに打ちひしがれる彼女の悲壮感が滲み出ているのだった。


(了)

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